223 優しい人
前半は信くん視点、後半は奈留ちゃん視点に戻ります。
僕は大体のことを奈留さんに話した。
一応、夕闇くんのことと、信くんの名前、あと僕の最後のことは少しぼかして話したが‥‥。
やっぱり、自分自身で口に出していうと、色んなことを再認識して、辛いな‥‥。
でも、奈留さんには聞いてほしかった。
奈留さんは‥‥今世での、大切な人だから。
僕の‥‥‥‥過去の私、祈実のことを‥‥。
奈留さんは驚いた表情で固まっていている。
奈留さんも、こんな話を聞くとは思っていなかったんだろうな‥‥。
「それで、僕は友人と弟を守れなかったことに、ずっと自分自身が嫌になったんだ。 こんな最低な人間、奈留さんも嫌だよね」
自分のことだけで、なにも変わろうとしなかった人間なんて‥‥。
きっと奈留さんは僕の立場にいても夕闇くんたちを変えたりできたんだろうな。
僕は何も‥‥‥‥。
「‥‥え、全然嫌じゃないよ?」
「え?」
一瞬、奈留さんが何を言っているのか、理解が追い付かなかった。
「というか、それは信くんが優しい証拠だよ! 優しくなかったらそんな風に考えないもん」
「いや、でも‥‥」
「初めはどんな犯罪を犯したのかとヒヤヒヤしたけど、やっぱり、信くんは優しい人だね」
◇◆◇◆◇◆
私は信くんの話を聞いたとき、正直に言うと拍子抜けした。
いや! 別にその弟さんとか友人のことを言っている訳ではなくて、信くんが何か悪いことをしていて、後悔しているような感じだったから、そこが拍子抜けしたということだ。
でも、信くんのせいじゃないと言っても、たぶん信くんは認めないような気がしたから、私は優しいね、と言うことにした。
実際、自分には関係ないと思う人や、徐々に忘れていく人だっているはずなのに、信くんはその二人のことをずっと想っていたってことでしょ?
そんな信くんを最低だ、何て思う人はこの世に存在しないと思う。
「でも、信くん。 きっと弟さんや友人の人だって、信くんがそんな風に自分を責めてほしくないはずだよ。 逆にもっと幸せになってって思うもん」
「そんなの、わからないよ‥‥」
普通ならそうかもしれないけど、私にだって前世の体験があるのだ。
弟さんや友人の気持ちは痛いほどわかる。
「‥‥わかるよ。 私、偶然にも前世はその友人の人と同じような感じだったんだよ」
「え‥‥奈留さんが?」
「うん‥‥。 だけど私が死んで、誰かが苦しんでいたらそれは嫌だよ。 やっぱり幸せになってほしいと思うんだ。 それはきっと弟さんや友人だってそうだと思う。 だから信くんはその二人の分まで幸せになろうよ!」
「‥‥‥‥何でだろう。 なんだか本人に言われているみたいだよ‥‥。 そうだよね‥‥‥幸せに生きる‥‥べきだよね」
そう言う、信くんの表情は、先程とは打って変わって、晴れやかな表情をしていた。




