222 過去を語る
水族館を回り終えた私は、兄さんにお土産を買って帰ろうか、凄く悩んでいた。
う~ん、買いたいけど、二人で行ったって知られたら何て言われるか‥‥うん、なにも買わない方がいいかもしれない!
蕾ちゃんと入場券をくれた由南ちゃんには、ちゃんとしたものを買おうかな‥‥。
「信くんは祈実さんに買って帰るの?」
「‥‥」
何だか、迷子の男の子と別れたあとから、少しなにかを考えるて、ぼーっとしていることが多くなった。
本当にどうしたんだろう‥‥。
「信くん?」
「え‥‥あ、うん。 きさねぇにも可愛いストラップみたいなものがあれば、買って帰ろうかと思っているけど‥‥。 でも奈留さんの意見も聞いてみたいな」
「わ、私の意見なんて参考にはならないと思うけど‥‥。 でも、うん、一緒に決めよっか」
一緒に見て回る方が、色んなことを話せるかもしれないしね。
「ありがとう。 奈留さん」
こうして、二人で和気あいあいと、魚のキーホルダーやお菓子などを選ぶことにした。
◇◆◇◆◇◆
お土産を選んだ私達は、少し遅くなったが、昼御飯を食べるため、近くのレストランに来ていた。
もちろん、信くんと二人きりで向かい合って座っているので何だか妙に恥ずかしい‥‥。
「信くん、水族館、楽しかったね」
「そうだね。 また二人でこれたらいいね」
二人で!? いや、別に信くんはただ友達と遊びたいっていうだけだろう。
ふ、二人では、もう恥ずかしいので出来れば他に人がいてほしいところです‥‥。
でも、二人で回るのも楽しかったし‥‥。
「ま、また機会があれば‥‥」
「そうだね。 機会があれば」
こんな曖昧な返事しか言えないとは‥‥友達としてどうなんだ‥‥。
というか、この前の旅行から本当におかしいぞ私!
信くんが前世の祈実さんに似てるとか、同じような境遇だったから、嬉しかったとか、そういうのはあるけど、信くんは信くんなんだから!
「そうだ! 信くんは他にいきたい場所とかってある?」
「う~ん、星をみたいから星の綺麗な場所。 もしくはプラネタリウムとかかな」
あ~いいかもしれないなぁ。 私、ちゃんと星を見たことないし。
プラネタリウムも綺麗だよね。
「奈留さんは何処か行きたいところとかある?」
「そうだなぁ‥‥‥‥あ! 桜を見に行きた‥‥」
「え‥‥桜?」
信くんはとても驚いた表情でこちらを向いていた。
そうだよね、今は行けないもんね。
「あ、いや、この時期に桜はないよね。 何だかいつもお花見とかしたいなぁ、とは思っているんだけど、その時期になると忘れちゃうんだよね」
「そ、そうなんだ‥‥」
その後、信くんの顔は少し悲しそうな表情になった。
わ、私の言ったこと、そんなに変だった!?
それはレストランを出た後も、信くんは暗い表情だった。
◇◆◇◆◇◆
帰り道を二人でトボトボと歩く。
レストランの所から会話はなく、水族館にいたときとは明らかに違う。
私はその空気に耐えきれなくなり、信くんにどうしたのか聞くとこにした。
「ねぇ、信くん、さっきからどうしたの? 私何か悪いことしちゃった?」
「え? いや、そういう訳じゃ‥‥」
「じゃあ、なんでそんな悲しそうな顔してるの?」
「そ、そんな顔してた? あはは‥‥僕は大丈夫だから」
信くんは、誤魔化しているようで、でもまだ悲しい顔のままで、私はなにか悩みがあるなら助けてあげたいと思った。
「ねぇ、信くん。 私、信くんのことは大切な友人だと思ってるし、何か悩みがあるなら私も一緒に考えたいよ」
信くんは立ち止まり、黙った。
そして数秒後、ゆっくりと信くんの口が動いた。
「‥‥‥‥昔のことを思い出しただけなんだよ」
ここでいう昔は前世のことだろうか?
「前世のこと?」
「うん‥‥‥‥奈留さん。 場所を変えようか」
◇◆◇◆◇◆
近くの公園のベンチに座った私と信くん。
私は信くんが何かを話すのをじっと待っていた。
「奈留さん、僕が前世のことは曖昧にしようって言ったの覚えてる?」
「うん」
「あれはさ、僕が言いたくなかったからなんだ。 本当のことを言いたくなかった。 自分がどんなに最低な人間か‥‥あと、あの悲しかった記憶を思い出したくなかった。 そんな前世のことを奈留さんが知ったら、関係が壊れるんじゃないかって」
壊れるのは嫌だ。
でも、私は‥‥。
「それでも、私は信くんのことを知りたいよ。 それに私はどんなことでも幻滅したりしないよ。 信くんは友達だもん」
信くんはまだ迷ってるようだった。
私は迷っている信くんの手を優しく握った。
なんで、手を繋いだのかは自分でも無意識だったのでわからなかったが、たぶん勇気を出してほしかったからかもしれない。
そして、信くんは覚悟を決めたように、深呼吸をした後、重い口を動かした。
「うん‥‥わかった」
信くんは、こうして、前世のことを話始めた。




