215 ありがとう
「じゃあ、そろそろ仲間外れも可哀想だし、兄さん呼びますね」
たぶん兄さんも待ちきれなくて、うずうずしている頃だと思うし。
「あぁ、いいぞ。 さっきゲームしたときも、結構仲良くやってたからな。 こっちの陸とも相性が良いんだろうな」
「根本的な部分は変わってないからね。 じゃあ呼びますね、兄さ───ん!」
───ガタンッ!
呼んだ直後、大きな音がリビングの方から聞こえてきたんだけど、大丈夫だろうか‥‥。
「───呼んだか!?」
勢いよく入ってきた兄さんだけど、別にそんなに急いで来なくてもよかったのに。
「う、うん‥‥呼んだけど‥‥」
「夕闇兄、さっきの音なんだ?」
なんか兄さん、凄く痛そうな顔してるし‥‥。
「椅子に小指ぶつけて、転けました‥‥めっちゃ痛い‥‥」
え‥‥。
「それで、転けたって、お前ダサすぎないか? なぁ、夕闇───」
「た、大丈夫ですか!? 兄さん、氷とかいります!? 病院とかは!」
もしなにかあったら‥‥。
「いや奈留、そこまでではないから病院は大丈夫‥‥。 でも、ちょっと氷で冷やしてくる」
そう言って兄さんは、また部屋から出ていった。
「‥‥なんか、過剰反応過ぎやしないか?」
「え? そんなことはないと思うけど‥‥」
「まぁ、別にいいけどな」
◇◆◇◆◇◆
その後、再度合流した兄さんと共に、隠蔽工作のためとはいえ、私の学校生活のことなどを兄さんに聞かれるのは少し恥ずかしかった。
何故か聞いてる兄さんはめちゃくちゃ楽しいそうだし。
「まぁ、今日はこのくらいでいいだろう」
「楽しい三者面談になりましたね」
楽しい三者面談って‥‥‥‥ただ一方的に詩唖先生が私の学校話を話していただけなんですが!?
まぁ、楽しかったのなら良かったけどね。
「詩唖先生、夕御飯一緒に食べます?」
「そうだな‥‥そうさせてもらおうかな?」
「はい、じゃあ私は夕御飯作りますので、兄さんたちはまぁ適当に時間を潰しておいてください」
「じゃあもう一度ゲームするか?」
「いいですね、やりましょう!」
こうして、夕御飯が出来るまでの間、兄さんと詩唖先生の楽しそうな笑い声が家の中で響き渡っていた。
◇◆◇◆◇◆
夕御飯のあと、三人で仲良く遊んでいたのだが、兄さんが少し疲れたのか、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。
ちょうど区切りも良かったので詩唖先生も帰るそうだ。
「じゃあ、帰るよ」
「はい、気をつけて」
別れを済ませて、こちらに背を向けて帰ろうとした先生が、何かを思い出したのか、こちらを向いた。
「あ‥‥。 ありがとうは言っといたから」
「え? あ、うん、わかった」
そういえば、私もまだ広葉にありがとうって言ってないや!
チケットのことちゃんと感謝しとかないと!
こうして、詩唖先生が帰ったあと、私は広葉に電話でありがとうと伝えた。




