213 こういう関係は‥‥
客間に行った私は、扉を閉め、座った広葉の方に振り返った。
「もう、来るなら言ってよ!」
「いやすまんな、偶然近くに来たものだから懐かしくてな。 まぁ、どっちの陸も急でも許してくれると思ったから来たんだが?」
別に怒ってはいないけど、急だと、もてなしたりだとか、今日だと私出掛けてたし‥‥。
もう、言ってくれれば早く帰ってきたのに!
「別にいいんだけど‥‥。 あ、一応、聞こえないとは思うけど、万が一に備えて、隣に兄さんいるから呼び方は奈留でお願い。 私は学校と同じ呼び方でするから」
私は小声で広葉に伝える。
「あぁ、バレるとめんどくさいからな」
広葉の方も同じ気持ちなのか、すんなり受け入れてくれた。
「じゃあ、詩唖先生。 今日来たのは、近くに来たからってだけ?」
「いや。 まぁ、先生としての用事じゃないけどな。 ただ感謝しとこうと思ってな」
「何か感謝されるようなことあったっけ?」
「旅行のチケット、余ったからって、こっちの俺、つまり年下の方の広葉が二枚くれたんだ。 あれ、お前が言ったんだろ?」
なんか言葉遣いが男っぽいけど‥‥まぁいっか。
そういえば確かにそんなことお願いしてましたね。
行く直前に高校生の広葉との電話で、余った二枚どうしようと言われたから、もう一人の広葉と花さんにあげてほしいとお願いしたんだった。
旅行前のことで、しかもいろいろあったので今まで忘れていたが‥‥。
「別に私の物じゃないわけだし、私にお礼はいらないよ?」
「まぁ、それでも蕾も久々に凄く喜んでたからな。 言いたくなったんだよ」
そうか、花さんが‥‥ならよかったかな。
高校生の広葉にお願いした甲斐があったってもんですよ。
「そっか‥‥‥‥あれ? でもあのチケットって先月までじゃなかったっけ?」
あのチケットは確か、プレオープン招待チケットだけど、もう旅館はオープンしているはずなので、プレオープンってわけじゃないし。
「そこは年下の俺が、旅館のオーナーの雪兄と交渉して、いつでも行けるチケットに変えてくれたみたいなんだよ」
高校生の広葉、優しい‥‥。
いや、いつもこんな感じか。 あまり表ではそういうところ見ないからね。
「それは、よかったね! あ、詩唖先生もオーナーのことは知ってるの?」
今世でってことは前世にも仲は良かったんだろうし。
「あぁ、小学生の時はたまに遊んでもらってたよ。 まぁ年下の俺とは違って、そこからあまり連絡はとらなくなったがな‥‥。 ま、その分沢山の時間をお前と過ごしたけどな♪」
そうか、その頃にはもう‥‥。
私のせいで広葉の交遊関係を狭めていたのかな。
「ごめんね?」
「なに謝ってんだよ。 俺はお前といる時間の方が大事だったってだけだ。 気にするなよ。 まぁでも本当にチケットに関しては本当に年下の俺に感謝だわ‥‥」
「そうだね」
これで、広葉と花さんは素敵な旅行が楽しめるだろうしね。
本当に言って良かったな‥‥。