203 その後ろ姿は
「まぁそんな感じで俺は福林さんのことを知ったんだ。 奈留に言えなかったのは止められてたからだ。 悪かったな」
そんなこと言われたら、なにも言えなくなるじゃないか。
「いや、別にそれはいいよ。 でも、何だか言われないのって寂しいな‥‥」
「別に、奈留とそのままの関係でいたかったから、言わなかっただけだと思うけどな。 俺だってたぶん付き合ってなかったら知らなかっただろうし」
そうなのだろうか‥‥。
「うん‥‥でも兄さんは納得したの?」
「いや、出来てない。 というか、離れても付き合い続けると思ってたから衝撃が凄い。 今俺、結構、凹んでる」
「まぁ、初めての彼女だもんね‥‥って、兄さん、さっきスルーしましたけど、告白の時、なんで、あんなこと言ったんですか!?」
妹みたいに接するようなことしか出来ないって‥‥。
「その時は、そう思ってたんだよ。 まぁ、初恋もまだだしなぁ」
あ、そういえばそうだった‥‥。
私も前世の初恋は祈実さんだし、高校三年で大分遅めだったんだ‥‥。
はぁ、これじゃあ兄さんのこと、強く言えないね。
「でも、凹んでるってことは、今は‥‥」
恋人として好きだったからってことだよね?
「いや、自分でもどういう感情なのかわからん。 恋人として別れるのが悲しいってことなのかもしれないし、妹みたいに思ってたから、いなくなるのは悲しいっていうことかもしれないし。 まぁこんな感情自体が初めてでよくわかってないんだよ」
私も確信をもって言えるほど、経験があるわけじゃないし‥‥というか私も全くない。
「別にそんなに深く考えない方がいいと思うけどね。 というか、まだ話すチャンスがあるなら話してみるべきだと思うな?」
「そう‥‥だよな‥‥。 連絡とってみる。 ‥‥ありがとな、奈留」
そういって兄さんは、ビーチから出ていった。
その時見た後ろ姿は、何時もの兄さんに戻ったように見えた。
「頑張ってね」
人生で励まされることが多かったので、励ますのはあまり得意ではないが、うまくできただろうか‥‥。
兄さんには幸せになってほしいからね‥‥‥‥もし、未練や納得が出来ていないのなら、それを無くしてあげたかった。
前世のことで未練がある私のようにならないように。
はぁ、でも小乃羽ちゃんがいなくなるのは寂しいな‥‥。
初めて仲良くなった後輩の女の子だし、凄くいい子だったということもあり、私は凄く好きだ。
このまま、小乃羽ちゃんが転校していくのを見ているだけでいいのだろうか‥‥。
いや、でも小乃羽ちゃんの気持ちを無視することもできないし‥‥。
「私も旅館に戻ろうかな‥‥」
私は悩みながら、旅館へと帰っていった。