202 兄さんは海を眺めながら‥‥
後半はお兄さんの視点です。
私は先程から、一人で海を眺めている兄さんをどうしていいのかわからず、その場から動けないでいた。
「なぁ、奈留? そろそろ出てきたらどうだ?」
に、兄さん!?
気づいてらしたんですか‥‥。
私は言われるがまま物影から兄さんの前まで歩いていく。
「い、いつから?」
「初めからだな。 俺が妹を見失うわけないだろ? ましては何処にいるなんて簡単だよ」
あ、そうですか‥‥。
頑張って隠れてたんだけどな‥‥。
「兄さん‥‥」
「聞いていたんだろ? じゃあそういうことだ。 別れることになった」
兄さんはこちらを向かず、ボーっと海の方を見続けながら話していた。
「遠距離になるから‥‥ですか? でもそんな人は世の中いっぱい───」
「海外だそうだ。 場所は言ってくれなかったがな‥‥。 まぁそりゃ学生の俺には遠い場所だよ」
そう言われて、私は黙るしかなかった。
海外‥‥‥‥収入もないのに自分の力で海外なんて行けるわけないよね‥‥。
「でも、すぐじゃなくても、大人になれば会いに行けるはずですよ」
未練があるなら余計にその方がいいんじゃないだろうか‥‥。
「あぁ、だけど縛りたくないなんてあんな顔で言われたらなにも言えねぇよ。 知ってたこととはいえ、結構くるものがあるな‥‥」
知ってた?
そういえば、小乃羽ちゃんの転校のことを兄さんはいつから知っていたんだろう‥‥‥‥さっきって感じでもなかったし。
「兄さんは小乃羽ちゃんの転校をいつから知ってたんですか?」
兄さんは少し考えるような仕草をした後、私に言った。
「‥‥あれはいつだったかな」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「‥‥あまり表に出さないようにしてましたから。 そ、それで、返事の方は‥‥」
そう言われたとき、俺はさりげなく断ろうと思っていた。
「正直、俺はまだ恋っていうものがどういうものか、わかってないんだよね。 だから福林さんのことも正直、妹みたいに接するようなことぐらいしか出来ないかもしれないよ?」
「それでも私は構いません」
その真っ直ぐな目に、俺は彼女と付き合うとこにした。
もちろん初めは彼女というより、もう一人の妹ができた感じだった。
◇◆◇◆
まぁ、それは徐々に変わっていき、なんとなく俺も付き合うってこういうことなのかなと慣れてきたころ、福林さんから突然転校の話を聞いた。
「───ことです。 御姉様達には言わないでいただけると助かります‥‥」
「それはもう、決定したことなのか?」
「はい‥‥なのでもう‥‥」
福林さんが何か言おうとしているか分かり、俺は言葉を遮って、作り笑いで返していた。
「じゃあ、それまでの間、やりたいことやって、目一杯遊ばなくちゃな!」
普段の俺なら絶対に言わなそうなことを言ったので、正直わざとらしかったかもしれない。
「‥‥‥‥はい、そうですね! 思い出は沢山ほしいですから♪ じゃあ手始めに私も下の名前で呼んでくれませんか?」
「いや、それはまだ無理‥‥かな」
こうして俺は、長期休みまで、福林さんとの思い出を沢山作ることに決めたんだ‥‥。
後半の時間軸は、初めは51話、最後は107話の少しあと辺りです。




