201 悲しそうな顔
別‥‥れる?
兄さんと小乃羽ちゃんが‥‥?
いや、聞き間違いの可能性だってあるはずだ‥‥‥‥でも、はっきりと私の耳には、そう聞こえた。
私が聞いているのを知っていて、二人が冗談で言っているとか?
‥‥いや、それにしては空気が重い。
でも、もし仮に、聞こえたことが本当だったとしても、何で別れを切り出した小乃羽ちゃんの方が、悲しそうな顔をしてるように見えるんだろう‥‥。
離れているため、はっきりとはわからないが、実際そうなのかもしれない。
しかし、こんなに離れてちゃ、話も聞こえないし、わからないことだらけだ。
何処か、近づける場所は‥‥‥‥あの物陰ならギリギリいけそうかな?
私は急いで、でもバレないように、物陰まで速足で行った。
そうすると、二人の声が聞き取れる距離に来たようで、私は二人の会話に集中して聞くことにした。
でも、小乃羽ちゃんがあんなこというってことは、兄さんに何か悪いところがあったってことでいいのかな?
「それはやっぱり‥‥‥‥転校するからか?」
え‥‥転校!?
小乃羽ちゃんがってこと?
そんな話、一度も小乃羽ちゃんから聞いたことないよ‥‥。
「そうです‥‥。 もう会えないかもしれないくらい遠くなんです。 そんな離れる人間がお兄様を縛り続けるなんて、耐えられませんよ‥‥」
縛り続けるって、そんな‥‥。
二人が一緒にいるときは、いつも楽しそうだったし、そんなことはないはずだよ、とそう小乃羽ちゃんに言いたいくらいだった。
「俺は別に離れていても問題ないと思うけどな」
「私が嫌なんです‥‥すみません、こんな我が儘言っちゃって‥‥。 私から告白したはずなのに‥‥」
「いや、元々聞いていたことだし、それを長引かせたのは俺だしな。 まぁ、こんなに早く時間が過ぎるとは思ってなかったわけだが‥‥。 でも、愛想尽かされたわけじゃないってことに少しほっとしてる自分がいるよ」
「愛想を尽かすなんて、そんなのはあり得ませんよ。 今までもこれからも、私はお兄様のことが好きですから」
好きなら、何で別れようとするんだろうと、私には理解できなかった。
「あぁ、ありがとう。 でもそれなら余計に別れる意味がないんじゃないか?」
「私はお兄様に幸せになってもらいたいんですよ‥‥。 あとこれは自分のケジメみたいなものです」
「‥‥そうか」
二人の間に少しだけ無言の時間が続いた。
間が空いたあと、喋ったのは小乃羽ちゃんだった。
「‥‥じゃあ、私行きますね」
「え、泊まっていかないのか?」
「すみません、準備がまだあるので‥‥」
もしかしたら、遅れるって言ってたのは引っ越しの準備をしなければいけなかったからってことなのか‥‥。
「せめて、奈留に会っていかないか?」
「御姉様に‥‥。 いいえ、御姉様には会わせる顔がありませんよ‥‥。 でも、後でメールで謝りたいと思います。 ‥‥‥‥では、お兄様、会うことはないかもしれませんが、遠くからお兄様のことを応援しています‥‥お元気で‥‥」
そう言って、小乃羽ちゃんはビーチから去っていった。
 




