180 何だか似てる‥‥
温泉から出た私は、ロビーのところでぶらぶらと歩いていると、信くんが向こうの方の椅子に座っているのを見つける。
私は暇だったので、何となく近づいて信くんの隣に座った。
信くんは私が近づいていたのを気づいていなかったのか、少し驚いた様子だった。
「信くん、もう温泉から出たの? 早いね」
私も結構早く出たと思うんだけど。
「あ、奈留さん。 ううん、温泉は僕は入ってないんだ。 入る気分じゃなかったというか‥‥」
「そうなんだ。 でも、温泉スッゴい良かったよ。 まぁ、私すぐ出ちゃったけど」
「僕も入りたくなったら入ることにするよ。 でも、温泉なんて久々だなぁ。 あまり入ることなかったから。 前世で入ったぐらいかな?」
私と同じだ。
私の場合は機会はあったが、大人数いるので、中々入ろうとは思わなかったからだが‥‥。
「家族で旅行とかは?」
「今世は結構あるけど、部屋についているお風呂を使うことが多いかな‥‥まぁ、だから今回の旅行で、人が誰もいない温泉に浸かることが何だか楽しみでもあるかな」
へぇ、信くんもなんだ‥‥人にあまり見られたくないから、とかかな?
「でも、前世では入ったんだよね?」
「うん、でも家族でっていうのだったら、最後は小学生の頃ぐらいかな? だから温泉なんて、全然入ってないよ」
「へぇ‥‥というか私から聞いちゃったけど、前世のこと喋っちゃって大丈夫? 曖昧にしなくて」
前世のことがわかったときに、曖昧にしておこうって言ってたから、そんなに言ってくれるんだ、って少し驚いた。
「隠すようなことじゃないし、大丈夫だよ」
ま、まぁそうだね、それでわかることは家族仲が良かったんだろうなぁ、ということぐらいだ。
そのあとも、信くんと何気ない話をしていると、遠くの方から何やら誰かを呼ぶ声が。
「お~い、磨北弟~!」
あれ、兄さんの声?
て言うか、なんで信くんを呼んでるの?
「どうしました?」
「広葉と我慢比べをしてたんだが、広葉のぼせちまってさ‥‥ちょっと一緒に部屋まで運んでくれないか?」
「いや、でも僕‥‥」
信くん、なんか戸惑ってるな‥‥どうしたんだろう。
「あいつ、出た瞬間は我慢してたのかもしれないが、服着たあともう無理とか言いやがって、倒れたと思ったら寝てるんだから、本当に迷惑なやつだ」
いや、そもそも、我慢比べなんて、なんでやってるんですか‥‥。
「服‥‥着てる‥‥。 わかりました、行きましょう」
服着てるとわかった瞬間、信くんがホッとしたような表情をして、そしてまたいつもの顔に戻った。
「ん? あぁ、頼む。 奈留は水とか買っといてくれるか?」
「あ、はい。 わかりました」
そして二人は走って行ってしまった。
あれ、なんだろう‥‥なんだか、偶然だとは思うけど、私とちょっと似てるような気がする。
あれ、なんか凄い違和感‥‥‥‥この違和感って一体。
あ! まさか、信くんって私と真逆で、元は女の子だったんじゃ‥‥‥‥ってそんなわけないか。
お水買いに行こ。