160 人の過去には色々あって
こうして、私は今、奇妙な三人に取り囲まれていた。
詩唖先生の姿をした、前世の親友の広葉。
大人の姿で、ほぼ別人と化している、蕾さん。 別名、花さん。
そして、新たに出会った、大人の広葉の姿をした、詩唖先生。
うん、何だこの集団は!
これもある意味ではホラーだよ!
「まぁ、これで何となく、今の現状がわかったか?」
「わ、わかったけど、ややこしいね」
「そうか? ただ入れ替わってるだけだろ?」
そうなんだけど、見た目と一致しないというのが、こんなにも変な感じになるとは思わなかった。
広葉の場合は元々担任として慣れていたから、大丈夫だったけど。
「ひーくんは当事者だから、そんなことが言えるのよ。 私も初めは苦労したもの」
「そういうものなのか」
まぁ、目が見た情報と違うんだから、知り合いであればあるほど、違和感があるのかもしれないね。
「でも、詩唖先生と入れ替わるなんてこともできるんだね。 物忘レンくん改って、てっきり一方通行なのかと」
「まぁ、物忘レン改の機能が上書きだからな。 初めは俺もそう思った」
「出来るのは当然です。 でなきゃ、片方が消滅しちゃうもの」
あぁ、そういえば、今世の蕾ちゃんが間違えて私に物忘レンくんを繋げたときも、そんなこと言ってたっけ?
そういう危険は考えてやってるんだなぁ。
「あ、そういえばその機能が使えるってことは、広葉と詩唖先生は相性が良かったってことなのか‥‥」
「えぇ、そうね。 相性は九十八パーセント。 ‥‥‥‥私より高いとかほんとムカつく」
「ご、ごめんね。 私、悪気があったわけじゃなくて‥‥」
花さん、本音が漏れてますよ。
たぶん、凄く悔しかったんだろうな。
あと、詩唖先生‥‥悪気とかそういうことではないと思いますよ。
「でも、特に探した訳ではなく、一発で当たりを引き当てたから、楽ではあったな」
「えぇ、そこは良かったと思いますよ」
へぇ、一発でっていうのは凄いな。
中々高い人なんていないだろうに。
「でも、あの大きな機械の相性診断装置に入れるまで、相性がいいとかわからないんじゃないんですか? 一度入ってもらったとかですか?」
「あれは大きすぎるから、この世界に来たときに、新たに携帯サイズに作り直したのよ。 カメラがついていて、覗き込めば、相性がわかるようにしたの」
凄いな。
タイムマシンで持ち運び出来るように作り直したってことか。
え、でも初めからそっちを作ればよかったんじゃ‥‥。
「初めからそっちは作れなかったんですか?」
「初めて作ったのが中学生の頃だもの。 その頃の私じゃ無理ね。 まだ技術がまるでないし、無駄な部分が多すぎる」
いやいや、中学生の頃も凄いからね。
なに、素人だった、みたいに言ってるんですか!
私達では到底想像もつかないようなものも、中学生で作ってましたよ、蕾ちゃん。
「でも、手段についてはわかりましたけど、詩唖先生が了承した理由がわからないんですけど‥‥」
「あぁ、それはだな───」
広葉が喋ろうとすると、詩唖先生がすっと手で広葉の口をふさぐ。
「広葉くん、それは私が説明させてください」
「ん? えぇ、その方がいいですね」
何だろうこの空気‥‥。
「えっとですね‥‥夕闇さん。 今思えば、後悔しかないんですけど、これから話す私の、つまらない話を聞いてもらえますか?」
「え? は、はい」
後悔‥‥?
入れ替わったことに後悔とかそういうことかな?
少しの間があった後、詩唖先生は喋りだした。
「私はですね、この二人に出会った、その日‥‥‥‥死のうと思っていたんです」