145 あの頃の俺は(8)
森田広葉くん視点です。
乗り込んだ、タイムマシンの座席は二つあるので、ゆったりしたスペースはあるが、やはり太陽の光の入らない空間なので、閉じ込められているように感じる。
昔働いてたバイト先みたいだな‥‥いや、全然違うか。
「え~と、うん、いつでも行けますよ?」
「そうか、じゃあまずは二時間前に」
「了解です」
蕾はタイムマシンについているキーボードに似たもので、起動の設定を打ち込んでいく。
頼む、成功してくれ‥‥。
すると鈍い音とともに、タイムマシンが起動したことを知らせるランプが点灯する。
よし、いける!
すると、頭のなかにノイズのようなものが、いきなり、流れてきた。
『───警告し‥す。 未‥‥の‥‥は‥‥‥‥であり、原則として、‥‥さ‥‥います。 以後‥‥‥‥‥‥‥‥なら、体に制‥‥‥‥‥‥が、‥‥‥ます。 警告しま‥‥。 警‥‥し‥す‥‥』
なんだ‥‥今の‥‥。
‥‥こんな機能ないはずだが。
しかし、俺はそれを確かめる間もなく、タイムマシンは過去に飛び立った‥‥。
◇◆◇◆◇◆
き、気持ち悪い‥‥。
初めて、タイムマシンに乗って、そんな感想しかででこないのはどうかと思うが、船酔いに似た‥‥いや、もっとひどいだろう。
二度と乗りたくないと思わせるような、辛さがあるな‥‥。
それでも、蕾は平然としているんだから、凄いな。
やっぱりこういうのには慣れているのかもしれない。
「ウッ。 蕾やっぱりスゲーな。 気持ち悪くねーのか?」
「いえいえ、全くこれっぽっちもです。 それよりひーくん。 エチケット袋って何処にありましたっけ?」
やっぱりお前も気分悪かったんじゃねーか!
なんでそんな痩せ我慢してるんだよ‥‥。
あれ? そういえば、さっきなにか気になることがあったような‥‥う、気持ち悪すぎて思い出せねぇ。
まぁ、後々思い出すだろ。
今はそんなことより。
「それより、成功してるのか?」
「えぇ、電波時計を見ても、二時間前に戻ってますね。 少し、外に出てみましょうか」
そうして、俺達は頑丈にしまった扉を開ける。
扉を開けてみるとそこは!
「蕾のマンションの屋上だな。 ただし、まだ暗い」
「まぁ、二時間でそんな変わるわけないですよ。 というか成功してるんですから、もっと喜んでくださいよ」
「いや、あまり実感がないというか‥‥」
まぁ、日が上る前に戻っていることは確かだが、別に何十年も遡っている訳じゃないから、懐かしいみたいな気持ちもないしな‥‥。
「じゃあ実感させればいいんですね?」
◇◆◇◆◇◆
「寝てるな‥‥俺達」
「そうですね、ぐっすりです」
何処に行くのかと思えば、二時間前の俺達が寝ている寝室に侵入していた。
いや、確かに実感はすごくできたけど‥‥大丈夫なのかこれ?
「おい、もし起きちゃったりとかしたら不味いんじゃないか?」
「いえいえ、私たちは未来の私たちを見ていないわけですし、静かにしていれば、大丈夫なはずですよ?」
そういうものなのか?
「じゃあ、寝ている蕾の顔を落書きしても問題ない?」
「ちょ、やらないでくださいよ!? 自分にされないとはいえ、寝ている方も私なんですから。 でも朝起きたときには私の顔には何も書かれていなかったので、されてないってことですよね」
そういえば、そうだな。
俺達の時には二時間先の未来から来なかったって可能性もあるが、ただやらなかったってだけもある。
「丁度いい。 ここで、俺達が体験したこととは違う未来に出来るか、実験も兼ねて蕾の顔に落書きしよう」
「はぁ、それ絶対落書きしたいだけですよね‥‥でも、私もどう変わるのかは気になるので、するなら、油性ペンはやめてくださいよ?」
蕾に許可をもらうと、二時間前の俺のとなりで寝ている蕾を見る。
可愛‥‥ムカつく寝顔だな。
じゃあ、早速‥‥。
ペンをもって、蕾の顔にペンを近づけていたその時、手が止まる。
「どうしました、ひーくん?」
「手が動かない────グッ!?」
何故か突然、頭が鈍器で殴られたような衝撃が走った。
いっっでぇ───!?
くっ、なんなんだ一体‥‥。
「大丈夫ですか!? いえ、どうしていきなり‥‥‥‥」
「くっそ‥‥痛てぇ‥‥。 蕾、お前寝るとき、防衛系の発明品でも使ってるのか?」
自動撃退みたいな。
「いえいえ、そんなものありませんよ。 というかいきなりひーくんが頭を押さえて痛がりだしたので、予想外すぎて驚きましたよ。 原因は‥‥ひーくん本人もわからなそうですね。 ‥‥でも、もしかしたらですけど‥‥ひーくん、私にもペンを貸してください」
なんだ? 蕾にはもうこの痛みの理由がわかるのか?
よくわからないが、もう動くようになった手で持っているペンを蕾に渡す。
「なにするつもりだ?」
「ひーくんと同じ事をするんですよ、よっと‥‥‥‥くっ、本当に動かな───あっ、あぁぁぁ、痛っ!? ‥‥ん、これは中々痛いですね‥‥」
なんで蕾も同じ事を!
「お前なにやってるんだ! 俺の一回見てるだろ! マゾなのか?」
痛みで座り込んでしまった蕾が、涙目でこちらを向いた。
「んっ‥‥ふぅ、どういうことなのか確かめるためには必要なんですよ。 ひーくんだけに起こるのか、私にも起こるのか確かめるためです。 決してマゾじゃないです」
確かめたって‥‥お前俺が痛がっているの見ているはずなのに、そのあとするって、正気の沙汰じゃないぞ。
いつもそうだが、知的好奇心がありすぎる。
あと関係ないが、さっきから結構騒いでるのに全然起きないな‥‥二時間前の俺達。
「‥‥でも、それでどういうことが原因なのかわかったのか?」
「はい、どういう原理なのかはわかりませんが、私達が自分の手で過去を変えようとすると、激しい痛みが襲うんだと思います。 まるで、世界が変わることを拒んでいるように‥‥」
‥‥拒んでいる?




