133 謎のお姉さん
二日目の職業体験の時間があと少しというのもあって、マスターがもう終わっていいぞ、といってくれたので、今はお姉さんと二人で店内のテーブル席に座っている。
「本当に偶然が多いね。 まさかここで会うなんて」
「そうですね、それにあまり外に出ないって言ってましたもんね」
「覚えてたんだ。 そうね、いつもはあまり外には出ないから。 そういえば夕闇さんはここでアルバイトしてるの?」
「え? いえいえ、私中学生ですから! ここには学校の職業体験で来てるんです」
「そうなの、それは知らなかった。 大変ね、中学生は」
そういいながら、お姉さんは先ほど注文したコーヒーを飲む。
何か物思いに耽っているようなその姿は、不思議な美しさがあった
でも、やっぱり誰かに似ているような‥‥。
あ、そういえば私まだ、お姉さんの名前聞いてない!
「あの‥‥今気づいたんですけど、私まだ、お姉さんのお名前知らないんですけど‥‥」
「別になんでもいいわよ。 クロでもシロでも。 私、本名があまり好きじゃないのよね」
ペットの名前ですか!
でも、自分の名前が嫌いって。
「じゃあ何時もは他の人たちに何て呼ばれてるんですか?」
「ん~、それは先輩、後輩で呼ばれることが多いから特に気にならなかったな‥‥。 ねぇ、夕闇さんが名前つけてみてよ」
「え!? いやそんな急に言われても‥‥愛とか‥‥花とか?」
いきなりだったから全然でてこないね!
「じゃあ、花でいいんじゃない?」
あ、決まっちゃった。
でも、こういうのって、本人が納得してるんだから私がなにか言う必要はないよね。
「じ、じゃあ花さんで‥‥。 花さんって大学生なんですか?」
「そうね、少し前まではね。 やめちゃったから」
え、どういうこと!?
「なんで、やめちゃったんですか?」
「行く必要がなくなったから‥‥かな。 今は先輩の家に泊まらせてもらってるわ」
ということはニート‥‥ってそんなわけないよね? ね!?
「そ、そうなんですか」
それから、花さんと私のことを少し話したり、大学のことを聞いたり、色んな話をした。
それでも、何だか花さんとは少し距離があるように思える。
たぶんだけど‥‥。
「あ、そろそろ私は帰ろうかしら。 夕闇さんも一緒に帰る?」
「はい、帰ります。 じゃあマスターに挨拶してきます」
「えぇ、待ってる」
話してみて、初めに会った時から不思議な人だなぁ、と思っていたけど、話をしてみるとさらに謎が深まったような気がする‥‥。
◆◆◆◆◆◆
帰る頃にはもう薄暗くなっていて、少し驚いた。
そんなに花さんとのお話が長かった訳じゃないのに。
「花さんの住んでいるところってこの近くなんですか?」
「そうね。 あ、ここの公園を抜けましょうか。 たぶん近道でしょ?」
そういって、花さんは公園へと入っていく。
近道ではあるんだけど、少し暗いし、この時間だとあまり人もいないだろうから、危ないんじゃないだろうか。
しかし、もう引き返そうとは言いづらいし、特に何もないだろうと、私は公園を歩いていく。
花さんと二人きりの公園を‥‥。
すると、突然、花さんが立ち止まって、私の方に振り向いた。
「ねぇ、夕闇さん‥‥‥‥ちょっと‥‥”死んでくれないかな?”」
その突然の言葉に私は理解することができなかった。




