130 一日目の終わり
「今日はありがとうございました。 明日もよろしくお願いします」
「おう、お疲れ」
職業体験の一日目の時間が終わり、私は帰ることになった。
あのあと、特にお客様が沢山来るわけではなかったので、忙しくはなく、あっという間に終わってしまったように感じる。
暇なのかどうかわからないが、蓮佳さんも二度目の眠りに入っている。
まぁ、私みたいなお仕事初心者がいたから、教えたりでお疲れなのかもしれない。
さて、少し遅くなっちゃったけど、帰って晩御飯作らないとね。
兄さん、ちゃんと家に帰ってるかなぁ。
この付近にいたりしないよね?
あの電柱の影とか‥‥って誰かいる──!?
って由南ちゃんと蕾ちゃん?
◇◆◇◆◇◆
「少し前にばったり蔭道さんと会ってね。 ついでだから奈留のところを見に行こうってことになったのよ」
それはなんというか、気を使ってもらって申し訳ない。
「あ~由南ちゃん、嘘ついてるっす~。 本当は奈留ちゃんのウェイトレス姿が見たいって言ってたから見にきたのに、フグッ!?」
由南ちゃんが目にも止まらぬ速さで、蕾ちゃんの口を塞ぎにかかった。
いやでもほとんど聞こえてたけどね。
「‥‥偶然ってことでいいのよそこは! ていうか、蔭道さんだって見たいって言ってたから来たんだから!」
「私はそうっすから。 でも、少し遅かったせいで見れなかったのは残念でならないっす」
二人とも結局はウェイトレス姿が見たかったってだけなんだね。
てっきり、心配して見に来てくれたんだと思ったけど、そうじゃなかったのか。
でも、その気持ちもあるって私は信じてるよ!
「見れなかったってことは本当にさっき来たんだね」
「終わる時間はほぼ一緒だしね」
「あ~奈留ちゃんのメイド服姿見たかったっす」
「いや、着てないから! エプロンタイプのやつだよ」
別にメイド喫茶に職業体験しているわけじゃないからね!
まぁ、メイド服はあったけど‥‥。
「それでも働いている奈留ちゃんを見てみたかった‥‥」
「普段とそんなに変わらないよ。 それより、二人の体験先はどうだったの?」
「最悪だったっす!」
うぉ! 蕾ちゃんが凄い大きな声で言ったのでビックリしちゃった。
どうしたというんだ。
「な、何が最悪だったの?」
「フードコートは人が多くて忙しいんっすよ! 仕事は簡単だったんで、すぐ覚えたんっすけど、覚えても忙しいのは変わらないし、忙しいわりに狭くて入れる人数は少ないから、実際二人の時とかあったんっすよ! 普通に私じゃなくても死ぬっす」
それは、広葉から聞いたことあったな。
でも、体験だからマシだったんだろうな‥‥広葉は一人で回すことが多かったみたいだし。
しかも、フードコート内で窓がないから、太陽の光が入らず、精神的に滅入るという、特典付だという。
いや、本当になんでそこまでして働いていたんだと疑問に思っちゃうよね。
「大変だったんだね‥‥」
「レストランはそれほどでもなかったけど、大変だったわね。 私も奈留のところに行きたかった」
「羨ましいっす! あと、詩唖ちゃん許さないっす!」
私も忙しいときは忙しかったけど、二人ほどではなさそうだ。
私、当たりを引いたんだなぁ。
しかし、レストランはまだわかるけど、フードコートの方なんてよく中学生の職業体験に許可出したよね。
いや、詩唖先生の蕾ちゃんに対する嫌がらせとしてあえて忙しいところにお願いしに行ったとか‥‥詩唖先生ならありそう。
そのあと、二人の詳しい体験内容を知らされ、アルバイトって辛いんだなぁと実感した。
でも三日間あるんだよなぁ体験って‥‥。