129 マスターの苦労
「あなたが夕闇ちゃんだね。 こんにちは、パティシエ兼、隆の妻の夜郷蓮佳です♪」
起きてから、この自己紹介までに少し時間を要したが、ようやく話ができる。
先ほどまでとは打って変わって、できる女って感じがする蓮佳さん。
「よろしくお願いします!」
「じゃあ早速だけどケーキ作りにいこっか」
「え? 素人が作っていいものなんですか?」
たまに作ることはあるといっても、プロの人からしたら出来ない人とそう変わらないレベルだろうし。
「あはは、大丈夫だよ、それに飾り付けとかそういうのしてもらうから」
あぁ、それなら納得だ。
あ、その準備のせいで何時もより疲れちゃったのではないだろうか。
なんだか申し訳ないな。
「準備で疲れてるって思ってるかもしれないが、ただ、追い込まれないとやらないってだけだから、気にするなよ」
「あ、そうなんですか」
そういえば、私が来ることも忘れてたみたいだしね。
「そういうことは言わなくていいの! じゃあ、夕闇ちゃん行こっか」
「はい!」
これから向かうのはあの美味しいケーキが作られているところ。
もし、期間中に作り方を見て覚えたら、兄さんに作ってあげようかなぁ。
兄さんなら失敗しても喜んで食べてくれそうだし。
◇◆◇◆◇◆
「なん‥‥だと!?」
自分の好きなように盛り付けしてみてと言われ、その場その場で好きなように、やっていたのだが、突然、蓮佳さんが驚いた声を出した。
やっぱり、聞きながらやった方がよかったかな?
「ど、どうしました?」
「よし、夕闇ちゃん‥‥ここに永久就職してくれない?」
え? 褒められてる?
それより、私まだ中学生なんですけど!
「なんですか、その告白みたいな言い方‥‥。 というか、これで良かったんですか?」
「もう告白でいい、結婚してほしい! あ、あとケーキの方は完璧だよ♪」
蓮佳さん、あなた結婚してるのに何言ってるの‥‥。
正直、よくこの人と結婚したな、マスターは。
性格が違いすぎないか?
あとケーキがもうついでみたいになってるんだが‥‥。
「そ、それならよかったです」
「いや~こんな凄い子が来てくれるなんて思ってなかったよ~。 是非、高校生になったらアルバイトに来てほしいところ」
なんだかよくわからないけど気に入ってくれたようだ。
◇◆◇◆◇◆
ケーキの飾り付けに関しては合格をもらえた私は、今はまたマスターのところで、コップを拭いている。
蓮佳さんが暴走気味だったので、マスターが止めに入った、という感じだ。
それで、私は蓮佳さんが落ち着くまで、マスターの方の仕事を手伝っていた。
「蓮佳さん、凄い人ですね‥‥」
「あいつは欲望に正直だからな。 特に可愛いとかに弱い」
なんか、可愛い物好きで、由南ちゃんの顔が思い浮かんだけど、蓮佳さんとは大分違うな。
「だから、女の子限定だったんですかね?」
なんか、中身が元男の私が来ちゃって本当に申し訳ないというか‥‥。
「そんな条件出してたのかあいつ‥‥。 まぁ蓮佳の趣味だな。 あとはアルバイトも全員女だ。 それは偶然だと思いたいがな」
それ、マスターが大変だな。
気を使って仕方ないだろう。
「多彩な趣味の持ち主でいらっしゃるんですね。 あ、じゃあロッカーの中に入っていた、もう一着の方も?」
「‥‥あいつの趣味だな」
やっぱりか!
なんでメイド服があるんだってちょっとビックリしましたよ、それも本格的な。
「大変なんですね、マスター」
「わかってくれるか‥‥」
大分、苦労されているようです。