128 お仕事をしよう?
特にやることのなかった私は、今メニュー表とにらめっこしていた。
‥‥難しい、覚えるのは無理だな。
一応、お客様がきたら接客してみてくれ、と言われたわけだけど、出来るか不安になってきた。
まぁ、メニューを聞くだけってマスターは言ってたけど‥‥。
あ、お客様がきた!
「いらっしゃいませ」
「すみません、エスプレッソのドッピオをお願いします」
「え? あ、はい」
うん、やっぱりわからないね!
「マスター、エスプレッソのドッピオ? だそうです」
マスターは言った瞬間に、カップを出してきた。
まるで、元から作ってあったかのようだ。
「ほらよ。 まぁあの人は、いつもこの時間に同じものを注文する常連客だから注文聞かなくても、わかるけどな」
え、私意味ゼロ!?
◇◆◇◆◇◆
「何なんですか一体‥‥」
私、注文聞かなくてもいいんじゃないですかね。
「ちゃんと聞かないといけない人もいるんだから、練習だったと思えばいいんだよ。 まぁ、常連客じゃなくて、注文ミスしたらその時はその時でフォローしてやるよ」
や、優しい。
顔は少し怖いけど。
でも、これが接客かぁ、何だか一回やったら吹っ切れてきたような気がする。
次はもっとちゃんと接客しないとね。
「そういえば、ドッピオってなんですか? 呪文?」
「呪文じゃねーよ! まぁ、二倍という意味なんだよ」
何が!?
「幸せが?」
「違うわ! コーヒー豆の量とかな。 まぁそこはあまり気にしないでいいぞ」
「そうなんですか」
カフェって大変なんだなぁと改めて思った。
◇◆◇◆◇◆
「ありがとうございました~」
そろそろ接客にも慣れ始めた私。
こういうのは同じことの繰り返しだから、特になにも考えなくて良いし、やりやすいなぁ。
そういえば、蓮佳さんはまだなのかなぁ。
「お、蓮佳。 今日は一段と遅かったな」
マスターの声が聞こえ、蓮佳さんが来たことを知る。
わー、あの美味しいケーキを作った人に会えるのかぁ。
どんな人なのかな。
「マスター、蓮佳さん。 起きたんですか?」
蓮佳さんと思わしき人物の後ろ姿が見える。
見た感じ、きれいな人だとは思う。
あれ? 全然動かないな。
「‥‥いや、立ったまま寝てる」
寝てるの!?
さっきまで寝てたんじゃなかったでしたっけ?
ということは無意識にここまで歩いてきたと?
「えっと‥‥このまま放置ですか?」
「今起こす、フッ!」
マスターは蓮佳さんだと思わしき人物の頭に力のこもったチョップをする。
「‥‥んきゃ! 痛った───!? 何するのよ! 隆!」
「お前がいつまでたっても起きないからだ」
何だろう、喧嘩しているのか、いちゃついているのかよくわからない状況が目の前で行われている。
「それでも、チョップは酷いよ! 本当に全く、隆はいつも容赦がないというか‥‥‥‥ん? この美少女ちゃんは誰かな? 新しいバイトさん? それとも地上に舞い降りた天使さんかな?」
彼女はいきなり私の方に目線を向ける。
あれ、職業体験のことを知らない?
ていうか、天使ってなに!?
「お前が勝手に許可した中学校の職業体験だよ」
「あぁ‥‥え、それって今日だっけ!?」
曜日感覚がずれていただけのようです。
それより、蓮佳さんがマスターに言わず、無断で許可しちゃったんだね。
「はぁ、蓮佳‥‥お前な‥‥」
「あー! ミスったー! 可愛い女子中学生に私が手取り足取りピンからキリまで教えてあげるという計画がー!」
うん、蓮佳さん遅れてきてくれてよかったかもしれないな、今の現状を見ていると。