126 カフェの前で佇む
期限ギリギリだったこともあり、職業体験の日はすぐに訪れ、私は今日、選んだカフェに行くことになった。
どこから情報が漏れたのか、兄さんに職業体験のことを知られたせいで、直前まで兄さんが、私の行く体験先をしつこく聞いてきたが、絶対来ちゃうので、恥ずかしいということもあり、言わなかった。
「じゃあ兄さん。 行ってくるね」
「奈留‥‥家族だったら尾行しても犯罪じゃないよな」
‥‥え? 何しようとしてるの!?
いや、私もしたからダメとは言えないけど。
「ていうか、兄さんも学校でしょ? 無断で休むのはダメですからね」
「クッ、妹の晴れ舞台を見れないなんて‥‥」
いや、そんな大それたことじゃないから。
なんか小学校の入学式に仕事でついていけない、お父さんみたいになってるけど。
「そんな落ち込まないでよ、もう。 ‥‥体験先は、この前行ったカフェだよ」
「え?」
言うと思ってなかったからか兄さんは驚いた表情をしている。
「もしも何かあったときに、すぐ来れるように言っただけだからね。 兄さん心配性だから」
「奈留‥‥」
うん、これでいいよね。
場所ぐらいは言っておいても。
「‥‥でも、そんなことはたぶんないので、来ないでくださいね!」
「うん!」
凄く嬉しそうな顔をしてる兄さん。
絶対来るつもりだなこいつ‥‥。
「はぁ‥‥じゃあ今度こそ行ってくるね」
「あぁ、いってらっしゃい。 あ、奈留。 新しく買ったカメラは何処にあったっけ?」
「本当に来ないでくださいね!」
なにバッチリ記念に撮ろうとしてるの!
はぁ、言うんじゃなかった‥‥。
◇◆◇◆◇◆
私は、職業体験のため、この前行ったカフェの目の前に佇んでいた。
こういうのって、直前になると急に緊張してくるんだよね‥‥。
まだ時間には余裕があるので、ボーッと看板を見ていた。
看板に書かれていた名前はフトゥーロ‥‥かな?
やっぱり、雰囲気もいいし、ここにして良かったなぁ。
でも、中に入る一歩がでない‥‥ううん、でもここにずっといてもなにも始まらないしね!
「よし、行こう!」
私はお店の中に足を踏み入れた。
この前に来たときは、外のテラス席に座っていたから、店内は見てなかったんだよなぁ。
あ、カウンターのところに大人の男性が。
このお店の店長かな‥‥いやカフェだからマスター?
でも、なんだか少し怖そうな人だな‥‥。
いやまぁ、凄くカフェのマスターのイメージ、そのままな感じではあるが。
誉められて伸びるタイプの私には相性は悪いかもしれない‥‥。
よし、まずは挨拶と自己紹介からだよね。
「おはようございます!」
「ん? あぁ、おはよう。 お前は?」
「職業体験に来た夕闇奈留でふ!」
噛んだー!
それもとてつもなく、やっちゃいけないところで噛んだー!
「ぷっ」
笑われたー!
「な、奈留です! 今日からよろしくお願いします!」
「‥‥ふぅ、そうか、俺はここのマスターの夜郷隆だ。 少しの期間だがよろしくな」
何だかとんでもないところで失敗してしまったが、まぁそのお陰で何となく、マスターが怖いだけの人じゃないとこがわかった。
怪我の功名というやつだね。
じゃあ何をするかまず聞かないとね。




