脱出不可能~Destruction and possibility~
この作品は作者のメイン連載作品「脱出不可能」における、第三回キャラクター人気投票一位を記念して書き下ろした記念掌編です。本編を読んでからご覧いただくと本編の内容に深みが増す掌編となっております。
※記念イラスト:いまじん/pixiv(http://www.pixiv.net/member.php?id=5303203)
―――まさか、私の作った脱出不可能に彼の息子が挑んでは一発でクリアすると当時の私は予想していなかった。私は何を思ったのか、筆を執っては過去を振り返っていた。
私はよく同じ夢を見ることが多くあった。それは悪夢としか言えない、トラウマな様なもので。だが月の名を持つ以上逃れられないものでもあった。その悪夢は私がまだ高校生くらいだった時の事だろうか…。
目が覚めるとそこはドラマで見かけるような刑務所にある独房の様な部屋だったと記憶している。だがドラマと違うのはその部屋の鉄格子のドアは開きっぱなしという点だ。鉄格子の外へと出るとそこには私と同じぐらいの少年少女が同じ状況にあった。そして一番身近に居た少年の一人に声を掛ける。
「君の名前は…?」
私が初めに口にした言葉だった。
「俺は海月。クラゲと書いてうみづきって読む。…お前は?」
「私は嘉月。漢字は…今は覚える必要はない」
当時は些細な自己紹介だと思っていたが今ではこの自己紹介の時間が今の私の原点なのだなと実感している。
そしてその閉ざされた冷たい場所に居た少年少女は何故か全員名前に「月」の入る者しか居らず。その時は分からなかった、当時その閉ざされた冷たい施設を管理していた何者かの策略により自殺、殺し合い等極限的な状況へと追いやられたが、その時にはそれぞれ自分の個性に倣った力が発現し始めており能力者へと姿を変えていた。
あの時の記憶や絶望は今でも脳裏に焼き付いている。詳しくは触れないがあの地を去ってから私は一人あの時の首謀者について独自捜査をしつつ、その時の首謀者を見つけた時に対抗するために高校時代に作っていた脱出ゲームを現実に再現し、そこで極限的な状況へも対応できる人間を発掘するべく、当時の状況である脱出不可能を完成させた。この時点で脱出不可能は第二の脱出不可能であったという訳だ。
そして今になり分かった、あの時の首謀者が。それはあの地を去る際に私は海月とは違う方法で脱出をしたのだがそれを助けた人物こそが首謀者であったと分かったのだ。それと同じタイミングで私の造り上げた脱出不可能にクリア者が現れた。それが神代海月の息子である、神代睦月だったのだ。
話を戻すが月の名の持ち主と呼ばれる能力者には能力を閉ざされた冷たい施設にて発現させられた旧世代とその旧世代から生まれた新世代と分けられる。そして我々旧世代には共通する点があったのだ。それは自分の名前しか記憶が無く、それ以外の記憶が無い事だ。だが不思議なことに私と海月には過去の記憶があった。それは今になって分かった事だが私と海月は旧世代の中で絶対的な力を持っていた三人に次ぐ力の影響であったと考えられる。私は私以外の能力の無力化、無効化。海月は自身のあらゆる面での自己強化。
私は首謀者に記憶を消される際にそれを無効化していたようで、海月はその際に自身を強化していたのだと考えられる。これを考えると私と海月以外の月の名を持っていた者は造られていたと推測されるのだ。
これらを確かめるために首謀者を問いただす必要性があると考えた私は神代睦月に敵対する様に冷たく対応しては育成する必要があると考え、次々と彼に脱出不可能を仕掛けた。
そしてその脱出不可能の最後には私自身が彼の前に立ちはだかり、彼の才能という能力やあの神代海月の息子であると再確認しては私は彼に敗れたのだ。
私が脱出不可能を架空ではない、現実のものへと仕立て上げたのはあの閉ざされた冷たい施設での出来事を引き起こした首謀者への復讐と私の前に現れた才能という能力の持ち主を育成するためであったと言える。そしてこれは推測だが元から力を持ち合わせていたのは私や海月のみで他は全て人造の能力者であったのではないかと考えられる。だから私は―――。
―――人造能力者研究開発局の局長、神無月真月の行方を探っているのだ。
私は神代睦月との決戦後、会社を放棄しては海月の元へと向かっていた。その時に私の脱出不可能に次ぐ脱出不可能がまさか私の血族によって再び作られていたとは思いもしなかったが、私の力不足であったところを補ってくれたのを確認し、忌月の奴も同じことを考えていたのだと…安堵の息を漏らしたのを今でも覚えている。そして海月の元へと辿りついたかと思うと今度は睦月くんのところでは異変が次々と発生し、まさか神無月真月が主導し動いているのではと考えた私は海月を別れ、睦月くんの元へと急行したのであった。
だが気づいた頃にはもう遅く、人造能力者研究開発局は勢力を拡大し睦月くんと文月くんはともに力尽きていた。睦月くんの元には彼を守るように多くの仲間が集結したがその仲間も人造能力者研究開発局へと捕らえられ月の名の持ち主の終わりの始まりを迎えようとしていた…が、そこで彼は目を覚ます。
彼は目を覚ますと全てを取り戻すと宣言したのち、直ぐに体を動かした。流石あの海月の息子だと私は彼を原初の三日月の者達のところへと背中を押したのだ。だが、この時から海月の連絡は途絶えていた…。
―――以上が私の知る限りの破壊の記憶と私の信じる可能性のレポートだ。ここから先は私の話ではない、脱出不可能を脱出可能にしてしまうあの一人の青年の物語だ、だからここで筆を置かせて貰う事とする。
初公開・長門嘉月記念イラスト