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49.森の中をコロがる (10~14日目)

芽芽(めめ)視点に戻ります。



****************


 検問から5日。


 ぺっとん、ぴょってん、ぼわわん、ふよよん。


 私たち緑組(チーム・グリーン)のうしろから、野球ボールくらいのでっかい空豆もどきが四つ追いかけてくるようになった。

 固めのパン種みたいな土の塊、葛餅みたいな水の塊、煙なのにモミモミ触感のある玉と、ケサランパサランみたいな綿毛の玉。


≪~~~あんたがっ! 名前とか付けるからっ!≫


 某チベットスナギツネがご機嫌ななめ。誰かさんが、摩訶不思議なちび生命体に出会うたんびに≪森の使いよ、単なる≫って説明しかしてくれないからだよ。

 日記に書くために種類分けしただけじゃん。


 オーロラ色にたゆたう煙幕は『煙々羅(えんえんら)』で、蒲公英(タンポポ)の綿毛みたいな白い玉房(ポンポン)は『毛羽毛現(けうけげん)』。日本の妖怪さんに(ちな)んでみた。

 残りの二つも同じような音感で思案して、粘土の塊はイタリアの虹色マーブル紙みたいな模様だから『斑紋卵(まだららん)』、もきゅもきゅ透明な水の塊は『玉藻々(たまもも)』に。


≪マダララ~ン、タ~マモモ~、エンエンラ~、ケウケ~ゲン!≫


 ほら、フィオも気に入ってくれてる。変な呪文の歌と()しているけど、尻尾ふりふり、後ろに引き連れて楽しそう。


≪精霊違いじゃ、色違いじゃ! 手懐けるなら青い(カエル)や赤い栗鼠(りす)にしろ! 精霊四色を忘れるなーっ≫


 爺様がうなっている。虹色や白や透明も可愛いと思うんだけどな。煙幕だけは少なくとも赤――から緑になった。今度は紫か。変化が激しいけど、まぁいーじゃない、元気で。


 最初の森で野宿して、翌日は集落に寄って激安価格で規格外の農作物を分けてもらい、再び同じ森へ戻って野宿した。翌日は大雨が降ってきたので新しい街で木製葉書を見せて宿に泊めてもらい、晴れたらまた別の森へ入る。


 そうしたら少しずつ『森の使い』とやらが現れるようになったのだ。


 辺り一面、いろんな色の毛玉が舞ったり、急に色のついた煙のカーテンが木々の間に垂れ下がったり。泉では魚みたいに透明な球体が飛び跳ね競争していて、岩がゴツゴツしている場所ではマーブル団子がコロコロ転がっていた。

 会うたびに挨拶していたら、(たま)集団の中から一緒について来ちゃう子が出てきて――今に至る、みたいな?


≪それは森の魔素が膨大な時間をかけて結晶化しただけじゃ。土は土、水は水の元素同士でかたまるから広義の精霊と言えなくはないが、しかしお前が求めるべき精霊とはな、≫


≪いや、別に求めてないって≫


 この子たちだって、はじめて街まで一緒に付いてこようとしたときは焦ったもん。仲間のところに戻ったほうがいいよって説得したのに、念話がちっとも通じないし。

 リュックの中に籠城されてしまって、気がついたらフィオの子分みたいになっちゃった。


 自分の意思で勝手に動く竜珠というべきか。森の中では今日も陽気に、竜の後ろを小さな玉がぴょこぴょこ、よんぴょこぴょこ。

 フィオも自由に歩けるし、よん豆のためにも、人里よりも森を移動したほうがいいのかな。

 でも言葉の練習のためには、街も捨てがたい。


≪やっと謎が解けたね、昨日!≫


≪そもそも謎じゃたのか? あんなものが?≫


 魔術しか興味のない爺様には解るまい。藤百合の宿の『秋紫ソース』だの、赤金蓮花(きんれんか)の宿の『秋赤ソース』、ずっと正体が気になっていたのだ。

 市場で手作りジャムを並べていた小母(おば)さんの売り口上によると、その季節の花四種類と果物四種類を混ぜたジャムが(もと)らしい。だから家毎に、街毎に特色があって、やっぱり秋は精霊四色どれも柑橘(かんきつ)系。

 この世界には皮や果肉が青いミカンや紫のミカンまであってびっくりだ。


 新しい知識が一つずつ増えていくのは、なんだかとっても気分がいい。


 天候と食糧事情に合わせて街も利用しながら、今日も極力人目を避けて、森の中の旧街道を進む。もう秋だからか蚊も見当たらないし、晴れた日のそよ風は涼しすぎず快適だ。


 休憩の際には、魔法の練習。


 荷物を軽くする風の防音膜の応用で、防御の膜ってのが作れるようになった。全身を透明な風船の中に入れてしまうのだ。

 びっちりと張り巡らすイメージじゃなく、トーラスが随時回転しているのを思い描くと、空気もちゃんと取り込める。高速で回すほど強力な盾となった。


 どっかにぶつかると縦横無尽に跳ねて転がっちゃうのが課題。地球のビーチボールやバランスボールの印象が消しきれてないのだろうか。爺様の火葬バブルや、松ぼっくり攻撃のときみたく、その場で留めて回転させたいんだけどな。

 爺様には≪霊山の中は特殊だから参考にするな、新たに感覚を養え≫と言われてしまった。


≪芽芽ちゃん、この中に入るとボクまで『森の使い』になったみたいだね! 楽しいね!≫


 フィオはいつも五つ星の満点レビューをくれるから癒される。わざと巨木にぶつかって、ぼよよよんと跳ね返されていた。


≪マダララ~ン、タ~マモモ~、エンエンラ~、ケウケ~ゲン!≫


 うーむ、私は新たな呪文を異世界に生み出してしまったようだ。

 風船の中でフィオと一緒に転がってる豆玉が、きらきらビーズみたい。赤ちゃん用の透明ボールであんなのあったよね。音とか光とか付きの。


 『ミニドラゴン入り知育玩具、今ならちびスライム四匹も仲良く入って特売中』


 ……買うな、お年玉つぎ込んで買うぞ。

 おまけに触感が大福餅。疲れたら、にぎにぎさせてもらってる。


≪アンタね、精霊の用途を激しく履き違えてるから≫


 不服そうなカチューシャが今日もチベットスナギツネ。


≪じゃから、そもそも! 狭義の『精霊』を探せと言うておろーがぁぁぁぁっ≫


 そして爺様が今日も五月蠅(うるさ)い。


≪マッダララ~ン、タ~マッモモ~、エンッエンラ~、ケウッケ~ゲン!≫


 我が家の竜が『よん豆』踊りの呪文を覚えた。

 今日も良い日だ、大福ふくふく日和(びより)なり。





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