★ 契約獣:独立不撓(どくりつふとう)
※鬼畜(←ここ強調)、カチューシャの視点です。
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≪やっぱりこの国に長居は無用! フィオの黒い糸を解いてもらったら、すぐ竜の大陸に避難する! 国外脱出する!≫
ダルモサーレの街。馬車の出発を待っていた芽芽が高らかに宣言した。
駄目だわ、旅がとめどなく壮大になっていく。ねぇもう、どうしたらいいのかしら。
髪の毛は最初のカハルサーレの街へ入る前にばっさり切っちゃうし、こっちの言葉はみるみる学習して、『青い馬の連峰』って目的地の発音も習得しちゃうし、身振り手振りと片言を組み合わせて上手いこと周りに案内させちゃうし。
潤沢な資金があれば王都近くで豪遊してくれると思ったのに! わたしが運んできた金貨には余り手をつけたがらないし、『いつか返すために』ってちまちま小遣い帳まで付けだすし。
花模様の刺繍には少し興味を示したけど、古着ですっかり満足してしまう。高級品も流行品も興味がなさそう。
なのにどうしても欲しかったのが図書館で御伽話の本や、元神殿侍女へのお礼のケーキって変でしょ。
おまけにグウェンフォールが意を決して聖女の話をし始めたら、拒否感ハンパないのって。
おかしいわね。帝国なんかじゃ、神格が高い聖女の方が精霊を使役するんだって解釈なのよ。
この国では逆だけど、それでも皆が傅くわ。女の子なら一度は夢見る称号じゃないのかしら。
これはかなりの問題児ね。このままだと、わたしたちの悲願達成からも、王都からも、どんどん離れちゃう!
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――はぁ、ケツ顎のガーロイドを巻き込むべきだったのかしら。土の師団長が王宮の高級官僚と密会って、一体何事よ?
最初にメリアルサーレの宿に入ったときは、思わず後ずさっちゃった。
侍従次長に、外務次官に、監査長官。国を動かす大物が四人とも同じ街の出身だったなんて。
何か仕掛けてくるかと期待したのに、あっさり別れてしまう。
これだから筋肉至上主義は想像の埒外なのよね。
連日グウェンフォールと二人で頭を抱えていると、丁度よく検閲が設置された。このわたしが脳筋集団を見てほっとするなんて。最早、世も末だわ。
でもこの先で芽芽に北部街道の長距離馬車になんか乗られたら、あっさり北の州都に入られちゃう。
≪芽芽、竜騎士たちが一隊総出でこの道を通る馬車を全て検分している≫
外の様子を窺ってから戻ると、芽芽の顔から明らかに血の気が引いていた。
≪私のリュック、爺様のローブ、持って逃げて。お願い≫
わたしに荷物ごと竜を任せる計画みたい。自分は囮になる気かしら。竜騎士相手よ、解っているの?
そりゃ、わたしなら小竜程度は襟首咥えたまま逃げられるけど。
≪……大丈夫よ、所持品まで検めてはいないから。人を探しているだけ≫
ごくりと唾を飲み込む音がした。大丈夫って言っているのに、もう。しかも無駄に噎せているし。
竜騎士が探知虫を馬車の中に放つ。念には念を入れて、わたしやグウェンフォールの魔力が邪魔しないよう、体内の魔素は極力動かさない。
芽芽には念話を禁じて緊張感を持たせたせいか、ダダ漏れの魔力を多少は押し留めているようね。完全に挙動不審だけど、まぁいいわ。
探知させたいのは魔力とは紙一重の別の力。
芽芽の頭上を飛んでいる探知虫は、何事も無かったかのように馬車の外へ出ようとした。
あらら残念。そうそう上手い話はないってことよねぇ――。
がしゃ!
――あったわっ、上手い話。
探知虫が故障して、地面に落ちた。あらあらあら。これってつまり、そういうことよね? 国中を虱潰しに探しても見つからなかったのは、異世界にいたからなの?
≪今、壊れたな! 壊れたよな? そうじゃな?≫
興奮したグウェンフォールが、秘密の念話で何度も確かめてくる。
≪壊れた! 壊れている! ちゃんと、しっかり、壊れた!≫
わたしも首を伸ばして、外の様子を何度も確認する。
芽芽はといえば、涙目になっていた。こそこそと馬車の隙間に隠れようともがいている。もー、自信持ちなさい! これからあんたはこの国を背負うんだから!
ぺしぺしと尻尾で叩いて気合を入れたら、少し回復してきたみたい。全く世話がやけるわ。
≪グウェンフォール、まずは馬車から降ろすわよ≫
≪そうじゃな、直ぐに神殿へ――≫
≪あのねぇ。あいつらが大人しく通すと思う? まずは精霊の眷属を使って、この娘が柱を上げさせられるように訓練するの。
文句が言えない状態まで持っていかないと、本物でも簡単に消されるわよ≫
≪それはそうじゃな。しかし眷属をどうやって従わせる?≫
知るわけないじゃない。ヴァーレッフェの裏歴史と魔導士の実情ならともかく。
≪そもそも眷属をどうやって見つけるのじゃ?≫
だからわたしに訊かないでよ。長く生きているからって、世界の現象全てを把握していたら逆に怖いわ。
≪知らない。本物は今までどうやっていたの?≫
≪ワシがお仕えしたティーギン様は、確か……辺境の、辺鄙な村の、そのまた外れの、さらに山奥の、誰も来ない池で柱を上げたのを発見されたとか≫
≪この娘、そこまで行く体力無いわよ、精霊に誓ってもいいけど絶対に≫
さっきの検問でさえ震えていたのだから。そして今は気力を使い果たしてげっそりしている。
相変わらず怪しさ満載だわ。緑の外套の魔法陣で辛うじて周囲の目を欺いている状態。
≪次の停留地はどこじゃ?≫
≪リダンサーレだったと思うけど……≫
≪あの近く、鬼喰いの森があったな?≫
人混みよりは精霊と出会う確率高そうね。魔獣が確実に揃い踏みしているから、少し危険な策になる可能性もあるけど……。
最近戦ってないから、丁度いいわ!
≪芽芽、あんた次の街で降りなさい。竜騎士たちが愚痴ってたの。この馬車の終着地点へ自分たちも向かわなきゃならないけど気が重いって。どうやら魔導士とそこで合流するらしいわ≫
これは本当。グウェンフォールを探すために、神殿長が追手を放ったみたい。
呪いの効果をその目で確かめるためなのだか、証拠隠滅のためなのだかよく判らないけれど、芽芽が霊山で報告してくれた開戦準備の一つにするつもりだと思う。
≪次の街は、竜騎士も魔導士もいない?≫
竜も娘も、竜騎士や魔導士を警戒している。特に芽芽は『権力者の手先』って時点で、胡散臭く感じているようだった。
入れ墨すら施さない親の下でずっと冷遇されていたし、元いた世界自体がかなり荒んでいたみたいだから、根本的に人間不信なのよね。
≪判らないけど、そこから森に入った方が安全≫
そう伝えると、了承したとばかりに頷かれて、頭を優しく撫でられた。
こうやってしょっちゅう感謝してくるから、やりにくいったらありゃしない。
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≪あのさ、私に何かしていない?≫
リダンサーレで外套の件を問い詰められた。もっと感情的になるのかと思っていたけど、この娘、案外冷静に現実を見ているのね。
≪この世界に身一つで放り出された私は、運を当てにしたり、誰かの情けにすがることでしか生きていけないの。だからコートの魔術自体もそんなに気にならない。
ただ、一言断ってほしかっただけ≫
普通は勝手に魔法陣なんて描かれたら怒るものよ。わたしたちが純粋な善意だけで術を掛けたと思っているのかしら。なんだか調子が狂うわ。
その後は、探知虫のことを訊いてきた。グウェンフォールったら、登録された魔導士を探すものだって、表向きの説明をしている。
『正直に言って』って頼まれたそばからコレなのだもの。息をするように嘘を紡ぎ出す。人間らしいっていうか……ある意味、魔導士の鏡ね。
≪少なくとも中級・上級の認定を受けたいのであれば、あの登録を受け入れるしかない。まぁ、その登録をせずに上級の魔術まで習得するツワモノも極まれにおるがの≫
≪もしかして、爺様がそのツワモノ?≫
≪違う!≫
≪ワシはちゃんと登録しておる!≫
まー、ムキになっちゃって大人げない。確かに今現在は登録しているけどさ。
あんた、初級魔導士のときに国を追われて、諸国の武者修行で腕を磨かざるを得なかった『ツワモノ』でしょうが。
そもそも探知虫への登録はあんたがおっ始めた制度だし、それまでの魔導士評議会の中級・上級の登録だってサボって申請してなかったじゃない。
≪赤い竜騎士たちが探してたの、爺様?≫
≪………………≫
自分でも図星指されつづけている自覚はあったのね。次の質問には黙りこくっているわ。
本来、魔導士の資質の一つとなるのが勘の鋭さ。芽芽には魔力も潤沢にあるから、魔導士にも余裕でなれる。
神殿と対抗するにはグウェンフォールが鍛えないといけないのよ。魔術による攻撃を徹底的に教え込むの!
教育者の端くれだってのに、優秀な後輩を前にして、意固地になってどうするのよ。
≪まぁ、気が向いたらでいいから、なるべく事情を教えてくれるとうれしい。もしフィオに関係することだったらお願い、ってことなのだけど≫
幼い芽芽のほうが、こういうところは成熟している。必要以上に追い詰めて、得意がることはない。
普段はぼーっとしているくせに、変なところで頭が切れるし、扱いにくい子だわ。
≪ご飯、買いに行こう!≫
良かった。魔狼の森で外套の守りを解除して、不良をけしかけたことまで嗅ぎつけられるかと思っちゃった。
彼女のほうから話を切り上げて、森に行く準備を始めてくれる。どんな魔物が待ち構えているかも知らず、御目出度いことこの上ない。
でも仕方ないわ、戦闘訓練は実地が一番効率いいのよ。
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