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+ 中級魔道士: 友情は値千金

※ひきつづき、地の中級魔道士のダラン視点です。

 芽芽(めめ)が召喚された時刻に近づいていきます。



*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*



幹部用の特別室を出ると、ちょうど財務長(ペルキン)が脂ぎった巨大な腹部と乾ききった金髪(かつら)を揺らしながらやってきた。


その後ろには、司書次長(グナエウス)が付き従っている。クセなのか常に黄赤色の髪をいじり、四六時中目を泳がせてた。


二人とも、黄金倶楽部(クラブ)の面子だ。


赤の聖女(メルヴィーナ)と鉢合わせして、八つ当たりされたくないんだろーな。儀式とやらが始まるまで、この中で待機するつもりだ。これでうちの上司(ルキヌス)は確実に足止めされる。僕が神殿最奥部から急いで姿を消す必要もなくなった。


ちょっと気分転換してますってノリで、宝物庫の前までお散歩。


入り口は、上級魔道士でないと開けられない魔法陣で施錠されている。先月終わりにルキヌスにねだって中を見せてもらったら、市場で見かける安っぽい木箱が五個転がってただけ。


あれから同じような木箱をさらに一個搬入した。申請書類には「餌用魔獣の死骸」ってあったし、竜騎士が中も検分している。


『でもさ、もしもだよ? どこにでもあるような木箱に見せかけた、魔導具だったら? 帝国中央軍区みたいな認識阻害の魔法陣を設置すれば……』


毛虫眉上司が『引きこもりモグラ』と馬鹿にした、ネヴィンの指摘が脳裏をよぎる。


同期の中でもひときわ優秀な中級魔道士なんだ。かなり打たれ弱くて何か月も欠勤(ひきこもり)しているけど、発想が柔軟で、細かい所にもよく気がつく。


『先輩! もごご。ほれなら箱はいじらなくへも、敷き詰めた魔獣肉に裸の魔導具を押し込めば、もぐ、なんとかなりまてんか? だって、もご。魔獣の体内に存在すふ魔核だって、工夫すりぇば、そのまま動力源の魔石代わりに……』


新米魔道士のポテスタスも真剣に考えてくれたっけ。


いつも何か食べてはモゴモゴ言って、活舌の悪さを誤魔化そうとするけれど、守銭奴ペルキンみたいな蔑まれていい悪質デブじゃない。魔導具師の両親に愛されて育った、素直で善良な肥満児だよ。


「――ひいいっ!」


全身が総毛立つ。いつの間にか竜騎士なみの巨漢老人が足音も立てずに背後へ周り、僕のお尻を節くれだった指で()んできた。


「うひょひょひょひょ、ダランじゃないか。この(じじい)と遊んでいくかえ?」


暗殺ギルド『黄金月』との窓口を長年引き受け、陰の神殿長と目されるアルキビアデス。なで肩と垂れ下がる紫の長髪を震わせ、下品な笑いをこぼしていた。


「ふん、稚児遊びは後の楽しみにせぬか」


さらに後方から、モスガモン神殿長の声がした。こちらへ歩きながら、乾いた細唇をわざとゆっくり()めつくす。三つ編みにした立派な青ヒゲが腰まで届く長老格だってのに、もう勘弁してよ。


ほらまた、酸っぱい臭いがして吐きそう。一緒にご登場した赤の聖女(メルヴィーナ)まで、老人二人に軽蔑しきった目を向けてるじゃん。


それにしても……神殿長と何一つ似ていない。髪や目の色が違うのは世間でもよくあることだけどさ。大きな鷲鼻(わしばな)を持つ祖父に対して、実の孫だという聖女のは細長く、鼻先が完全に上を向いている。唇も厚くて大きい。


魔力量の多い平民の子を(さら)い、相続権のない婚外子として育てるってのが、かつて帝国で横行したらしいけど……まさかね。ここは北のヴァーレッフェ王(ドいなか)国だし。


今夜は何の魔法陣を組むつもりなんだろう。魔獣闘技の研究でもなければ、失敗続きの契約獣召喚でもないはず。だって聖女は生き物全般を病的に嫌う。


王都暮らしの身としては、馬舎がなくなったって関係ないけどさ。この赤髪女が鷹塔(たかとう)まで神殿の外に移転させたせいで、僕ら事務方はすんごい迷惑。仮措置みたいだし、いい加減、元に戻してくんないかな。


「何見てるのよ。中級魔道士風情(ふぜい)がうろつかないでくれる?」


「これはこれは聖女様。大変失礼いたしました」


ダンスの才能に見放された彼女には出来そうもない、とびきり優雅な礼を披露して、扉の前からゆっくりと去る。


聖女付きの上位侍女、フェディラが数日前から仕事を休んでいる。そのせいで聖女の機嫌はダダ下がりだ。


癇癪(かんしゃく)を起こして別の上位侍女を解雇したばっかりだし、人手不足なんだよね。護衛竜騎士だったその子の姉のシャイラまで左遷させるとか、ホントあり得ない。


大体さ、メルヴィーナが聖女に選ばれる時点で精霊の趣味を疑うよ。あんなワガママ厚化粧女のどこが良いわけ?


あーあ。いっそのこと隕石(いんせき)でも落ちないかな、神殿長室とかに。そいで霊山ごと崩壊したらいいのに。


貞操の危機に(おび)える職場なんてホント嫌じゃん。でもシャイラの左遷先に僕まで移動願い出したら、詮索されるよね。


そういえば不吉な革命彗星(すいせい)が接近してるんだっけ。


精霊の逆立ち運わざわいてんじてふくとなすにならないかな。




*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*




恋人役を演じてくれてる同期ネヴィンの屋敷に着いて、深夜になって。


いきなり轟音(ごうおん)が響き渡る。机の上から落ちた陶器の皿が派手な音を立てる。床に積み重なった本の山が崩壊する。


「地震だ!」


毛虫眉が『脳筋トラ』と呼んだ竜騎士のパトロクロスが、手入れ中の剣を握りしめたまま立ち上がった。


それまで呑気(のんき)に蒸かし芋を(ほお)張っていた後輩のポテスタスは、真っ青になって毛布を被ってしまう。ネヴィンと僕は、腰帯にぶら下げていた魔杖(まじょう)を頭の高さまで伸ばす。


ま、まさか僕の不穏な願いが(かな)っちゃったなんてこと、ない……よね?




――この時の僕は知らなかった。


数か月前から魔素異常を口実に封鎖された霊山で、陰謀が進行中だったなんて。


ましてやこの地震以降、神殿長派が瓦解していくだなんて思いもしなかったんだ。







*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*






※「1.ある日、生贄(いけにえ)になる」で芽芽を召喚した、神殿の様子です。ちなみに今回の登場順だと、


・「一昔前のリンゴ毒蛾(パピヨン)ホスト」 → 事務代理ルキヌス

・「お手々ワキワキのでっぷり(かつら)疑惑」 → 財務長ペルキン

・「使いっパシリのチンアナゴ」 → 司書次長グナエウス

・「なで肩のゴマフアザラシ老人」 → 陰の神殿長(結界長)アルキビアデス

・「オウム鼻の三つ編み老人」 → 神殿長モスガモン

・「残念髑髏(どくろ)美女」 → 赤の聖女メルヴィーナ


です。

 芽芽が「さびれた農場のオンドリ」と呼んでいた、

副神殿長ファルヴィウスは、まだ神殿奥に到着していません。


 深夜の王都地震は召喚後ですが、白竜の手の中で意識を飛ばした際に起こったため、芽芽は感知していません。


 召喚に参加した魔道士の髪や(ひげ)の色が異なる理由は後々、説明があります。

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