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#004「掘り出し物」

アラン「今日は良い収穫であった。誠に見事な、値打ちある買い物をしたものだ。根気強く探した甲斐あって、素晴らしい逸品が見つかった」

  *

コユキ「さっきのお客さんは、ずいぶんご立腹でしたね」

リツコ「きっと、虫の居所が悪かったのよ。何があったか知らないけど」

コユキ「でも、あんな言いかたは無いと思います。だって、栗子さんのピアノ演奏はプロ級ですもの」

リツコ「ありがとう。でも、音楽大学に行けばザラにいるレベルの腕前なのよ、あたし」

コユキ「そんな、ご謙遜を。――あっ、マスター」

アラン「衣食足りて礼節を知る。氏より育ち。食生活と家庭教育で人柄が形成されるものだ」

リツコ「そうよ、小雪ちゃん。悪態を吐く行儀の悪いお客は、マトモな物を食べて来なかったか、あるいは親に恵まれなかったかしたと考えれば、かえって向こうが可哀想に思えてくるものよ」

コユキ「なるほど」

アラン「態度の大柄なお客は、よく喋る貨幣だと考えて割り切って適当にあしらうしかない。結果として店の悪口を言いふらされたとしても、悪口を言いふらす人間と仲良くするような人間は少数派だから、無視できる。それに、よほど悪質なケースなら、法的に訴えることも可能だ」

リツコ「ただし、数あるクレームの中には、改善点に繋がるヒントになる有益なものが含まれてることもあるの。それは無視しちゃ駄目よ」

コユキ「ここはもっと、こうしたほうが良いのにって意見ですね?」

アラン「良薬は口に苦し、忠言は耳に逆らう。粗が目立って感じるのは、それについて詳しく知っているからだからね。愛好心の裏返しだ」

  *

コユキ「この暖炉、ただのインテリアでは無かったんですね」

アラン「この通り、まだまだ現役だよ」

リツコ「ここのところ、ひと雨ごとに気温が下がってたものねぇ」

コユキ「これからは、コートやマフラーが手放せない季節ですね」

アラン「そして、ニット帽や手袋、傘の忘れ物が増える時期でもある」

リツコ「寒くなると、温かくなる物が恋しくなるわね」

コユキ「街中では、灯油や焼き芋のトラックを見掛けるようになりましたね」

アラン「つい、このあいだまでは、風鈴や蕨餅を販売していたというのに。早いものだ」

リツコ「ご隠居みたいな発言ね、亜嵐さん」

アラン「四季の移り変わりに風流を感じてるだけだ。――いらっしゃい」

ケイゴ「あぁ、寒かった。今日は風が強いし、どこか冷たい」

コユキ「いらっしゃいませ、常連さん。上着、お預かりします」

ケイゴ「あぁ、ありがとう」

リツコ「お客が素直に感謝や謝罪ができる人間ばかりなら、接客業は楽なんだけどねぇ」

  *

アラン「まだ短期大学生であるからカモミール・ティーを淹れたが、安眠できてるだろうか? それより何より、新しく買ったカップであることに気が付いただろうか?」


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