#033「縁は異なもの味なもの」
コユキ「右脚の具合はどうですか、常連さん?」
ケイゴ「再発した古傷が痛むよ。元々、膝には爆弾を抱えてたんだ。部活で酷使したから」
コユキ「そういえば、サッカー部でしたね」
ケイゴ「それにしても、病床で年を越すことになるとはなぁ。ツイてないよ」
コユキ「いい厄払い出来たのではないですか?」
ケイゴ「ハハッ。そういう見方もあるか」
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モブ壱「用も無いのにナース・コールを押さないでちょうだい。点滴に消毒液を入れるわよ?」
ケイゴ「洒落にならないなぁ。間違って触っただけなのに。看護師なら、もっと患者に優しくしてくれよ。白衣の天使だろう?」
モブ壱「クリミアの天使だって、麻酔を用意できない状況では、手術患者を殴って気絶させると答えたわ。飴と鞭よ」
ケイゴ「……白い布より、黒い革を纏ったほうが、お似合いだ」
モブ壱「何か言ったかしら?」
ケイゴ「いえ、何も」
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リツコ「雪の降る中、急な左曲がりの下り坂をバイクで突っ走って横転するなんて。一体、何を考えてるんだか」
ケイゴ「寝坊したから、急いでたんですよ。朝一番に取材する予定もあったし」
リツコ「それは大層、仕事熱心だこと。――そうそう、これを渡しとかないと」
ケイゴ「何ですか? おっ! 玉子サンドだ」
リツコ「コーヒーも飲みたければ、早く退院するようにって。――はい」
ケイゴ「ほほぅ。頭脳線が真っ直ぐですなぁ」
リツコ「誰が手相を見ろと言ったのよ。四百円」
ケイゴ「無料じゃないのかよ。友情割引は無いんですか?」
リツコ「配達料を上乗せされないだけ良いと思いなさい」
ケイゴ「俺の周囲は、シビアな人間ばっかりだなぁ」
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ケイゴ「母乳は、一種の献血ですからねぇ」
モブ弐「そうさ。粉ミルクだって滋養豊富で風味絶佳だし、冷凍食品やコンビニ弁当だって選びかた次第だよ。育児だって介護だって、前向きに捉えなきゃ。愉快犯を推理したり、天然ボケにツッコミを入れたりしてね」
ケイゴ「大変ですね。ヤンチャな娘さんと、認知症のお母さんの両方を面倒見なきゃいけないとなれば、体調を崩して当然ですよ」
モブ弐「ありがとう。――それにしても。離婚してシングル・マザーをしてると、困ったときに手を差し伸べてくれる友人の有り難味を、肌で実感するよ」
ケイゴ「まさかの時の友こそ、真の友だって言いますもんね」
モブ弐「本当にねぇ。――ごめんね。私みたいなオバサンの愚痴に付き合わせて」
ケイゴ「いえ、お気になさらず。ちょうど退屈してましたから」
モブ弐「袖振り合うも多生の縁。数日のあいだだろうけど、どうぞよろしく」
ケイゴ「こちらこそ」




