#032「今年のうちに」
コユキ「ただいまぁ」
リツコ「おかえり。ウッ。ちょっと、小雪ちゃん。もしかして、酔ってる?」
モブ壱「申し訳ない。主将の水割りを、ウーロン茶と間違えて飲んでしまったようで」
コユキ「主将さんも、ダラシナイわよ。あれじゃあ、負けて当然だわ」
リツコ「水割り一杯では無さそうね」
モブ壱「お察しの通りです。そのあと、どれだけ飲めるかという勝負に発展しましてね。宮部さんより先に、主将が撃沈しました」
コユキ「矢でも鉄砲でも核ミサイルでも、ドンとかかってこぉい」
リツコ「ともかく、あとはこっちで面倒見るわ。送ってくれて、どうも」
モブ壱「はっ。それでは、自分はここで失礼します」
*
アラン「グッ。どうしたことだい、これは?」
リツコ「小雪ちゃんの発言をまとめると、試合後に打ち上げでカラオケに行ったようなのよ。そこで、誤ってウィスキーを飲んだみたいでね」
アラン「おおかた、酔っぱらわせて悪戯しようとしたんだろうな。そして、見事に助平心が粉砕されたと」
リツコ「まぁ、ここまで酒癖が悪かったら、幻滅するわね」
*
コユキ「おはようございます、淀川さん」
アラン「おはよう。眉根を寄せてるけど、頭痛かな?」
コユキ「あと、胃の調子が悪いです」
アラン「完全に二日酔いだね。嘔吐感はあるかい?」
コユキ「オート……。自動?」
アラン「頭の働きも鈍ってるようだね。吐き気は無いかな?」
コユキ「いいえ。あの、淀川さん」
アラン「部屋で大人しくしてなさい。今日から一週間は、年末年始で、店は休みだから」
コユキ「そうします。うぅ」
*
アラン「朝に飲ませた胃腸薬が効いてきたようでね。ムカつきは治まったそうだ」
リツコ「そう。良かった。――お薬と一緒に、何か本を持って行ったみたいだったけど、何の本? サルトル?」
アラン「そんな遠回しにいたぶるような真似はしないよ。この前に買った学園コメディーさ」
リツコ「何だ。――明日は大晦日。振り返れば、今年も一年、色んなことがあったわねぇ」
アラン「本当だね。何だか、昨年よりあっという間に過ぎていった気がするよ」
リツコ「そうね。あたしも、ジャネーの法則を実感するようになってきたわ」
アラン「これからは、ますます加速していくんだろうなぁ」
リツコ「そうねぇ」
アラン「さすがに、もうトラブルやアクシデントが起きることは無いだろうね」
リツコ「あたしも、もう無いと思うわ。お店も、お休みにしてることだし」
アラン「そうだね。外から持ち込まれることは無いだろう」
リツコ「年の瀬くらいは、落ち着けるわよね?」
アラン「あぁ。たぶん、大丈夫だろう」




