#029「真面目に不真面目」
コユキ「前半一組目は幼稚園児さんたちで、『ジングル・ベル』と『キラキラ星』のピアニカ演奏。二組目は小学生さんたちで、『サンタが町にやってくる』と『赤鼻のトナカイ』のリコーダー演奏。三組目は男子中高生の合唱で、ドイツ語版歌詞による『樅の木』と『清しこの夜』。四組目は女子中高生の合唱で、英語版歌詞による『荒野の果てに』と『諸人こぞりて』」
ケイゴ「休憩を挟んで、後半一組目が社会人吹奏楽団による『くるみ割り人形』。二組目がグリー・クラブによる『おめでとうクリスマス』と『ホワイト・クリスマス』。最後の三組目は、奥様コーラスによる『アベ・マリア』と『ハレルヤ』」
コユキ「休憩中も牧師さんは弾けてましたね」
ケイゴ「面白いオジサンだろう? 宗教的なアレコレの硬い話は脇に置いとくとしてさ」
コユキ「もはや説教ではなくて、トーク・ショーでしたね。聴かなくて良いと言われながらも、ついつい耳を傾けてしまいました」
ケイゴ「今から言うのはショウモナイ説教だと前置きしながら、それとは裏腹なことを言うんだもんなぁ。牧師じゃなくてエンターテイナーだよ」
コユキ「フフッ。――今頃、お店の二人はどうしてるでしょうね?」
ケイゴ「さぁね。うまく行ってると良いんだけどなぁ」
コユキ「結果は神のみぞ知る、ですね」
ケイゴ「アーメン。神の御加護を」
*
リツコ「ハンド・ベルは、ケースに入れておいたわ」
アラン「ありがとう。来年は、もっと練習してから臨むべきだね」
リツコ「素人演奏にしても、グダグダだったものね」
アラン「宮部くんは日が浅いから仕方ないとしても、西野くんは練習不足にも程がある」
リツコ「本当ね。――後片付けは、この辺にして。ちょっとソファーで休まないこと?」
アラン「そうだね。一息入れよう」
*
アラン「唐突だが、十年前の聖夜のことを覚えてるかい?」
リツコ「忘れてないつもりだけど、再確認したいから、もう一度言ってくださる?」
アラン「繰り返させないでくれよ」
リツコ「あら。あたしに言わせるつもり? それとも亜嵐さんは、あたしの記憶違いをそのままにして平気なの?」
アラン「わかった。言うよ。記憶が改竄されてたら困るからね」
――アラン、咳払い。
アラン「十年経っても、お互いの気持ちが変わらなかったら、そのときは結婚しよう」
リツコ「よかった。間違いなかったようね」
アラン「やれやれ。昔の自分は、よくもまぁ臆面も無く、こんな歯の浮きそうなセリフを言えたもんだよ。恥ずかしいったらありゃしない」
リツコ「若気の至りよ」
アラン「それで、どうなんだい?」
リツコ「何が、どうなのよ?」
アラン「僕は、恥を忍んで告白し直したんだよ? 返事は無しかい?」
リツコ「あるわよ。これが答え」
――リツコ、エプロンから紙を取り出す。
リツコ「あたしの欄は、もう埋めてあるの。――あら、どうしたの? 困った顔をして」
アラン「まさか、阿笠くんも同じことを考えてるとは思わなくてね」
――アラン、ベストから紙を取り出す。
アラン「僕も、自分の欄だけ先に書き込んであるんだ」
リツコ「まぁ。どうしたものかしら? フフフ」
アラン「こうなったら、笑うしかないね。ハハハ」




