#002「ハロウィンの準備」
アラン「このラジオも、そろそろノイズが酷くなってきたなぁ。配線図を基に直してみたが、どうも効果が薄い。木製でアンティーク家具のような趣があるから気に入っているのだが、いよいよ買い替え時が来たようだ。しかし、今やラジオは主力商品から外れているから、無骨なプラスティック製品しかないだろうなぁ。ウゥム。いざというときには、テレビやスマート・フォンより格段に役立つというのに」
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コユキ「林檎、葡萄、柿、梨、栗、薩摩芋。秋は甘い物が美味しい季節ですから、ついつい食べ過ぎてしまいますよね」
リツコ「そうね。月並みだけど、天高く馬肥ゆる秋と言うだけあるわ。――いらっしゃい、桂梧くん」
ケイゴ「こんちは。おっ。今日は小麦の焼ける、いい薫りがするなぁ」
コユキ「いらっしゃいませ。今、ハロウィン限定メニューを試作してるんです」
ケイゴ「へぇ、そう。――何を作ってるんですか?」
リツコ「南瓜とホウレン草のキッシュよ」
ケイゴ「ほぅ。それは美味しそうですねぇ」
リツコ「物欲しそうな目ね。でも、売り物じゃないから駄目よ」
コユキ「それに、常連さんに差し上げたら、淀川さんの分が無くなりますから」
ケイゴ「それはマズイな。そういえば、マスターは?」
コユキ「二階ですよ。お急ぎなら呼んで来ますけど?」
ケイゴ「いや、そこまでしてもらわなくて結構だ」
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リツコ「星占いに、歴史事典、往年の映画関連情報に、文庫版。色んな種類があるものね」
アラン「この時期の書店や雑貨店には、来年のカレンダーや手帳が所狭しと並んでるものだ。――はい、いつもの」
ケイゴ「いただきます。――それで毎年、どのカレンダーや手帳が良いかと思って、あれこれ手に取って検討してみるんだけど」
リツコ「結局、いつもと同じか、それに近いものに落ち着くのよね」
アラン「向こう一年、毎日、目にしたり持ち歩いたりするものだから、過度な飾り気の無いシンプルなものが無難なんだよ」
ケイゴ「何か、冒険心が無いですねぇ。テストやレポートの判定が甘い教授の講義ばかり選ぶようなものですか?」
アラン「そういうものだ。偏屈な教授に不可を喰らうより良いだろう?」
リツコ「学生気分が抜けてないみたいね、桂梧くん」
ケイゴ「そりゃあ、一年半前まで大学生でしたから」
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アラン「電子レンジは、ガス・オーブンと一体型になったものがコンロの下に、冷蔵庫とトースターは作業台の下に。ともかく、カウンターより高い位置に電化製品を置かないだけで、厨房はスッキリとした印象になるものだ。ミルを挽いたり、パンでミルクを温めたりするとき、視界に電源コードが映ることは、僕の美意識に反する。ましてや、液晶やプラズマの青白い光がチラつくなど、言語道断である。……独り善がりだろうか?」