#027「クッキング」
コユキ「ブラウニーは、カカオの風味がしっかりしてますし、ティラミスは、チーズが濃厚ですね」
リツコ「サッパリした味が好まれる夏とは対称的に、冬はコッテリした味が恋しい季節だと思って。スコーンは、どうかしら?」
アラン「サクサクとして、コーヒーに良く合いそうだ。ピスタチオのグリーンも、目に鮮やかだね」
コユキ「モーニングのケーキは、この三種類で行きましょうよ」
リツコ「あたしも賛成なんだけど、亜嵐さんは?」
アラン「僕も同感だよ」
コユキ「わぁい。決まりですね」
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モブ壱「モーニングは、朝の十一時までなんだね」
アラン「えぇ。それ以降は、ランチ・タイムですから。――はい、スコーン」
モブ弐「文庫本が新しくなってるね。今回は、推理小説を買わなかったようだ」
アラン「汚れや破れが目立ってましたから、刷新しました。今回は、学園物と恋愛物と歴史物ですね。――はい、エスプレッソ」
モブ参「最近、よく単語をド忘れしてしまうのよ。若い頃は、思い出すのに時間が掛からなかったものなんだけど。スッと言葉が出てこなくてねぇ」
アラン「語彙が豊富になった証拠でしょう。口から発する前に、脳内で複数の類語表現が浮かんでるんですよ。選べるほど言葉をお持ちとは、羨ましい限りです。――はい、ティラミス」
モブ壱「実質営業時間は、看板とは違うのではないかい? 日の出過ぎから、日の入り前まで店を開けてる気がするよ」
アラン「太陽のリズムに合わせて行動してますから。日中であれば、いつ来店されても拒みまないことにしてます。――はい、ダージリン」
モブ弐「文庫本は一度で読み捨てるものであるから、カバーは要らない。紙も、もっと粗雑のもので良い。また読みたくなったときに、気軽に買い直せる価格であるべきだ。そうは思わんかね?」
アラン「馬が合いますね。ただ僕としては、カバーは必要ありませんけど、スピンは欲しいところです。――はい、ブラウニー」
モブ参「脳年齢を若々しく保つためにも、何かトレーニングをしたほうが良いのかしら? ナンバー・プレートやトランプの数字を加算していくとか、塗り絵をするとか」
アラン「視覚や触覚だけでなく、五感を満遍なく働かせると良いそうですよ。特に、インスタント食品を使わない料理をすると、フル稼働するようです。一昨日の晩御飯も、思い出しやすくなるでしょうね。――はい、抹茶ラテ」
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ケイゴ「テーブルで情報収集しながら、耳を傾けてましたけど。カウンターで三人同時に会話しても、一切混線しないんですね。おまけに、注文内容も完璧だし。まるで聖徳太子のようだ」
アラン「新しい客ではないからね。大まかな嗜好を把握してる分、間違えにくいだけさ」
ケイゴ「そのうち、何でも揃った便利店になりそうだ。お好み焼きや寿司、挙句の果てに、日焼け止めクリームやバーベキュー・セットまで用意してたりして」
アラン「僕は、どこぞのバーテンダーではないんだ。玉子酒も梅粥も用意しない」
ケイゴ「西瓜やライターくらいは出してくださいよ。――記憶力が抜群なのは、確かだと思うけどなぁ。俺なんか、記憶がロケット鉛筆状態だから、三歩三秒前のことが、即座に忘却の彼方へ行ってしまうんですよ」
アラン「検索や、変換予測に依存してるせいだな。一時記憶の領域が狭まってしまってるんだろう。そのうち、自己判断力、思考力、ソウゾウ力が機能低下してくるに違いない」
ケイゴ「三つ目は、イマジナリーですか、クリエイティブですか?」
アラン「両方だ。活字やワープロの台頭によって、手書きや手順の前計画が不要になり、思いついた部分から始められ、後々に手軽かつ簡便に継ぎ接ぎ出来るようになった反面、軽率で行き当たりばったりな言動が目立つようになったものだ」
ケイゴ「柔軟な発想と、フットワークの軽さを認めて欲しいところですけどねぇ」
アラン「僕からは、お調子者にしか見えないけどねぇ。でもまぁ、頭に浮かんだアイデアをノートしないと、いつまでも脳内でリフレインされて安眠妨害になるよりマシか」
ケイゴ「寝付きが悪そうですもんね、マスター」




