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#026「大人の事情とは」

ケイゴ「あれ? マスターひとりなんですね。バイトくんは?」

アラン「二階で、期末レポートに追われてるよ」

ケイゴ「もう、そんな時期か。バイトくんも、何だかんだで学生してるんだなぁ。――詰め込み教育とゆとり教育、行ったり来たり」

アラン「オー・イー・シー・ディーが行なってるピサの結果を受けての記事だね。読解力不足や理系離れを懸念してるようだが、僕としては、単年の変化に一喜一憂する記者のほうが、よっぽど情報リテラシーに欠けると思うね」

ケイゴ「教育効果は、すぐにはデータとして反映されるものではないですからねぇ」

  *

アラン「ストアとは柱廊のこと。学校の渡り廊下を想像すれば、差し支えない」

コユキ「ストア派が、ストイックで禁欲主義。エピクロス派が、その反対で快楽主義ですよね?」

アラン「現代では、そのような意味合いで理解しておいて支障がない」

コユキ「それから、ソクラテスがアカデメイアの創設者で、弟子のプラトンがスコレーの創設者。前者がアカデミーで大学、後者がスクールで学校なんですよね?」

アラン「そう覚えておけば、とりあえずは間違いない」

コユキ「ソクラテスは、無知の知や悪法も法であるという考えかた。プラトンは、純愛を表すプラトニック・ラブの語源ですよね?」

アラン「まぁね。ただ、厳密には違うらしいよ」

コユキ「そこまで厳密さを必要としないので、問題無いですよ。そこそこに勉強したあとが見受けられれば、単位は手堅いそうなので」

アラン「単位取得のためだけに適当に勉強して、つまらないレポートに忙殺される学生。縦割りの部署で、署名と印鑑を集めて回るスタンプ・ラリー。いつの時代も、ウダウダと理屈を捏ねては若者を誑かしている老人が多いものだね」

コユキ「クサンティッペでなくても、癇癪を起こしたくなりますね」

アラン「残念な話だけど、お互いを理解できなくて当然だね」

  *

リツコ「スペインの学生が、宿題の撤廃を求めてストライキをしてるそうよ」

アラン「宿題に学習効果がないことは、統計学で検証されてる事実だからね。少し前に話題になったが、英国のある公立校で、プルーブ・イット・プラスという制度が取り入れられてることも、その証左だろう」

リツコ「教師が一方的に宿題を出すのではなく、生徒が年齢ごとに設定された課題を、自ら選択して取り組むことになったという話だったわね」

アラン「生徒は、興味の赴くところに集中して時間を費やすことが出来るし、教師は、宿題の準備や確認に費やしていた時間を授業の準備に使えるようになったり、個々の生徒の興味や関心を知ることができたり、それに伴って直面する問題にも取り組むことができるようになったりする、といった利点が強調されていた」

リツコ「この取り組みに対しては、飛び級や原級留置と同じように、いまも賛否両論あるみたいだけど、あたしとしては賛成だわ。宿題を持ち帰る習慣は、仕事を持ち帰る癖に繋がるし、任意の居残り勉強は、サービス残業の容認に繋がるもの」

アラン「わが国はこうやって育ててきた、では通用しないのが、これからの国際社会だからねぇ」

リツコ「落とし物が、ほとんどそのまま持ち主に返ってきたり、屋外に自動販売機を置いてても、誰も故意に破壊しようとしなかったり、女性や子供が単独で行動しても、滅多に犯罪に巻き込まれなかったりするところは、日本の治安の良さとして世界に誇れるものだけど」

アラン「物価の高さや、都市の交通事情の悪さや、実態にそぐわない旧態依然と制度や慣習は、どうにか変わらないものかと思うところだねぇ」

リツコ「あたしたちが変化させていくべきなんでしょうけど、如何せん、多勢に無勢なところが大きいのよねぇ」


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