#024「井戸端会議」
リツコ「こんなに長いとは思わなかったわ。おかげで痺れを切らしちゃった」
モブ壱「御布施を包みすぎたんじゃないかね?」
モブ弐「世間並みですよ。今日のお坊さんは若いから、きっとサービス精神旺盛なのよ」
リツコ「お経は、ありがたい一説だけで充分」
モブ壱「さわりだけで良いと言っておけば良かったな」
モブ弐「本当。サビだけで結構よ」
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ケイゴ「結構なものを、どうも。――法事だったんですね、マドンナさん」
リツコ「あたしも、あたしの家族や親戚も、それほど熱心な仏教徒では無いんだけど、四十九日とお盆と暮れだけは、お坊さんを呼んで法要してもらって、そのあとに会食することにしてるの。欠席すると、あとあと面倒くさいから、余程の理由が無い限りは顔を見せることにしてるんだけど、内心では必要無いと思ってるわ」
ケイゴ「でも、そうでもしないと、日頃、離れて住んでる親戚が、一堂に顔を合わせる機会が無いのでは?」
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リツコ「極楽浄土は、暑くも寒くも無く、痛みや苦しみも無く、空腹や労役も無い。一切の汚れや穢れの無い、真っ白で清潔な楽園だというけれど、それが住み良い場所だとは、あたしには到底、思えないのよねぇ」
ケイゴ「俺も同意です。退屈で死にそうだ。いや、もう死んでるのか」
リツコ「それにしても、火葬場やゴミ処理施設の不足は、何とかならないものかしらねぇ」
ケイゴ「不吉だから、臭いが気になるからといって、忌み嫌って敬遠してばかりいては、一向に解決しませんよねぇ」
リツコ「このままでは、地上が鴉の天国になってしまうわ」
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コユキ「これは、全部お歳暮ですか?」
アラン「いいや。一番上の箱は、阿笠くんのお土産だ。遠縁の親戚の法事で、島根に行って来たそうだ」
コユキ「へぇ。――中身は何でしょう?」
アラン「出雲蕎麦だそうだ。年越し用にどうぞって」
コユキ「そっか。クリスマスが終われば、一週間には大晦日ですものね。あとの箱は、何が入ってるんですか?」
アラン「蕎麦の下が焼き海苔の缶、その下が鮭フレークや縮緬山椒の瓶詰め、一番下が緑茶と焙じ茶の茶葉。どちらも、ひと目で百貨店で買ったと判断できる、贈答用の詰め合わせだよ」
コユキ「お米があれば、お茶漬けが出来そうですね」
アラン「そうだね。尻が長い客に出してやろうかなぁ」
コユキ「フフッ。意地が悪いですね、淀川さん」
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コユキ「この折鶴の紙は、瓶に被せてあったものですよね?」
アラン「そうそう。紐で縛ってあったアレだよ。綺麗な和紙だから、ただで捨てるのが勿体なくてね」
コユキ「可愛いですね。淀川さんは、イラストだけではなくて、折り紙も得意なんですね」
アラン「子供の頃、裏の白い普通紙の広告は落書き帳代わり、正方形の紙は折り紙にしてたからね。条件反射だよ」
コユキ「再利用、再活用。立派なリユースですね」
アラン「企業には、リデュースにも力を注いで欲しいところだけどね。無駄に大きな箱、多量の緩衝材、過剰包装」
コユキ「輸送時に壊れないようにするためには、致し方無い面が大きい気がしますけど?」
アラン「宅配便は、ともかく。歳末に必要数以上に大量の詰め合わせを用意して、年明けに売れ残りを解体するのは、勿体ないことだと思わないかい?」
コユキ「でも、そういうシステムがビジネスとして確立してる訳ですし、習慣としても定着してますから、すぐに止める訳にはいかないと思います。――宅配便といえば、淀川さんのお父さんから、お荷物が届いてますよ」
――コユキ、段ボール箱を持ってくる。
コユキ「これです」
アラン「送ってこなくていいというのに。気が進まないが、開けてみようか」
コユキ「何が出てくるか、楽しみですね」
アラン「僕にとっては、閉じたままにしておきたいパンドラの箱だよ」




