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#023「浮き立つ気持ち」

ケイゴ「今年も、残りひと月半か」

コユキ「早いですよね」

ケイゴ「二十二日はコユキで、来月の七日はオオユキか」

コユキ「読みかたが違いますよ、常連さん」

ケイゴ「わざとだよ」

――ケイゴ、手帳を閉じ、店内を見渡す。

ケイゴ「ドアにはリース。ソファー脇にツリー。暖炉の横に靴下。すっかりクリスマス仕様だな。サンタクロースに手紙を送ったか?」

コユキ「もう、そんなことをするような小さい子供ではありませんよ」

ケイゴ「そうか? 願い事を書いてあの中に入れておけば良いのに。それとも、炭を入れられるような真似をしたのかな?」

コユキ「してませんよ。少なくとも、常連さんよりは良い子にしてました」

ケイゴ「ハハッ。違いないや。言うようになったね、バイトくん」

  *

ケイゴ「トナカイの橇に乗り、赤い服を着た人間が、煙突から家屋に不法侵入」

アラン「下では大鍋に湯を沸かしてため、被疑者は全身に重度の火傷を負う惨事に」

ケイゴ「途中から三匹の仔豚になってませんか?」

アラン「不法侵入に対して、過剰防衛だと思わないかね? 狼が狩猟本能に基づいて行動したことに対して、煉瓦の家を建て、あまつさえ狼を釜茹でにしようとするとは、行き過ぎた反応だよ」

ケイゴ「釜茹で、か。まるで石川五右衛門だな。底板が無いから、下駄を履いておかないと」

アラン「仔豚側も、罪が問われてしかるべきところだ」

ケイゴ「童話なんですから、近代法を持ち込まないことにしないと」

アラン「悪者を懲らしめるためには、何をやっても良いと勘違いしてしまう子供が育つのは、望ましくないと思うけどねぇ」

ケイゴ「そういう配慮ばかりしていたら、昔話の大半はアウトですよ。作り話だってことくらい、子供も理解してますって」

  *

アラン「不器用な人間には、補助する道具が必要なものだね」

リツコ「器用な人間が使っても、手間暇が省けるわ。――日本ではティー型の、海外ではアイ型のピーラーが主流なのね」

アラン「俎板を使わず、食材を手に持って剥くには、刃が縦になってるほうが都合が良いんだろう」

リツコ「使用後は汚れや水気を拭い、刃先に硬い物が当たらないように収納しないと、すぐに切れ味が鈍くなるのね」

アラン「保管方法は、剃刀と類似してるね」

リツコ「ステンレス製よりセラミック製のほうが堅く、ぶつけたり落としたりといった衝撃で傷つきやすい、と」

アラン「堅固なだけでは、折れたり欠けたりしやすいものだ。柔よく剛を制す」

リツコ「怪我をしないために、力を入れず、脇を締め、刃先を食材から離さないようにして使わないと駄目なのね」

アラン「鉋と同じだね。力任せに引いては、刃が木材や鰹節に食い込むだけだ」

リツコ「その譬え、イマドキの人間には実感が無いと思うわ。家に鰹節削り器が無かったり、技術の授業で本棚を作ったりしないもの」

アラン「鰹節を削らない、煮干で出汁を取らない、そもそも味噌汁を飲まない」

リツコ「朝食を摂らない家庭も、珍しくなくないわ」

アラン「財布の紐、袖の下、裏金。語源になった道具が使われなくなり、単語としてのみ残っている状態になるんだろうなぁ」

リツコ「下駄箱、筆箱、教鞭と同じね。これも進歩に伴う変化よ」

アラン「エアコンの普及とオート・ロックで、サンタクロースが締め出されるのも、人類社会の進歩といえるのかい?」


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