#021「らしくない」
リツコ「全国各地で相次ぐ火災。――空気が乾燥してるものねぇ」
コユキ「火の用心ですね。よく、消防団が拍子木を打って回ってますよね」
リツコ「ときどき、子供の声もするわよね。寒いのに、よくやるものだわ」
コユキ「子供は風の子ですね。寒さも嫌になりますけど、肌荒れも気になりませんか?」
リツコ「保湿してても、すぐにカサカサになるのよねぇ。でも、本気で色白で肌理が細かくて潤いのある肌をキープしようとしたら、快晴日数が少なく多湿な地域で昼夜逆転したインドア生活をしない限り無理よ」
コユキ「どこかで妥協しなきゃ駄目ですよね。――クシュン」
リツコ「あらあら。やっぱり冬場にスカートだと、足元が冷えてしまうわ。穿き替えてらっしゃいよ」
コユキ「いえ、慣れてますから。――グシュッ」
リツコ「全然、平気そうに見えないわ。冷えは万病の元。あたしに脱がされたくなかったら、さっさと部屋に行きなさい」
コユキ「ウワァ。着替えます、着替えますから。――そういえば、栗子さんは、いつも細身のジーンズですよね。スカートは穿かないんですか?」
リツコ「キッチンでは、パンツ・ルックのほうが捗るのよ。それに、あたしは生まれてこのかた、スカートを穿いたことが無いの」
コユキ「えっ? 学校の制服でも、ですか?」
リツコ「そうよ。小学校までは私服だったし、中学・高校はスラックスを選択したから。大学でも、白衣の下に穿く気になれなかったわ」
コユキ「へぇ。ワン・ピースやプリーツ・スカートで育った、わたしとは真逆ですね」
*
コユキ「体温は筋肉量が決めるんですね。男性のほうが寒さに強い理由にも繋がりますね」
ケイゴ「女性でも、体操とかウォーキングとかで筋肉量を増やして基礎代謝を上げたら、冷え性が改善される上に、ダイエットにもなるぜ?」
コユキ「良いこと尽くめですね。――そうそう。冷え性にならないよう腸を温めなさいって、淀川さんから渡されたものがあるんです。何だと思いますか?」
ケイゴ「湯たんぽ。いや腹巻かな?」
コユキ「違いますよ。これです。福引きで貰ったそうです」
ケイゴ「樫灰か。福引きの参加賞は、束子かポケット・ティッシュが定番だけどなぁ」
コユキ「一日一つとして、およそ三ヶ月分あるんですけど、淀川さんは使わないそうなんです」
ケイゴ「物欲センサーが逆に働いたのかもな。――使い捨て懐炉は、食品用乾燥剤の開発中にできた副産物だって話は知ってるか?」
コユキ「そうなんですか。知りませんでした」
ケイゴ「ほら。このメーカーは、チョコレートやガムの会社だろう? まぁ、味噌を作ってたら、樽の底に溜まり醤油が出来たようなものだな。――低温火傷に注意しろよ?」
コユキ「大丈夫ですよ。お洋服の上から貼りましたから」
ケイゴ「洗濯するときに、剥がし忘れないように。酸化鉄塗れになるからな」
コユキ「そんなヘマしませんよ」
ケイゴ「どうだか。バイトくんは、オミソだからなぁ」
アラン「半人前なのは、西野くんのほうだ。――ほら、ここを見ろ」
ケイゴ「校閲、ご苦労。――どれどれ?」
コユキ「今日も、相変わらず原稿が真っ赤ですね」
アラン「ちゃんとした校閲係を雇え。――自愛という言葉の中には、すでに身体を労わるという意味合いを含んでるんだ。だから、お身体をご自愛くださいと書くと、胃痛が痛いというのと同じことになる」
ケイゴ「そんな大手出版社みたいには、いきませんって。常に火の車ですから」
コユキ「火事にならないように、くれぐれも気をつけてくださいね」
アラン「足下に火が付いたら、洒落にならないからねぇ」




