#018「徒然なるままに」
コユキ「三月下旬なのに、季節外れの雪が降ってたんです」
ケイゴ「もしも男の子なら、いるかって名前だったかもな」
コユキ「大化の改新ですか?」
ケイゴ「蘇我氏じゃない」
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アラン「腕時計、万年筆、貯金通帳と判子、背広と鞄は、入学や入社で贈る物の定番だったんだけどなぁ」
リツコ「良い物を大事に、お手入れしながら生涯使い続けるよりも、手頃な物を買い換え続けるようになったせいね」
アラン「古くなって傷んだら修繕もせず捨ててしまうというのは、どうにも惜しい気がするんだけどねぇ」
リツコ「それもこれも、時代の流れよ。使い捨てなのは、物に限った話では無いわ」
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ケイゴ「異邦人って知ってるか?」
コユキ「カミュの小説ですか?」
ケイゴ「違う、違う。邦楽の曲名なんだけど」
コユキ「あぁ。何年か前に、元・星組のトップ・スターさんがカバーしてましたね」
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アラン「自分たちが、いかに幸せか。はたまた、いかに不幸せか」
リツコ「どらちにしても、何度も自慢され続けられると、傍迷惑に感じるね」
アラン「エス・エヌ・エスで自分たちが如何に幸せかをアピールしないと気が済まないのだろうが」
リツコ「ギスギスされるのも、メソメソされるのも嫌なものだけど、イチャイチャされても困るわね」
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ケイゴ「書類を届けた帰りに、昭和な感じの駄菓子屋があったんで、つい大人買いしてしまって」
アラン「気紛れにに立ち寄って、散財した訳か。――得意気に膨らませるな。ここは米国ではない」
ケイゴ「シンガポールでしたか。――店先で箱を確認してたら、一つ当たりがありましてね。交換してもらおうとしたら、店主の婆さんに、店にあるのは全部ハズレだと言われてしまって」
アラン「大人気無いことをするな。社会に適応しろ」
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ケイゴ「バイクで外回り中に、交差点で信号無視したんだけど、死角にパトカーが待ち構えててさ」
コユキ「年末は多いですよね。点数稼ぎをしてる、おまわりさん」
ケイゴ「連中の嬉しそうな顔が憎らしいよ、本当。巡査が犬なら、野良猫でも保護してれば良いんだ」
コユキ「助けた猫に、鼠を取らせるんですか?」
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リツコ「スキー・ジャンパー、メジャー・リーガー、プロ・サッカー選手。記録を更新し続ける伝説たち。――四十代になっても第一線で活躍し続けるアスリートは多いわね」
アラン「昭和四十年代生まれの四十代か。前半は、団塊ジュニア世代だね」
リツコ「団塊世代も、団塊ジュニア世代も、母数が多いせいか、競争心が強い傾向があるわよねぇ」
アラン「ライバルになる同級生の数が、他の世代より群を抜いて多いからねぇ。数のパワーだよ」
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リツコ「この付箋は何なの、桂梧くん?」
ケイゴ「マスターから、スペルが違うって言われてしまいましてね」
リツコ「あら、本当。これじゃあ、経済学者ではなくて、ピアノの魔術師ね」
ケイゴ「小文字のゼットひとつで、大きな間違い」
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コユキ「春は羊の毛刈り、秋は鹿の角切り」
リツコ「自然に生えてくるものなのに、生えたままにしておけないのが厄介ね」
コユキ「ワンちゃんやウサちゃんも、夏と冬に毛が生え変わりますよね」
リツコ「髪と歯は抜けないように、爪と産毛は生えないように進化しないものかしらねぇ」
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ケイゴ「マスターはストレスが溜まらないんですか? 他人に罵詈雑言を浴びせてるところを見たこと無いですけど」
アラン「苛立ち任せに怒鳴っていては、客商売は勤まらないよ。でも、胸のうちでは罵り倒してるさ。ラテン語系の言葉に翻訳してね」
ケイゴ「フランス語とか、イタリア語ですか?」
アラン「スペイン語やポルトガル語でも良い。音の響きが優雅で、シルクのハンカチで鼻をかむような背徳的快感があるものだよ」




