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#018「徒然なるままに」

コユキ「三月下旬なのに、季節外れの雪が降ってたんです」

ケイゴ「もしも男の子なら、いるかって名前だったかもな」

コユキ「大化の改新ですか?」

ケイゴ「蘇我氏じゃない」

  *

アラン「腕時計、万年筆、貯金通帳と判子、背広と鞄は、入学や入社で贈る物の定番だったんだけどなぁ」

リツコ「良い物を大事に、お手入れしながら生涯使い続けるよりも、手頃な物を買い換え続けるようになったせいね」

アラン「古くなって傷んだら修繕もせず捨ててしまうというのは、どうにも惜しい気がするんだけどねぇ」

リツコ「それもこれも、時代の流れよ。使い捨てなのは、物に限った話では無いわ」

  *

ケイゴ「異邦人って知ってるか?」

コユキ「カミュの小説ですか?」

ケイゴ「違う、違う。邦楽の曲名なんだけど」

コユキ「あぁ。何年か前に、元・星組のトップ・スターさんがカバーしてましたね」

  *

アラン「自分たちが、いかに幸せか。はたまた、いかに不幸せか」

リツコ「どらちにしても、何度も自慢され続けられると、傍迷惑に感じるね」

アラン「エス・エヌ・エスで自分たちが如何に幸せかをアピールしないと気が済まないのだろうが」

リツコ「ギスギスされるのも、メソメソされるのも嫌なものだけど、イチャイチャされても困るわね」

  *

ケイゴ「書類を届けた帰りに、昭和な感じの駄菓子屋があったんで、つい大人買いしてしまって」

アラン「気紛れにに立ち寄って、散財した訳か。――得意気に膨らませるな。ここは米国ではない」

ケイゴ「シンガポールでしたか。――店先で箱を確認してたら、一つ当たりがありましてね。交換してもらおうとしたら、店主の婆さんに、店にあるのは全部ハズレだと言われてしまって」

アラン「大人気無いことをするな。社会に適応しろ」

  *

ケイゴ「バイクで外回り中に、交差点で信号無視したんだけど、死角にパトカーが待ち構えててさ」

コユキ「年末は多いですよね。点数稼ぎをしてる、おまわりさん」

ケイゴ「連中の嬉しそうな顔が憎らしいよ、本当。巡査が犬なら、野良猫でも保護してれば良いんだ」

コユキ「助けた猫に、鼠を取らせるんですか?」

  *

リツコ「スキー・ジャンパー、メジャー・リーガー、プロ・サッカー選手。記録を更新し続ける伝説たち。――四十代になっても第一線で活躍し続けるアスリートは多いわね」

アラン「昭和四十年代生まれの四十代か。前半は、団塊ジュニア世代だね」

リツコ「団塊世代も、団塊ジュニア世代も、母数が多いせいか、競争心が強い傾向があるわよねぇ」

アラン「ライバルになる同級生の数が、他の世代より群を抜いて多いからねぇ。数のパワーだよ」

  *

リツコ「この付箋は何なの、桂梧くん?」

ケイゴ「マスターから、スペルが違うって言われてしまいましてね」

リツコ「あら、本当。これじゃあ、経済学者ではなくて、ピアノの魔術師ね」

ケイゴ「小文字のゼットひとつで、大きな間違い」

  *

コユキ「春は羊の毛刈り、秋は鹿の角切り」

リツコ「自然に生えてくるものなのに、生えたままにしておけないのが厄介ね」

コユキ「ワンちゃんやウサちゃんも、夏と冬に毛が生え変わりますよね」

リツコ「髪と歯は抜けないように、爪と産毛は生えないように進化しないものかしらねぇ」

  *

ケイゴ「マスターはストレスが溜まらないんですか? 他人に罵詈雑言を浴びせてるところを見たこと無いですけど」

アラン「苛立ち任せに怒鳴っていては、客商売は勤まらないよ。でも、胸のうちでは罵り倒してるさ。ラテン語系の言葉に翻訳してね」

ケイゴ「フランス語とか、イタリア語ですか?」

アラン「スペイン語やポルトガル語でも良い。音の響きが優雅で、シルクのハンカチで鼻をかむような背徳的快感があるものだよ」


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