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#015「丹精込めて手塩にかける」

ケイゴ「俺が住んでるアパートの近くに、小さな教会があるんだけどさ。そこの牧師の説教が関西弁丸出しで面白くて、おかしくて」

アラン「それで、洗礼を受けたのか?」

リツコ「敬虔な信徒には見えないけど」

ケイゴ「話を聴くだけで、洗礼も受けてなきゃ、寄付もしてませんよ。昨日の日曜礼拝の話だけど、アーメンとは、かくあれかし。これは中世の修道士たちが、同じ言葉を繰り返すのを面倒臭がり、同感の意を表明するだけにしたものである。つまり、牧師に対して『ホンマ、それ』と言ってるに過ぎないって言われてさ」

アラン「神の恵みに感謝します。ホンマ、それ。前途に幸多からんことを。ホンマ、それって訳か」

リツコ「厳粛な場面が、馬鹿馬鹿しく聞こえるわね」

ケイゴ「昨日から、この話を何度も思い出しては、笑いそうになるんだ」

アラン「宗教関係者も、新たな信徒獲得に必死なんだな」

リツコ「若い後継者が不足してるのは、どこの法人も同じよ。――明日は、米国の大統領選挙の本番か」

ケイゴ「いよいよですね。どっちの候補が当選すると思います?」

アラン「英国、ビルマ、ドイツ、韓国、東京都。ここ二・三十年のあいだに、女性主導者が次々に誕生してるからねぇ。その流れで、米国初の女性大統領に期待したいところだが、どうも支持率が低迷してるらしい」

リツコ「卑弥呼しかり、北条政子しかり、ジャンヌ・ダルクしかり、マリア・テレジアしかり、西太后しかり。社会や政治情勢の変革期には、女性リーダーが抜擢されやすいところだけど、どうなるかしらねぇ」

ケイゴ「まぁ、正直な話。俺としては、どっちもどっちな気がしてるんですけどね」

アラン「それを言ってしまっては、元も子もない」

リツコ「あたしも、出来たら現職三選が叶わないものかと思ってるわ。でも、それじゃあ駄目なのよ。権力の座は、定期的に交代しないと腐敗するから」

ケイゴ「難しいもんだなぁ。――話を変えますけど、このタレントを知ってますか?」

――ケイゴ、雑誌を見せる。

アラン「知らないな。新しいアイドルか?」

リツコ「亜嵐さんは、テレビや動画サイトを見ないから知らないわね。歯に衣着せぬ言動がインター・ネットで話題を呼んで、二年くらい前からバラエティー番組を中心に、ちょくちょく姿を見掛けるようになってるのよ」

ケイゴ「実は、ちょっと前に先輩とインタビューに行ったんだけどさ。あの辛口な毒舌やタメ語は、キャラクター作りとして計算されたもので、カメラが回ってないところでは礼儀正しいってことが判ったんだ」

アラン「視聴者の前で晒してる姿は、ビジネス向けの仮初めだったってことか」

リツコ「まぁ、そうでもしないと、厳しい芸能界を生き残って行けないんでしょうねぇ」

ケイゴ「日頃、素行の悪い不良が、たまたま気紛れで善い行いをすると、周囲が本当は良い奴なんじゃないかって思うようなものなんだろうけどさ」

アラン「反対に、日頃、品行方正な人間が、ちょっと羽目を外した行いをすると、周りから本当は嫌な奴ではないかという疑いの眼差しを向けられるものだ」

リツコ「不良は得で、優等生は損ね」

ケイゴ「真面目にして当然だとされる理不尽さですな。でも、金融機関や保険会社に信用されるのは、一度もグレたことのない健全な人間ですぜ?」

アラン「脛に傷を持つ人間は、同情は寄せられても、金銭は寄って来ないものだな」

リツコ「感情は豊かでも、勘定は貯まらないのね」


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