第4話 つかの間の食事
目を覚ますと、辺りは暗く既に夜になってしまったようだ。見上げると夜空は星で埋め尽くされていた。
「すげー、こんなに綺麗な星を見たのは初めてだ」
「それはよかったですわ。お体の方はもうよろしいのですか?」
声をかけられ驚いた俺が横を見るとリリアが1つ離れた椅子に腰掛けていた。どうやら、俺を見つけてからずっとそこに座っていたようだ。薄い毛布がかけてくれていたようだ。俺は自分に掛かっていた毛布を取り、リリアの肩に掛けてあげた。夜風は少し肌寒く、あんな格好では寒いのではないだろうかと思ったからだ。
「ずっと、ここに?」
「ええ、治療室に行くともう部屋を出たとお聞きして、見つけた時にはもう寝ていましたので」
あぁ、そういえばそうだったな。今日最後のスキルを使った後、横になったら寝てしまったのか。
「俺、どれ位寝てた?」
「8時間程でしょうか、お腹空きませんか?」
「そういえば、お腹空いたかも」
「では少し遅いですが、夕食でも取りましょう。この国を救って欲しいと言うお願いも、改めてそこで
お話させては頂けないでしょうか?」
「あぁ構わないよ。俺も色々聞きたい事あるしね」
俺はそう言うと、嬉しそうな顔をしてリリアは立ち上がると食事の用意をお願いしにいくので、先に食卓の間で待っていて欲しいと言われ、俺は先に食卓の間に行く事にした。場所は王室の間の隣だと言う事で迷う事なく到着した。既に先客がいたようだ。
「あっセバスチャン」
俺は思わず呼び捨てにしてしまった。
「お身体は大丈夫ですか?」
セバスチャンは痛みを堪えながら、席を立とうとしたので、そのままでいいと伝え自分もセバスチャンの近くの椅子に座った。自分の方が重症なのに、人の気遣いが出来るとは出来た奴だ、セバスチャン。
「俺は大丈夫です、セバスチャンさんの方は?」
「呼び捨てで結構ですよ。私も大丈夫です、回復魔法を受けたので傷は癒えたのですが痛みは残るので」
回復魔法だと!俺はこの世界に来て、魔法など見ていないぞ。もしかして、俺も魔法使えるんじゃないかと思うと心がウキウキしながら質問した。
「魔法って誰でも使えるんですか?」
「いえ、魔法は魔力を持つ者しか使えません。測ってみますか?」
セバスチャンはそう言うと、ポケットの中から小さな透明の水晶を取り出し、俺に差し出してくるので俺はそれを受け取った。
「これでどうすればいいんです?」
「それで結構です、あなたはどうやら少し魔法が使えるようですね。水晶を見てください。魔力の強さに応じて水晶の輝き方が変わります」
俺は言われた通り、水晶を見ると消えかけた豆電球程の光が灯っていた。つまり俺は使えるには使えるが才能はないと言う事がはっきりと分かってしまった。俺はがっくりと肩を落としながらセバスチャンに借りた水晶を返した。
「気を落とさないでください。素質が無い訳ではありません。努力すれば魔法をいずれ使えるようになるでしょう」
ありがとよ、セバスチャン。でもね、俺ってこの世界で努力して伸びる才能がないんですよ。あぁ終わった、さらば青春、一瞬の夢をありがとう。そんなアホな事を考えているとリリアが姿を現し次いで後ろから豪勢な食事が食卓の間へと運ばれてきた。豪華な食事は次々と食卓の上へとおかれて行く。どれも見たことがない食材ばかりだ。
「では頂くとしましょう。えっとまだ名前を聞いていませんでしたね」
「私も先程、話をしていたのに名前を聞いていませんでした」
2人はそう言いながら、食前酒を手に持ったので俺も合わせて同じ物を手に持った。そういえば、俺名前言ってなかったな。何にしよう。タダノヒロシ、ただひろ、うん決めた。
「俺の名はワイドだ」
「ワイド様とおっしゃいましたか」
「ではワイド様の召喚を祝して」
「「「かんぱーい」」」
グラスを軽く当て、中に入っている食前酒を飲み干しどの料理を食べようか迷っていると、食事を運んできてくれた人が少しづつお皿に盛ってくれた。取ってくれた料理を1つづつ口の中に入れると、どれもとても美味しく感じた。お腹が満たされた頃にリリアは本題の方を切り出してきた。
「ではワイド様、改めてお願いがあります」
「あぁこの国を救って欲しいって事でしょ?具体的に何をやればいいの?」
「私の騎士になってください」
俺は目が点になった。王女の騎士?魔王討伐とかじゃないの?
「それは私の方から説明いたしましょう。クラウディア王国は毎年他3国と武闘会を行っているのですが毎年連敗続きで次の大会で負けてしまうとこの国は壊滅してしまいます。それは何故かと言うと勝者には報酬が出るのですが、敗者がそれを支払っているのです。これまではトーナメント製の為、1回戦での敗北金のみでよかったのですが今年は総当り戦となってしまいまして。全敗すると3回分の報酬を払わなくてはならないのです」
俺は話半分にデザートをぱく付きながら話を聞いている。
「ふーん、ちなみに1回の試合の報酬はいくら?」
「1試合、1兆エーン必要です。ちなみにこの国の国家予算は年間3兆エーンです」
俺はぱく付いていたデザートを思わず噴出してしまった。
「いくらなんでも、高過ぎだろ!他の国はそんなにお金持ってんの?」
「いえ、他3カ国は年間およそ2兆エーン程かと思われます。つまり--」
「恐らくここは全敗するであろう事を前提にカモにされてるって事ね」
リリアとセバスチャンは顔を見合わせ、こちらに向き直ると2人とも力なく頷いた。
事情は分かった。とりあえず最初の目的は武闘会で最低2勝すると言う課題が出来た。だがそれにはまだ情報が少し足りないな。俺はもう少し内容を詳しく聞くことにした。




