第1話 俺、異世界に現る
意識が戻り、目を覚ますと目の前には、中世ヨーロッパ風の部屋にローブを被った人達が俺を取り囲んだ状態で何やら呪文のようなものを唱えていた。その更に奥には鉄製の鎧を着て槍を天井に突き立てるように立っている者が数名いた。その合間から1人の少女がこちらに歩み寄り、声をかけてくる。
「私の言葉はわかりますか?」
少女は白い華美なドレスを着ていて、頭にはティアラを乗せている。この少女は姫かと想像していたが彼女は会話が伝わっていると思うや否や話を続けた。
「私はクラウディア王国王女のリリアと申します。どうか、この国をお救いください」
そう言うと、リリアは俺に対し深々と頭を下げたので、俺は慌てて頭をあげるようお願いした。
「取りあえず、頭を上げてください。正直、理解が追いつかなくて色々と質問してもいいですか?」
リリアは頭を上げると、笑顔で小さく頷いた。リリアが余りにも美人な為、俺は少しドキッとした。
「そうですね、いきなりこちらの世界に招いてしまったので混乱しますよね。ではある程度私の方から説明させていただいて分からない事は随時、ご質問いただくという事でよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうして貰えると助かるよ。こっちも何を質問したらいいかも良く分からないしね」
「では、私の部屋でお話しましょう。セバスチャン、お茶のご用意をお願いします」
「お待ちください、この者がどのようなものかを、1度私に計らせてはいただけないでしょうか?」
セバスチャンと言う40歳位であろう執事は、俺のことを警戒していると言う訳だが正解だろう。俺だって知らない人がいきなり部屋に入り込んでくるのは嫌だ。
「では、俺はどうすればよろしいでしょうか?」
「そうですね、あなたの力量を知りたいので1度手合わせしていただけますか?それであなたの素性、力量はある程度分かりますので」
「わかりました、お受けしましょう」
「では、私に付いて来てください。城の外に広場がありますのでそちらで」
セバスチャンはそう言うと、俺に背を向け歩き出した。俺は力量はともかく素性まで分かるのかと、内心頭にハテナマークをいっぱい浮かべたが、この際気にしない事にしセバスチャンの後に続いて、部屋を出た。
王城の広間にセバスチャンと俺が辿り着くと、城内の窓から盛大な歓声が上がる。
「おおおーーーー久々にセバスチャン様のお手並みが拝見できる」
「がんばれえぇ、セバスチャン」
「セバスチャン、セバスチャン、セバスチャン」
おいおい、呼ばれてきたのにめっちゃアウェーなんですけど。セバスチャン一色じゃねーかよ。誰か俺を応援してくれる奴はいないのか。そう思った矢先、リリアの声が俺に届く。
「がんばってください、勇者様。お願い、勝って」
その声にセバスチャンの顔が一瞬引きつったのを俺は見逃さなかった。城を見上げるとリリアがこちらに向けて手を振っている姿が目に入り、それだけで俺のやる気は俄然アップした。
「では、手合わせをお願いいたします。武器はあちらにございますので。自由にお取りください。
ただし、模擬戦用ですので全て木製となっておりますが」
「あの、セバスチャンさんは武器はいいのですか?」
「はい、私はこの身体が武器ゆえ」
俺は相手が素手なのに自分は武器を使用するのに少々躊躇ったが、何せ素人なのでお言葉に甘えて武器を選ぶ事にした。片手剣、槍、斧とさまざまな種類の木製の武器が並べられている中で、リーチ差を考えて木製のナイフを選んだ。
「お待たせしました」
「では、始めましょう」
セバスチャンはそう言うと、構えを取ったので俺もナイフを持ち、相手の様子を伺いつつ身構えた。