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灰色の世界  作者: ken
第一章
6/138

第五話 =狂人の講義=

 勢いのあるうちに書いてみました。

 ただ勢いで書いたので、誤字などがありましたらご指摘下さい。

 よろしくお願いします。

 時間とは、人間に掌握できないモノである。

 魔術と言うファンタジックな力が世界を支配する現代でも、それは絶対的真理だ。時間は止まらないし、速くもならないし、巻き戻る事も無い。

 確かに時間を操る魔術は存在する。だが、それは一個人のみを対象としたものであり、尚且つ「時間を操る」のではなく、「自分自身を時間の流れに逆らわせる」ものなのだ。

 例えるなら、川の流れを加速させたり、そのベクトルを変えて自分が移動するのでは無く、自分自身で川の中を歩き、その場所に立つ。川は何も変わってはいない。流れる向きも速度もそのままだ。ただ物体が移動しただけでしかない。

 時間を操る魔術とは、時間を操っているのではなく、正確には自分自身が時間の中で移動するための術なのだ。時間は何も変わらない。止まったとしても、それは術者が一瞬の時間の中を移動しているだけであり、止まっている他のものからすれば、何の変化も起こってはいない。もし起きていれば、それは誰かが刹那の中を移動したためであると推測出来る。

 科学の時代ではどうだったかは分からないが、少なくとも魔術の時代では、それが常識なのだ。

 そして、時間はただ流れるだけで、決して何かを変えたりはしない。よく「時間が解決する」なんて言葉があるが、先に言った通り、人間が時間を完全に支配する事など不可能なのだ。時間は何も解決しないし、当の本人たちがどうにかするしかない。時間がたてばどうにかなる、なんて事は無いのだ。

 今、水瀬優次郎の目の前に広がっている光景が、正にその象徴だろう。


「…………まぁ、こうなるよね。普通は」


 優次郎はそう言って笑うと教卓に置かれた椅子に座り、叶から貰った教科書をペラペラとめくり始める。

 彼が魔術学院の講師として赴任してから、初の授業にて。その音は、彼以外の人間が全く存在しないその空間によく響いていた。




 その様子を、陰からのぞく女生徒が一人いた。

 優次郎の幼馴染でもある、綾瀬川瞳だ。彼女はただじっと優次郎の様子を廊下から見つめており、室内に入ろうという様子は微塵も感じない。


「入っちゃえばいいのに」


 そんな彼女の様子を見かねて、声を掛けた少女が一人。瞳がそちらを見れば、そこには生徒会長である芽衣が、呆れ顔で立っていた。


「姉さんに言われているのよ。『ユー君の授業初日、アナタ以外の誰かが教室に入って授業を受けるまで、決して入らないでね』って」

「ふーん、何でまた?」

「さぁね……」


 相変わらず、あの天才ひとの考える事は分からない。芽衣は頭を掻いて室内を見つめる。

 優次郎と言えば、ただじっと椅子に座り、教科書をめくっていた。その表情に、いつもの子供の様な雰囲気は無く、ただただ無表情に、機械的に手を動かしている。


「アナタは入らないの?」


 瞳が芽衣を見つめたまま問う。


「うーん、興味はあるんだけど……」


 その先は答えず、ただ苦笑して見せる芽衣に、瞳は静かに目を伏せた。彼女がこんな表情を見せる時は、大抵あまり口にしたくない事情がある時だ。この学院に入って4年。一年生の頃からの親友の癖に、瞳はため息を漏らす。


「言いたくないのなら良いわ」

「ありがと、流石は瞳っち。持つべきものは親友ともだね♪」


 ニコリと笑う芽衣に、瞳は思わず凝視した。彼女は本当に分かりやすい。悲しい時は泣き、うれしい時は笑ったり泣き笑いしたり、怒った時は思い切り態度や表情に表れる。そう言った意味では、彼女も優次郎と同じく素直なのだ。

 それが、瞳には少し――――――。


「それにさ」


 唐突に切り出された芽衣の言葉に、瞳は視線を再び戻す。見れば芽衣は、瞳の後ろを見て微笑んでいる。

 何事かと瞳もそちらを見れば、その正体はすぐに分かった。


「私が行かなくても、すぐに授業は始まるだろうし。瞳っちも教室に入る準備しておいたら?」

「……えぇ、そうね」


 急いだ様子でこちらに走って来る1人の少女を見つめ、後で注意しなければ、何てことを考えながら、瞳は答えた。






「―――――――ふぅ」

 

 パタン、と。

 読んでいた教科書を閉じ、優次郎は椅子に寄りかかる。

 そしてそのまま、ぼんやりと天井を見つめ始めた。


「こういう事か……なるほどね」


 彼が天井へ向けて言葉を投げた、その直後。

 ガラガラッ‼‼ と音を立て、教室の扉が勢いよく開かれた。

 態勢はそのまま、首だけをそちらに向ける優次郎。その瞳に映ったのは、ハァハァと荒い息をして肩を上下させている少女だった。

 その様子を、黙って見つめる優次郎。すると、その見慣れた少女は蒸気した顔を優次郎へ向け、口を開いた。


「す、すみません……遅くなりました」

「別に良いけど、次からは気をつけてね……雪菜ちゃん」


 そう言って、優次郎は笑った。それを受けた少女、月城雪菜は再び謝罪した後、優次郎の目の前に位置する席に座る。

 座った後、今一度教室に目を向けてみる。が、やはりそこには誰もいない。ただただ、主のいない椅子や机がそこにあるだけだった。


「まぁ、当然の結果だよね」


 優次郎は言う。


「恐れるもの、無関心なもの、嫌悪するもの…………そう言ったモノに近づきたくないっていうのは、人間の本能みたいなもんだからさ。雪菜ちゃんくらいのもんだよ、水瀬優次郎ボクの講義を受けようなんて人は」


 ケタケタと笑いながら、さも当然と言った様子で優次郎は語る。その表情は、この光景を予想していたと言う様子で、何も気にしていない風だった。

 

「じゃあ、生徒も来た事だし、早速授業始めよっか?」


 教室の扉が、再び開かれたのはその時だった。


「すみません、遅れました」


 そう言って、扉を開けた少女は扉を閉め、雪菜の隣に座る。それは、先ほどまで廊下で様子を見ていた瞳だ。雪菜は少し驚いた様に瞳を見つめる。

 視線に気づき、瞳は雪菜へとその目を向けた。


「何かしら?」

「あ、いえ! すみません」


 まじまじと見つめて失礼だっただろうか。そう思いながら、雪菜は慌てて前を向く。そこには、やはり子供の様な笑顔をした優次郎がいた。


「意外だな。瞳ちゃんはもう単位足りてるみたいだし、卒業論文にも集中しなきゃだろうから、今から新しい講義なんて取らないと思ってたのに」

「別に……卒業までに、得られる知識は全て会得したいと思いまして」

「ふーん、そう」


 そういうと、優次郎は椅子から立ち上がり、教卓に手をついた。


「じゃあ、改めて。これから授業始めていくよ。

 と言っても、ぶっちゃけ何の授業しようかなんて、まだ決めてないんだよね」

「……………………え?」


 さらりと語られた衝撃的な内容に、間の抜けた声を上げる雪菜。

 瞳はと言えば、あぁ、やっぱりかと言った様子でため息を吐いていた。


「叶さんからは、ボクの好きな授業をしたら良いって言われたんだけど、何をしよっかなーって考えてる間に今日になっちゃってさ」

「は、はぁ……」


 雪菜は相変わらずの声で言う。拍子抜け、とは正にこの事だ。

 狂人ゆうじろうの授業だと言うからには、ある程度の覚悟を持って来たつもりだが、まさかこんな展開が待っていようとは、夢にも思っていなかった。


「だから、そうだな……初めて来た生徒って事で、今日は雪菜ちゃんに向けた授業をしようかな」

「わ、私に…………ですか?」

「うん。今日は初日だし、お試し授業って事でさ。

 もちろん、瞳ちゃんにとっても為になる内容だとは思うけど。瞳ちゃん、それでも良い?」

「構いませんよ」


 間髪入れずに、瞳は答える。

 その即答ぶりに、雪菜も目を丸くした。


「って事で、今日は雪菜ちゃんに向けた授業をします。と、言うわけで雪菜ちゃん」

「は、はい!」

「雪菜ちゃんは、どんな魔術師になりたいのかな?」

「え……」


 突然の質問。優次郎はニコニコと笑いながら、自分を見つめてくる。

 一瞬呆気にとられたが、やがて雪菜は口を開いた。


「誰かを護れる…………いえ、『救える魔術師』になりたいです」


 そこに普段の優柔不断な彼女はなく、凛とした声で言った。これが彼女、月城雪菜を形成する想いの全てだった。

 優次郎はしばし雪菜を見つめた後、「そっか」と一言だけ返す。


「答えてくれてありがとう。じゃあ早速始めよっか。

 誰かを救いたいって言った雪菜ちゃんは、何が知りたいのかな? 例えば…………」


 一拍おいて、優次郎は嗤った(・・・)


「今この場で、特定の誰かを殺す魔術…………とか?」


 ゾクリ。

 雪菜の背筋に、悪寒が走った。

 彼、水瀬優次郎の表情は、本当にそれを……殺人術を教え込んでも良いという表情だったからだ。もし、自分が否定しなければ、彼は迷いも無く、今この場で誰かを殺してみせるだろう。それが――――水瀬優次郎と言う『狂人』の力なのだから。


「……水瀬先生」


 それに異議を唱えたのは、隣に座っている瞳だった。

 無感情で冷めた目で、優次郎を見つめている。それを受け、優次郎はまたいつもの笑顔に戻る。


「怖い顔しないでよ、冗談だって。そんな事教えちゃったら、叶さんに怒られちゃうし」


 その言葉を受け、雪菜は内心胸をなでおろした。

 同時に、この場に瞳がいて本当に良かったと、1人そう思う。


「さて、冗談はここまでにして…………雪菜ちゃん」

「あ、はい!」


 思わず背筋を伸ばした雪菜に、優次郎は苦笑する。


「そんな畏まらなくていいよ。それより……雪菜ちゃんはさ、魔術って何だと思う?」

「え?」


 突然の質問に、雪菜は固まる。

 魔術とは何か。そんな事は、この学院に入ってすぐに習う様な内容だ。魔術師の卵にとっての超基本的内容であり、例えるならば、小学六年生にたいして「一+一は?」と質問しているにも等しい。

 何故、こんな事を今さら……そんな思いに支配されつつも、雪菜は答えた。


「い、一部の人間の体内に宿っている魔力と、自然の力を共鳴させる事で発生するもの……ですよね」


 これが一般的な魔術の解釈だ。

 一部の人間の体内に宿る『魔力』と呼ばれる力。その力と、自然界の持つ力、例えば炎や水などを共鳴させる事で、一時的に非科学的な力を手にするという事。それが魔術だ。

 

 だが――――――瞳は1人思う。

 雪菜は気づいていない。否、気づける筈がない。

 この男が…………水瀬優次郎が、そんな答えで満足する訳がないと。


「じゃあ……その根拠は?」

「え?」

 

 思わず、雪菜は聞き返した。

 見れば優次郎は、少し興ざめ、と言った表情を浮かべて、右手を教卓に立てて頬杖をついている。


「今の答えは、確かに世間一般的には正解だよ。ボクからしても『頑張ったで賞』くらいならあげられるけど、『たいへんよくできました』には程遠いかな。

 確かに過去の研究データを見ても、今の人間の体内に『魔力』って名づけられたものが宿っているのは間違いないだろうね。

 それにしたって、妙だと思わない? こんな教科書に書いてある方法で、急に人間が魔術を使える様になるなんてさ。しかも、人間にとって操れるものと操れないものがあるじゃんか。

 例えば炎だけど、確かにこの間猪丸君がやった様に、人間は『魔力』を行使する事で、炎を操る事が出来る。

 でも、もし魔術で炎を完全に(・・・)支配できるとしたら、人は火山を噴火させたり、太陽を自由自在に操ったりできると思う?」

「それは…………」


 不可能だ。

 猪丸健二がやっている様に、そしてこの日本魔術学院でも習うように、人間は魔力を行使し、炎を操る事は出来るだろう。極めれば健二の様に、炎で龍を形作る事も出来る。

 だが、火山や太陽となれば話は別だ。 

 理由は単純明快。

 『巨大すぎるから』である。


「何でなんだろうね。炎であんな龍を召還したり出来る様にはなるのにさ。しかも未成年でだよ? まぁ、それには個人差があるんだろうけど…………。

 でも、太陽や火山みたいな巨大なものは、人間には操れない。操れる人間もいるかもしれないけど、いたとしても極少数だよ。それこそ『天才』なんて呼ばれてる人だけだろうね。

 少し話が逸れたけど、つまり人間が使える『魔術』には限界がある。そして、何故『魔術』って言う未知な力を、人間は発見出来たの? 何故、『魔力』が人間に宿ったの? そもそも魔術って、本当に科学が衰退する少し前に発見されたものなの?」 


 もう一度聞くけど、と優次郎はつづけ、前のめりになって雪菜を見つめた。


「魔術ってさ…………一体何なんだろうね、雪菜ちゃん」


 





 まだ、講義が始まって10分ほどしか経っていない。 

 だと言うのに、芽衣はその教室の前から動く事が出来なかった。

 瞳が教室に入ってから、自分も自習室に言って卒業論文を進めようと思っていたのだが、彼の開口一番から始まり今まで、芽衣はその授業に興味を抱いてしまった。

 魔術とは何か。それは確かに、雪菜の言う様に人間の持つ魔力と、自然の力が共鳴したもの。

 だが、だとしたら何故、人間は魔力を持っている? 何故、人間以外の動物は魔力を持っていない? そして、何故人間の中にも、魔力を持つ者と持たざる者が存在する?

 優次郎が問いかけた疑問は、今まで考えもしなかっただけで、確かに存在していたものだ。ただ、誰も目を向けようとしておらず、「魔術とはそういうものだ」という固定概念が、そこに目を向ける事を拒絶していただけ。

 ならば、優次郎は何故こんな授業をするのだろうか? 

 

「自分は分かっているから……って事なの?」


 芽衣の口から、誰に問うでもなく、そんな言葉が飛び出した。







 



 雪菜は、閉口したまま動けないでいた。

 今まで彼女の中にあった常識が崩れていく。

 こちらをじっと見つめる優次郎は、まるで無言で自分に語っている様だった。

 『常識を疑え』と。

 瞳はと言えば、何もしない。ただペンを持ち、じっと優次郎を見つめるだけだった。


「………………まぁ、いきなりこんな事言われたって、一年生に答えるのは難しいか」

 

 静寂を切り裂いたのは、優次郎のその声と、いつもの子供の様な笑顔だった。

 

「じゃあ、そうだな。実際に火炎魔術を使って授業を進めていこうか。

 あ、これから言うのは、あくまでもボクの持論でしかないからね。それを頭に入れて聞いてほしいんだけど………」


 そう言って、優次郎はおもむろに右手を天井へ向ける。

 しばらくすれば、その掌から一つの小さな灯が生まれ、少し日の傾きかけた教室を、ほんの少しだけ明るく照らした。


「これが、皆の言う火炎魔術だね。と言っても、出力は最大限にまで絞ってあるけど。

 そうだなぁ…………雪菜ちゃんに、ここで質問です!」


 またもは突然に質問に、雪菜は目を見開く。


「この火炎魔術だけど…………何で出来てると思う?」

「え、それは…………」

「最初に言っておくけど、炎と魔力、なんて簡単な答えじゃないよ?」

  

 答えようとしていた事を先に言われ、またしても雪菜は閉口する。

 炎と魔力、それによって火炎魔術は完成する。だが、それでは優次郎は納得しないと言う。ならば、一体火炎魔術は何で出来ている?

 いくら考えても、きっと自分には答えられそうもない。

 ならば、正直に『わかりません』と言うしかない。

 その時だ。


「…………酸素30%、炭素10%、魔力60%」


 それまで黙っていた瞳が、おもむろに口を開き、そんな言葉を口にした。

 雪菜は横目で彼女を見つめる。だが、彼女は目を閉じ、頬杖を突いた状態で止まっている。

 優次郎はそんな瞳をしばらく見つめた後、やがてニコリと笑い


「はい、正解」


 と、そう答えた。


「い、今のが正解なんですか?」

「うん、そうだよ? 酸素30%、炭素10%、魔力60%……この三つのこの配分で、この火炎魔術は完成したんだ。勿論、これは魔術として炎を操作する時の塩梅あんばいだから、暖炉とかで燃えてる炎すべてには当てはまらないけどね」

 

 そう言って優次郎は、火炎魔術を消し、教卓に両手をつく。


「そもそも今の場合、魔力は何の役割をしていたのか。

 それはさっき雪菜ちゃんが言った様に、自然界の炎と共鳴させるためでも何でも無いんだ。

 ただ、炎を発生させるには何かを燃やす必要があるよね? 暖炉で燃えている炎の場合は、切った木をくべている様にさ。それを、今は魔力に熱を加えて大気中の酸素と反応させたってだけなんだ」


 つまり、と優次郎は更に続ける。


「魔術を教えてる先生ってさ、よく『魔術で大事なのはイメージだ』って言わない?」

「あ、はい! 私も、最初の授業でそう習いました!」

「それは何でかって言うと、『炎が燃えている』ってイメージする事で、大気中の酸素と魔力を反応させやすくする為なんだ。

 『炎が燃えている』ってイメージする事で、イコール『酸素と熱を反応させる』って無意識に思う事につながるからさ。

 当然、使っている本人に、その自覚はないだろうけど。だって…………」


 そう言って、優次郎はにやりと笑った。


「それは今の魔術の時代じゃ『時代遅れ』の烙印を押されてる『科学』の時代にあった、『化学ばけがく』っていう分野の考えだからね。

 でも、この考えは時代遅れではあるかもしれないけど、だから『分からない考え』じゃないんだ。 

 炎を発生させるには酸素と熱が必要って考えは、人間のDNAに刷り込まれたもんだからさ」


 言葉も出ない。

 魔力と自然を共鳴させる事で、魔術は発生する。それがこの世界の常識だ。

 だが、彼はその考えを更に掘り起こした、言い換えれば『科学的根拠』を用いて証明している。一見トンでも理論にも見えるが、実際に彼がその考えに則って魔術を使っており、更にそれを誰も止める事が出来なかったのだとしたら、これを唯の『戯言』と受け流す事は出来ない。


「つまりは、こういう事だよ。『魔術をより深く追及するためには、まず科学・化学を知る事』。

 今瞳ちゃんが答えた様に、魔術一つ一つに化学で証明できる配分を完璧に理解出来たら。

 そして、それを瞬時に見分ける能力があったとしたら……。

 この前の猪丸君みたいな人を止めるには、随分便利だと思わない?」


 その通りだ。

 相手の魔術が何で出来ているのかを知る事が出来るとなれば、逆にそれに対抗しうる、または上回る配分で魔術を組み込む事が可能になるという事だ。

 雪菜の中にかかっていた霧が、一気に晴れた気がした。

 そう。この間の優次郎は、この考えを使ったのだ。

 あれだけ巨大な炎を、小さな空気砲一つで打ち破れたのは、あの炎を形作っている物質を理解し、それを上回る配分で作った空気砲を放ったからなのだ。

 今の教授陣がこの授業を聞けば、鼻で笑い飛ばすかも知れない。

 だが、実際に目の当たりにした雪菜には、それは出来なかった。

 さらに、だ。

 この考え方をマスター出来たとしたら、それ以上の強度を誇る防壁や、それ以上の力、もしくは相殺させるだけの力を持つ魔術、つまり『自分が意図した程度の力で、魔術を自在に操れる』という事になる。

 そうなれば……


「より多くの人たちを救う事にもつながる……」

「そーいう事だね。更に巨大な力をぶつけて巻き添えを出すことも無くせるし、押し負けて自分や自分が救いたかった人を傷つける事も無くなる」


 それは正真正銘、雪菜の理想とする魔術師に近づくための、大きな一歩だった。


 キーンコーン…………

 

 雪菜がその結論に行き着くのと、講義の終了を告げる鐘が鳴るのは、ほぼ同時だった。

 優次郎の授業は、大体こんな感じです。

 新しい魔術を教えるわけでも、魔術師としての心構えを説くわけでもありません。

 彼の授業は『魔術という力を、科学的観点から見つめなおし、考察する事』です。

 多分、これが彼の強さでもあるんでしょうね。いくら魔術の時代が来て、科学が時代遅れになったとは言え、自然を構成する物質に変化があるわけではありませんから。

 所詮、人間に自然を根本から変える事など出来ない。

 そんな考えがあるからこそ、優次郎はこういった授業が出来るのだと思いますし、叶も彼に講師を頼んだのではないでしょうか。



 次回もなるべく早く投稿するつもりですので、また次回もよろしくお願いします。

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