2章
夢の中で俺は詰襟をだらしなく着こなし、5人くらいの少年とともにいた。
この光景は忘れもしない。いや、忘れることなどできない、中学のころだ。
俺は笑っていた。周りの少年達も笑っていた。
なんで笑っているのだろう。俺にはわからない。だがこの時の俺はただそこに存在していることがとても楽しかったのだろう。
やっていることは低能と同じだ。馬鹿話をして、内輪ネタで盛り上がり、帰り道の行動で叫び散らす。今考えると白い目で見られていたのかも知れないな。反省。
しかし、俺たちは低能ではなかった。
なぜだか俺たちはみんなハイスペックで、頭の良い奴がそれはそれはゴロゴロいた。
その他にも、運動できる奴や、音楽センスに満ち溢れたやつ、有り余る才能をゲームにつぎ込んだ奴(あいつには真剣に敵わない)がいた。よく言えば個性豊か、悪く言えばアクの強い奴ばっかりだ。でも、なぜか、俺たちは纏まっていた。何と言うか、うまく言えないが、絶対的な何かで繋がっていた。
こいつらとの出会いがもう少し早ければ、俺の人生観ももっと華やかだったんだろうな。
少し遡のぼるが、俺の小学校時代の話をしよう。
小学校時代、、 言ってはみたがあまり記憶にない。
そういえば、小学校のころは俺が矢面だって人をいじめていた。
別に俺はいじめっ子だったわけでもないし、クラスを煽動したわけでもない。
ただ己の劣等感の赴くままに自分より弱いものに、暴力をふるっていただけだ。
劣等感。なにに対してだっただろうか。そこまでは思い出せない。
ただ昔からプライドだけは高く、自分だけは傷つくのが嫌だった俺は武器を使って人をいじめていた。
多分いじめられる側にも問題があったのだと思うが、人道的にどうかと思う。我ながら。
後日論だが、案の定俺は教師に告げ口され、親共々呼び出しをくらい、校長に叱られた。
それだけにとどまらず、朝会で晒し者にされた。
そのときからだ。俺のロッカーや机が日に日に傷ついていったのは。教科書がなくなっていったのは。ランドセルも程なくして木端微塵に引き裂かれた。母親に理由を聞かれたが意地でも答えなかった。
そして、俺は中学に入学した。あの時からだろうか。小学校時代を黒歴史と認識するようになったのは。
そして俺は認識する。
「俺以外は、、、屑だ、、」と。
見下すことに快感を覚えた。冷ややかな目を身につけた。
「これこそ俺があるべき姿、、、」
そしていつしかクラスの人間を皮肉めいた口調で、罵倒するようになっていた。
これは小学校時代の憂さ晴らしだったのだろう。
あの時の俺はまだガキだった。
罵倒するようになってから、俺の境遇はがらりと変わった。
クラスの人間は俺のことをコミュ障かなにかと思っていたらしく、話しかけてくるどころか、存在さえ認識されていなかった。
しかし、それからは明確な敵意と怨みの視線が俺に向けられた。
39対1の孤独戦争だった。よって俺は中一時代の教科書は一冊も持ってないし、中学校指定だった鞄も3つある。正直言って、精神年齢が低かった。
そして俺はまた認識する。
俺以外のやつと関わることに意味はない。
この世界は無彩色だ。
と。
それらを認識してから時間が経つのが早くなった。
周りを見るのをやめ、自分一人で自分についての回想に耽るようになったのはこの頃からだ。
それから程なくして俺が転校することが決まった。中2の夏だった。
理由は極めて明快だ。いじめの発覚。
説明はこの一言で事足りるだろう。そして俺は彼らに出会った。
俺が幼かった頃、、そう。砂遊びで楽しめたぐらいの年の頃だ。
母と父はとても優しかった。
夕食は毎日みんなで食べて、週末はいつも父の運転する車で遠くに連れてってもらった。
水族館、動物園、映画館、高原、海。
とても幸せな、日常だった。
俺は、この日常に生きたかった。もっと色々して貰いたかった。
しかしあの時、俺はまだ知らなかった。
俺がいい子であることが、彼らの絶対条件であったことを。
小学校にいじめがばれて呼び出された日があっただろう?
あの日、俺は母から平手打ちをくらった。
父から激怒された。
「お前は俺らの期待を裏切るのか?なぁ?」
「俺らの前でのお前は嘘だったのか?」
「お前なんて知らない。」
わからなかった。なんて返せばよかったのか。
俺はただ俯き黙ることしか出来なかった。
母は終始泣いていた。
その日から、俺らは全員バラバラで食事を摂るようになった。
週末に父が仕事の日が多くなった。
事実かは今では確認の仕様がない。
母は家にいたようだったが顔を合わせることはなかった。
ある日の、俺の玄関には、いつも通りの甘ったるい華の臭いはなく。それを押し殺すような鉄の臭いが充満していた。血である。
今でも鮮明に思い出せる。
思い出す度に息が詰まる。胃酸がこみ上げる。
紅に染まる絨毯を。横に転がる銀色の塊を。
正直あの時は脳内が白く、ただ真っ白く染まり、その空気に飲み込まれた。思考は止まる。
驚愕もせず、悲壮感も喪失感もなく、すべての感情が消えていた。1秒1分1時間、どのくらいの間動けないでいただろう。
そして俺の膝が笑い出す。止まらない。
あの時俺はただ恐怖に苛まれいた
やっと死んだ。やっと死んでくれた。
と安堵していた自分の思考回路に。
思わず嗚咽が漏れる。もう正常に立ってなどいられない。頭を抱え、真紅に染まったカーペットに倒れこむ。そして独り震える。ただひたすら震える。
確かに、確かに俺はすべてを消したいとか俺だけの世界になればいいとか思ったことも多々あった。だから母はある意味俺の障害になっていたかもしれない。
しかし。しかし。楽しかった、恵まれていた思い出が俺の脳へと流れ込む。
嗚咽が止まらない。真紅のカーペットが涙で滲む。
悲壮感や喪失感はどこにもない。
わからない。
理解できなかった。
なぜ俺はあの時涙を流したのか。




