親離れ 小熊座流星群
はじめに
この度は「小熊座流星群」をお買い上げ頂き誠に有難うございます。
この短編小説は、ただ文字を目で追って読むのではなく、声を出して読み上げると、より一層作品感が増すように作られております。
本内容には、沢山の「おとうさん」「おかあさん」という文字がつかわれております。
もし、あなた様が、おとうさんのことを「おとうちゃん」と普段呼ばれている場合は、本書の「おとうさん」の個所を、「おとうちゃん」と読みながらお楽しみ下さい。
では。
親離れ 小熊座流星群
常先輩
何かぼぉーっとしてきた。
ぼぉーっとしてきて、ぼぉーっとしてきて、
「あっ!」っとボクは気が付いた。
ボクは何かの袋に包まれていた。
温かい液体の中にいた。
何か、ドクン、ドクン、と音が聞こえてきた。
そのドクン、ドクンという音が、とてもボクの気持ちを落ち着かせた。
ボクを包んでいる袋が、ゆっくり、ゆっくりと上や下に少しだけ動いている。
今ボクは、とても温かく、とても安心だ。
目が覚めたけど、すぐボクは眠くなった。
この場所は安心なので、眠たくなったらいつもすぐ眠る。
ボクはいつも寝てばかりだ。
ボクはいつでも眠たい。とってもとっても眠たい。
また目が覚めた。
目が覚めてもやっぱりまだ眠たい。
眠たいのでまた眠ろう。
けど、何だか周りの袋が窮屈なのに気が付いた。
何か狭くなった気がする。
なんだろうと思っていたら、ボクの周りの温かい液体が、頭の上の方の穴から、ブーっと音をたてて何処かへ出て行ってしまった。
「なんだろう?どうしたのだろう?」
そしてすぐ、ボクを包む袋が急に狭くなってきた。
「えっ!このままだと温かい液体が出ていっちゃった穴からボクも出ていっちゃうよ!
いやだよ!ここから出たくないよ!」
嫌がっていたら、動かしたことのなかった自分の手足が動くのに気付いた。
「出たくないよー!」
ボクはうまく手足を動かして、この袋から出ないように頑張った。
けど、袋はもっと小さくなってきて、ボクを穴の外へ押し出そうとする。
「いやだよ!出たくないよ!」
そして袋は、もっともっと小さくなり、ボクを頭の上の穴から外へと押し出してしまった。
「わぁー!!!」
ボクはびっくりした!
急に明るくなった!
急に寒くなった!
急に安心できなくなった!
「いやだーーー!!!」
ボクは泣いたことなかったけど、突然泣き始めた。
「キーッ!キーッ!キーッ!」
ボクの口から何か音が出た。
「キーッ!キーッ!キーッ!」
こわいよ!こわいよ!っと思っていたら、何か大きな生き物に体中をぺろぺろと舐められていた。
「あっ!なんかに舐められてる!あっ!なんだか温かいぞ!あっ!なんだか舐められているとちょっと安心するぞ!」
その大きな生き物は、ずっとずっと、ボクのことを舐め続けた。
「あっ!なんだか安心する!そうだ!この大きな生き物のそばにいれば安心できるぞ!この大きな生き物のそばにずっといよう!」
ぺろぺろぺろぺろと、何度も何度も舐められていてふと気が付いた。
「おっ!大きな生き物は二匹いるぞ!二匹に舐められているぞ!」
だんだん、だんだんと、周りのことがわかってきた。
「この二匹の大きな生き物はボクの味方みたいだぞ!」
なんだか安心してきた。
ボクは、大きな生き物に寄り添ってみようと思い、まだ動かしにくい手足をがんばって動かした。
大きな生き物は、まだボクをぺろぺろと舐めている。
ぼくがそばに寄って行っても避けようとはしない。
がんばって手足を動かしたので、やっと大きな生き物にたどりついた。
「でっかいや!温かいや!」
やった!っと思った。
最初は突然寒くなってびっくりしたけど、ここにいれば安心という事がわかった。
すこし安心したところで、なんだかお腹が変な感じになってきた。初めてお腹がすいてきた。
「お腹すいたようぅ」
ぐぅーっとお腹が鳴った。
お腹がすいてきて、どこからか甘い匂いがする事に気付いた。
ボクのすぐそばで甘い匂いがする。
ボクは、その甘い匂いのする方へ、手足を一生懸命動かした。
「あっ!ここだ!ここから甘い匂いがするぞ!」
ボクはすぐその甘い匂いののするものにかぶりついた。
「ゴクゴクゴクゴク」
甘い、甘い飲み物が、沢山出てくる。
「ゴクゴクゴク、ゴクゴクゴク、うまーい!ゴクゴクゴク」
沢山、沢山甘いものを飲んだら、また眠くなってきた。
ボクはこの甘い飲み物を出す大きな生き物を“おかあさん”、もう一つの大きな生き物を“おとうさん”と呼ぶことにした。この甘い飲み物を“おっぱい”と呼ぶことにした。
「おかあさん、もうおっぱいいいよ。ボク眠いから寝るよ」
ボクはおっぱいから口を放し、すぐその場所で寝た。
”おとうさんとおかあさんがそばにいるから安心だ”
ボクはすぐ起きた。
どれだけ寝ていたか解らないけど、多分すぐ起きたのだと思う。
おとうさん、おかあさんはそばにいたけど全然動かない。寝ているみたいだ。ボクはまたお腹がとても空いていた。
「よし!またおっぱいのむぞ!」
匂いをかき、甘い匂いのするおっぱいのある場所を探した。
「お!そばにあるぞ!」
ボクはがんばって動かしにくい手足を動かし、おっぱいへと向かった。
「やった!到着したぞ!」
すぐボクは、おっぱいにかぶりついた。
「ゴクゴクゴク、あまーい!ゴクゴクゴク」
ゴクゴクゴクゴクと、しばらく飲んでいたら、お腹がいっぱいになってきた。
お腹がいっぱいになってきたので眠ることにした。おかあさんにそのまま寄り添って眠ることにした。
「お腹いっぱいだ、おかあさんあったかーい、お腹いっぱいだ、ムニュムニュ」
ボクは、相変わらずすぐ寝る。
何日かおっぱいを飲む、眠るを繰り返していたら、だんだん手足が動くようになってきた。
手足が動くようになってきたので、一度、おもいっきり力を入れてみたら、地面から体が離れた。
地面から体が離れ、そのまま手足を動かすと、歩くことが出来た。
おとうさんやおかあさんのそばにすぐ行けるようになった。
おとうさんのそばに行き、大きなおとうさんの体に登ろうとして頑張ってみたけど、おとうさんは大きくてなかなか登れない。
おとうさんは大きいので、おかあさんに登ろうと頑張ってみたけど、おかあさんも大きかったので登れなかった。
今日はおとうさんにもおかあさんにも登れなかったけど、また明日挑戦することにして、おっぱいを飲んで寝た。
何日かおかあさん登りに挑戦していたら、今日初めておかあさんに登ることが出来た。
「やった!おかあさんに登ったぞ!」
ボクが喜んでいたら、それを見ていたおとうさんが、
「グアァー、グアァー」
といって喜んでいた。
おかあさんに登った!登ったぞ!と、ボクは喜んでいたら、おかあさんの背中の上は立ちにくくて、ボクはおかあさんの上から転がり落ちて、地面に頭をゴツンと打ち付けてしまった。
「うわー!いたいよぅ!いたいよぅ!」
ボクは大きな声で泣いた。
すぐおとうさんとおかあさんがそばに寄ってきて、ボクをペロペロと沢山舐め始めた。
「いたいよぅ、いたいよぅ、だからおとうさんおかあさん、沢山舐めてよぅ」
ボクは頭が痛いのはすぐ治っていたけど、おとうさんとおかあさんが舐めてくれるので、もっと舐めてもらおうと思い沢山泣いた。
泣いている間は、おとうさんとおかあさんがずっと舐めてくれた。
しばらくして、ボクは舐めてもらうことに満足したので泣くのをやめた。
ボクはすぐ、もう一回おかあさん登りに挑戦した。
「あれ?さっきは登れたのに今度は登れないぞ?」
そのあと何度も挑戦したけど全然登れなかった。
「今日初めて“おかあさん登り”出来たぞ!明日も挑戦するぞ!」
そう思い、晩御飯のおっぱいを飲んだ。
明日も挑戦するぞ!と思いながらおっぱいを飲んでいたら、なにかおっぱいが飲みにくいのに気付いた。
「なんだろう?」
口の中に、おっぱいを飲むのには邪魔な何かがあるみたいだったので、舌を使ってその邪魔なものの正体を探った。
「あっ!何かとがった物が口の中にいっぱいある!」
ボクは初めて口の中に“歯”が生えてきている事に気付いた。
歯が生えてきておっぱいが飲みにくい。
歯がとがっているので、おかあさんのおっぱいを傷つけないよう気をつけて飲んでいたら、おとうさんが顔を近づけてきた。
どうやらおとうさんは、ボクに歯が生えてきたことに興味があるみたいだ。
「グアァー、グアァー」
おとうさんはボクに歯が生えてきたことを喜んでいるみたいだ。
次の日、おとうさんはおかあさんの御飯を取る為、いつものようにこの洞窟をでていった。
しばらくすると、おとうさんがお魚をくわえて帰ってきた。
いつものように取ってきたお魚をおかあさんに渡していると思っていたら、おとうさんはボクの分の小さなお魚も取ってきていて、ボクにその小さなお魚を渡してきた。
ぺたっと土の上に落ちるお魚。きらっと光るお魚。
おとうさんがお魚をくれたので、そのお魚の匂いを嗅いでみた。
「あっ!うまそうな匂いがする!うまそうな匂いがするけど、どうすれば食べれるのだろう?」
急にお腹がギュウッと鳴った。とてもお魚を食べたくなった。
「あれっ?どうすれば食べれるんだっけ?」
口の中には入らない大きさのお魚が目の前にある。
おかあさんのおっぱいは小さいので口の中には入ったけど、こんな大きな物は口の中に入らないので、食べたくても食べるのは無理だ。そういえばおかあさんは食べているぞと思い、おかあさんの食べているところを見てみることにした。
じっと、お魚を食べているおかあさんの口を見てみた。
「えっと、まずお魚をくわえる、そしてぎゅっと噛みつく、あっ!ちぎれた!そして何度もかみつく、、、」
おかあさんはお魚をちぎって食べていたので、ボクもやってみることにした。
お魚にかぶりつき、ぎゅっと噛みついた。
「あっ!ちぎれた!そうか!この口の中にとがった物が生えてきたけど、これでちぎれるんだ!」
そして何度も噛みついてみた。
「うまい!お魚うまい!」
いつもおかあさんが食べていたお魚というものが、とてもうまいものだと初めて知った。
そのまま、口に入ったお魚をむしゃむしゃと何度も噛みつき、口の中のお魚がなくなったらもう一回引きちぎって、また何度も噛みついた。
何回か引きちぎって食べていたら、お魚がら引きちぎるところがなくなった。
けどボクはまだ食べたかったので、まだお魚を持っているおかあさんの所に行き、おかあさんのお魚を引きちぎった。
ボクがおかあさんのお魚を引きちぎったら、おかあさんはお腹がいっぱいだったみたいで、残りのお魚を全部ボクにくれた。それを見ていたおとうさんがまたなにか喜んでいた。
「グアァー!グアァー!」
すると、すぐおとうさんは洞窟を出て行ってしまった。
おとうさんはすぐお魚を沢山くわえて戻ってきた。
おかあさんもボクもまたそのお魚を食べた。
お腹がいっぱいになった。
ある時、ボクはいつものようにおとうさんと“対決ごっこ”をやっていた。おとうさんがいつものように、お魚か兎を取りに行くようで、洞窟の出口へ向かった。
けど今日のおとうさんは少し違った。
洞窟の出口あたりで振り返り、ボクに向かって、
「グアァー、グアァー、」
と叫んでいる。
「なんだろう?おとうさんがボクを呼んでいる。」
おとうさんボクを呼んでるよね?と、おかあさんに目で合図を送ったら、おかあさんはじっとボクを見ていた。
“いっておいで”
おかあさんがそう言っているのが解った。ボクはおとうさんについて洞窟を出た。
「うわっ!眩しい!」
ボクは目をつむってしまった。
洞窟の外はすごく眩しくて、突然ボクの眼が痛くなった。ボクは急いで洞窟の中に戻った。眩しくて、目が痛くてびっくりしたので、すぐおかあさんに駆けより、懐に潜り込んで顔をうずめた。おかあさんはぺろぺろとボクをすこし舐めた。ボクは、もうこの洞窟からでるのはよそう、とおもった。
次の日、またおとうさんがグアァーグアァーと、洞窟の出口でボクを呼んだ。
ボクは、この洞窟からは出ないと決めたので、おとうさんが呼んでいるけど着いていかなかった。おとうさんを無視して座りこんでいたら、おかあさんがボクの首の後ろを捕まえて、そのまま洞窟の外へと歩き出した。
「わぁ!いやだよぅ!おかあさんやめてよぅ!」
ボクは振りほどこうともがいたけど、おかあさんの力はすごくて振りほどけなかった。そのままボクは、洞窟の外へと連れていかれてしまった。
「うわ!また眩しい!」
この眩しさのせいでまた目が痛くなった。目はしばらく痛かったけど、段々痛みになれてきた。
「うわ!また眩しい!」
この眩しさのせいでまた目が痛くなった。目はしばらく痛かったけど、だんだん痛いのになれてきた。目が痛いのになれてくるにつれ、だんだんこの広い明るい場所になれてきた。目がなれてきてボクがおとなしくなったところで、おかあさんがボクを地面に下ろした。ボクはそのまましばらく地面に座っていた。
良く周りを見るといろいろな動く物がいる。
ちっちゃなちっちゃな生き物が、葉っぱを食べている。
ちょこちょこ動く、ネズミみたいな生き物が三匹ぐらいで一緒に動きまわっている。
ボクの足に、ちょこまか動く虫がくっついてきたので、えいっと前足をぶつけたらぺちゃんこになって動かなくなった。
目の前にリスが一匹いた。
ボクをじっとみている。
ボクもじっと見てみた。
「なんだろう?ボクと遊びたいのかなぁ?」
ボクはリスに近づこうと歩いていったら、すぐリスは逃げ出した。
「あっ、逃げた。まぁいいや。」
キョロキョロしていたら、おとうさんがまたボクを呼んだ。
付いて来いと言っているようだ。
おとうさんが何処かに向かって歩いていく。
ボクはその後ろ姿を見ながら追っかけた。
おとうさんは歩くのが早い。
大きな木が何本も倒れているけど、おとうさんはかるくまたいでいく。ボクはその倒れた木をよいしょよいしょと登って下りるのを繰り返しなが進んだ。これは、“おとうさん登り”をやっていたのでなれていた。
少しの間歩いてきたけど、ボクは疲れてきた。疲れてきて段々歩くのがいやになってきた。ちょうどその時何かの音が聞こえてきた。
ザーッという音と、ジャバジャバジャバという音がしてきた。
おとうさんはその音の方向へ歩いているようだ。ボクは疲れてきていたけど、今聞えてきている音が何の音なのか興味が出てきたら、また手足が動くようになった。
段々段々音に近付いてきていた。
ザザー、ジャバジャバ、それは大きな大きな水の流れる音だった。
初めてこんなに沢山の水を見た。なんでこんなに水があるのだろうと不思議に思っていたら、おとうさんがジャバジャバと水の中に入って行った。
おとうさんはボクの方を振り返り、ついてこいと合図をしてきた。
この水は何だ?っと思いながら、ボクは大きな水の流れているところに入っていった。水は流れているけど、その中を普通に歩けた。
少し冷たいと思ったけどすぐ冷たいと思わなくなった。しばらく進むと、水の中に大きな石が二つ置いてある所でおとうさんは止まった。
そこでおとうさんがじっとしばらく止まっていた。
おとうさんが止まっているので、ボクもまねしてじっと止まっていたら、おとうさんが突然水の中をすごい勢いでひっかいた。
バシャ!と水のひっかいた音がしたと思ったら、おとうさんの爪に魚が引っ掛かっていて、その魚は勢いよく水のない土の上まで飛んで行った。
「あっ!魚だ!こんなところにいるんだ!おとうさん魚取りに来たんだ!」
ボクは、土の上まで飛んで行った魚を追っかけて行き、美味しく食べ始めた。
うまっ!うまっ!っと魚を食べていたら、おとうさんはもっと魚を土の上に放り投げてきた。
「うわっ!魚がいっぱいだ!こんなに食べれないよぅ。」
十匹ぐらいすぐ魚が目の前に並んだ。
ボクが二匹目の魚を食べ始めたら、おとうさんも魚を食べ始めた。おとうさんは一口で魚をバクバク食べて、残りの二匹の魚を口にくわえて洞窟の家に向かって歩き始めた。おかあさんの分を持って帰るみたいだ。ボクは途中まで食べていた二匹目の魚を口にくわえ、おとうさんについて帰ることにした。
「なるほど、あそこへ行けば魚が取れるんだ。あの大きな石が二つあるところだ。」
ボクは魚の取れる場所を覚えた。
次の日、またおとうさんが付いて来いとボクを洞窟の外に呼んだ。
魚を取りに行くのだろうと思っていたら、昨日とは違う場所を歩いていた。
おとうさんは何処へ向かうのか解らなかったけどついて行った。
しばらくして、おとうさんは一本の木の前で立ち止まった。
おとうさんは立ち止ったあとしばらく動かなかったので、ボクもまねしてじっとしていた。するとおとうさんは、木の下にあった土の穴に右手を突っ込んだ。
「何してるのだろう?」
ボクは近付いてみた。
おとうさんはガリガリと土を少しひっかき手を抜いた。次におとうさんは両手で土の穴を掘り始めた。
「何だろう?おとうさん、この小さな穴に入りたいのかなぁ?」
ボクはじっとそばで見ていたら、突然その小さな穴から耳の長い白い生き物が飛び出してきた。おとうさんはその白い生き物を前足でビタン!と叩きつけた。それは兎だった。その叩きつけられた兎は、ピクッと動いてからすぐ動かなくなった。
「穴の中に兎がいたんだ!」
そう思っていたら、また何かおとうさんがさっきの穴を掘り始めた。
「まだ穴の中に兎がいるのかなぁ?」
その時、突然ボクの中で何か熱い気持ちを感じた。
「この穴の中にはボクの食べれる兎がいる!捕まえて食べてやる!」
初めてボクは“野生の本能”というものに目覚めた。ボクの体がとても硬くなった。なにか解らないけど、とても強くなった気がした。
そして、おとうさんの掘る穴から、もう一匹兎が飛び出してきた。その兎は、おとうさんの方ではなくボクの方へピョンと逃げてきた。さっきの兎より少し小さいと思った時、「ボクにもできる!」と感じた。その兎が二回目のとび跳ねから地面に着地した時をねらって、前足で力いっぱい兎を叩きつけた。兎はまだ逃げようとしたので、もう一度前足で力いっぱい叩きつけたら動かなくなった。ボクは初めて自分で食べれる物を狩った。
「グアァー!グアァー!」
おとうさんがボクを見てすごい喜んでいた。
最終章
そしてしばらく、次の日も次の日も食べれる物を探しにおとうさんと洞窟を出た。
いつからか、この洞窟が小さな穴に思えてきた。ボクはどうやら体がとても大きくなってきているようだ。小さい時やっていた“おとうさん登り”も、簡単に前足がおとうさんの背中についてしまうので、出来なくなっていた。
あるとき、おとうさんとあかあさんが、
「グアァ、グアァ」と一日中泣いていた。何があったのか解らないけど、おとうさんとおかあさんは一日中泣いていた。
おとうさんとおかあさんが一日中泣いていた次の日、おとうさんがまたボクを連れて、食べ物を探しに洞窟をでた。
今日は、いつも魚を探しに行く水の流れる所や、兎が取れる山の中とは違う場所に来た。所々に大きめの木が立っていて、向こうの方まで見渡せる広い所へ来た。
ボクは、
「ここにはどんな生き物がいるのだろう?」
と考えていた。
“何かが違う、何かが違う”
ボクの野生の本能がそういっている。
“何かが違う”と。
その広い場所の真ん中あたりまでゆっくりとおとうさんと歩いてきた。
おとうさんがゆっくりと歩くのをやめた。ボクもゆっくり歩くのをやめた。
ボクは何か動物がいないか、周りを探してみた。
おとうさんも“野生の本能”が出てきたのか、よだれをだらだらと垂らし始めた。
そして、おとうさんはボクを襲ってきた。
「えっ!」
ドッカーン!と、大きな音とともにボクの横の大きな木が、おとうさんの一撃で倒れた。おとうさんはボクを殺す気で突然襲ってきたのだ。
「おとうさん!ボクだよ!」
おとうさんが大きく前足を振りかぶりながらボクを襲ってくる。
ボクはぎりぎりそれをかわすことが出来た。
「おとうさん!ボクだよ!」
おとうさんはもう話を聞いてくれなかった。よだれをさらにだらだら垂らし、獲物を襲う目でボクを見ている。ボクを食べる気なのだ!
「おとうさん!やめてよ!おとうさん!」
何度もおとうさんの前足をかわしたが、いつかやられてしまうことを“野生の本能”で感じた。
そしてボクの“野生の本能”が、「逃げなければ殺されるぞ!」と、ボクにいってきた。
そうだ!逃げなければ殺される!
ボクは生まれて初めて逃げた。
おとうさんから逃げた。
おとうさんの襲ってくる勢いだと振り返っていては捕まってしまう、ボクはそう考え、振り返らず力いっぱい逃げた。おとうさんが後ろから襲ってくるのを感じた。おとうさんの方が走るのが早いのを感じた。このままではおとうさんに追い付かれるのがわかった。
ボクの目の前に大きな木が見えた。
「そうだ!あの木に登れば!ボクは体が軽いからあの木に登れるけど、おとうさんは登れないはずだ!」
ボクは振り返ることなく力いっぱい木に登った。
この木に登るのを、もし失敗したらおとうさんに殺されてしまう。
そう思いながら、絶対失敗しないよう、必死に必死に大急ぎで登った。
必死で木に登り、木の一番上まできた。
もう、ボクの逃げ道はない。もうボクのやれることはない。
すごく怖いけど、ボクは後ろを見た。
ボクを追いかけて、もしおとうさんが後ろにいたら、ボクは殺されてしまう。
後ろを見ると、おとうさんはいなかった。おとうさんはボクを追って、この木に登ってきていなかった。
「いない!」
ボクは
「やった!逃げきったんだ!助かったんだ!」
助かったと一度思ったけど、まだおとうさんが木の下にいるかもしれないので、よく木の下を見渡した。
いない。おとうさんはいない。
ボクを殺す気で追ってきたおとうさんは、何処にもいなかった。ボクは、ゆっくり、ゆっくり、木の下の周りにおとうさんが隠れていないか気をつけながら木を下り始めた。
いない。あのおとうさんがいない。
ゆっくり、ゆっくりと下り始めて、そして、ゆっくり、土の上に下りた。
周りを見渡した。いない。おとうさんがいない。さっきまでボクのことを襲ってきたおとうさんがいない。いつボクを追ってくるのを止めたのかわからないけど、おとうさんがいない。まだ、おとうさんが何処かに隠れているかもしれないと思い警戒しながら周りを見渡した。おとうさんの気配はない。
「どこだ?おとうさんどこいったんだ?」
周りを見渡し、警戒しながら、ゆっくりそのあたりを歩いた。おとうさんはいない。どこにもいない。
おとうさんはもういない。
突然のことでよく解らないけど、いつもボクのそばにいてくれたおとうさんがいない。「そんなはずはない。おとうさんは、いつもボクのそばにいるはずだ。そんなはずはない。」
と、ボクはおとうさんを探し始めた。何処かにいるはずだと。おとうさんは何処かにいるはずだと。
あたりを見渡しながら、ゆっくり走りながら、お腹が空いたのも忘れながら、いつまでも、いつまでも、いつでもボクのそばにいたおとうさんを探し歩いた。
一人ぼっちの暗い夜が、何回か過ぎた。おとうさんはいない。住んでいた洞窟にも戻ってみたけど、おかあさんもいなかった。おかあさんも何処にもいなかった。
「グアァー!グアァー!」
ボクは泣いた。ボクの育った場所、この洞窟で泣いた。洞窟に響いたボクの声が、いつの間にかおとうさんに似ていることに気付いた。ボクは、洞窟に響いたボクの声を聞いて解った。
そうか、ボクは大人になったんだ。だから、おとうさんと、おかあさん、もう、ボクを育てるのを止めたんだ。だから、どこかいっちゃったんだ。
この洞窟は、もうボクのものだ。
ここに住もう。
ボクは、お腹が空いてきた。
“あの大きな石が二つある、水が沢山流れる所へ行こう”
完
「大熊座流星群」へと続く
大熊座流星群 冒頭
俺は肉を引きちぎった。
俺が魚を取りに行っている間、俺の洞窟に別の熊が居やがった。俺の洞窟に入ってくるとはいい度強してやがる。一発でのしてやった。
俺は、そいつの肉を引きちぎった。
続く・・・
感想をお待ちしております。 shizukamitsuki@yahoo.co.jp
あとがき
大自然であらゆる野生の生物が、大きく生まれ、たくましく育ち、そして親離れをしていきます。我々人間も、親離れをし、寂しく思う時もあると思います。
人それぞれ親離れの形は違いますが、その時の切ない思いでも、人生では必要な経験であり、覚えておかなくてはならないものだと思います。その気持ちを忘れていないのであれば、親が生きている間は、沢山の親孝行をしましょう。そんな気持ちを、この作品から感じ取って頂き、「親離れ」した時の気持ちを思い出して頂ければ、幸いです。
常先輩




