メロンパン、いぬ、サイコロ
「…ゲームをしよう」
「唐突にもほどがあるんじゃないかな凪くんよ」
横で本を読んでいた凪が突然言い出した。
ちなみに読んでいたものは"犬図鑑"、図書館の物だ。
…あれは確か禁帯出のはずだが。
「で、なにするの?」
気だるそうにたずねると、横にあった鞄からサイコロを取り出した。手のひらサイズの小さいものだ。
「ルールは簡単、大きい目を出した方が勝ち。負けた方が勝った方の言うことを聞く」
「はいじゃああたし不参加」
そんなにあたしだって付き合ってる暇なんか…
「陽菜が勝ったら駅前の生クリーム入りのメロンパン買ってやるよ」
「よし乗った」
いま暇になった。
******
「陽菜からどうぞ?」
そういって凪からサイコロを渡される。
そういえばあたしが負けたらどうなるんだろう。…まあいっか。
「…てやっ」
カラカラカラッ…コトッ。
「…五」
「どやあ、メロンパンはもらったかなw」
あたしは得意気に凪をみた。
「…いや、ろ、六だせばいいし…」
焦っていた。ものすごく。
ちなみにメロンパンは一個500円だ。
「はい、じゃあ凪の番ー♪」
「…えいっ」
カラカラカラッ…コトッ。
「…嘘だ」
「いや現実だから、どや」
─六だった。
「え、おわり?あたしの負け?」
「そう、陽菜の負け、俺の勝ち」
こんなところで強運使ってきやがって…ちくしょう。
「あーもういいよ、望みは何ですか勝者様ー?」
「ちょうだい?」
…はい?え?
「何を?」
「だからー…」
といって凪が指差したのは、あたし──の、後ろのゲージ。
「陽菜ん家の、ポメラニアン」
「うん、もう一回あたしの母親と勝負しといで?」
─このあと凪は陽菜の母に幾度となく勝負を挑んだが、陽菜の母がすべて六を出すという神にも勝る強運を見せつけたのはまた別のお話。