ねこのしあわせ
ある冬の、雨の降る日のことである。
とある天涯孤独な青年は、アルバイトの帰り道、か細い鳴き声を聞いた。猫の鳴き声である。路地裏の方から聞こえる。
気になって覗いてみると、路地裏の片隅、ごみが積み重なったその影に、雨宿りしている猫を見つけた。
ずぶ濡れだ。恐らくは見事だったであろう、黒い毛並みがベッタリと体に張り付いて、その痩身をあらわにしている。まるでなんでもないことのようにシャンと背を伸ばして猫座りをし、目を閉じているが、細かく震えているようにも見えた。
青年は、ふと溜め息をひとつ吐き、傘を畳むと、黒猫を抱えあげた。抵抗する元気もないのか、猫は大人しくパーカーにくるまれる。
そして、青年は自分のアパートに向かって、雨の中を走り出した。
「おう、飲むか?」
シャワーを浴びてさっぱりとした青年は、元の毛並みを取り戻した猫の前に、軽く暖めたミルク入りの皿を置く。
猫は小さく鳴き声をあげると、てちてちとミルクに舌をつけた。
「ふむう、お前、結構イケメンだな?」
青年は猫の様子をにんまりと眺めて、そんなことを言った。ちなみに、性別は猫の体を拭く際に確認している。引っ掛かれたが。
猫は青年の言葉に反応したのか、舌を止めると、軽く目を細めた。その、妙に人間じみたしぐさに、青年は思わず吹き出した。
時刻は夜半を過ぎて、青年は布団に横になっていた。薄暮灯に照らされた薄暗い室内。のっそりと横に入り込んできた猫の体温に、顔をほころばせる。
「ああ、猫には猫の苦労があるんだろうけど、猫になってみたいなぁ」
ざんざんと降りしきる雨音を聞きながら、青年はそんなことを呟くと、眠りについた。
「よかろう。一宿一飯の恩、それで返してやろう」
意識が落ちていく間際、そんな、妙に偉そうな声を聞いたような気がした。
じりり、じりりと自分を急かす目覚ましの音に、『彼女』は目を覚ます。
「むぅ、雨はもう止んでるのか」
カーテン越しの朝の日差しに、目を擦りながら体を起こすと、妙な違和感に気がついた。自分以外の体温を感じるのは別にいい。昨夜、布団に入ってきた猫が、まだ居るはず。
しかし、その感触が、すべすべで柔らかいのはどういうわけだろうか。
恐る恐る、布団をめくる。
「んむぅ、なんじゃ? もうちと寝かせい」
猫ではなく、艶やかな黒髪に、浅黒い肌の美女が居た。
「な、な、な、な」
訳がわからない事態に、『彼女』は戦慄く。
そして、ふとなにかに気付いたように、喉に手を当てる。そして首をかしげて視線を下げると、男としてはあってはならない二つの膨らみが、部屋着のTシャツを押し上げている。結構巨乳だ。
慌ててバスルームに駆け込み、数瞬後に飛び出す。やや紅潮した顔色だ。
「ど、ど、ど、ど」
「どういうことだ、と?」
いつのまにか起き上がっていた褐色美女が、艶然と微笑む。全裸である。スレンダーである。しなやかに、引き締まった見事な体であった。
一瞬状況を忘れて見惚れる。
「我輩は猫神の末裔でな、一宿一飯の恩返しに、昨夜のお前の願いを叶えてやったのだよ。実のところ、最後の神通力だったのだが、恩人の願いを叶えるという使い方は、実に有意義だとは思わんか?」
ドヤ顔で宣う美女──本人の言葉を信じるなら昨夜の猫──の言葉に、彼女は頭を抱え、叫ぶ。
「俺は『猫になってみたい』とは言ったが、それが何で女の子になってるんだよ!」
「ぬ? 何を言っておる。『ネコ』とは女同士のまぐわいにおける受け身の側のことであろう? その程度は知っておるぞ?」
叫びを聞いた猫女は、さも心外そうに答える。ねこ違いである。
そして、その口元が弧を描く。目が細められる。
その様子に、彼女は嫌な予感がしたが、魅入られたように動けない。
「ふふ、我輩もオスではあったのだが、『ネコ』には『タチ』が必要であろうとおもうてなってみたのだが……。お主を『理想のネコ』にしたせいか、『タチ』の我輩には辛抱たまらぬ」
「ひっ」
目を欲求に爛々と輝かせた褐色美女。
彼女は後ずさろうとして足をもつれさせ、布団の上に尻餅をついた。
「なあに、心配は要らぬ。お主は恩人だからのう。ネコとしての幸せを、たっぷりと教えてやるわ」
そうして、がばりと彼女を組敷いた女は、
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続きを読みたい方はワッフルワッフルと(ry
いや、続きなんてないですけど。
最初支援所に投下した際は、続き書くよ的なこと言ってましたけど、結局エタったった。
だってどう考えてもテンプレエロSSしか思い付かない。
グダるのが目に見えてたし。