1.5 風に巻き上がるもの
だが、ディディカの魔力は作り上げた端から端へと流れてゆく。
円柱型の塔の丸く切り抜いた部分。魔力のすべてはそこに集められる。
抜き取られる魔力に従うようにしてディディカは扉をすり抜けた。
鉄柵に擦りつけた指先には冷たさと熱さが、奈落の底を覗きこむのと同じほどに底なしの穴に落ちてゆく。
風が前髪をふわりと巻き上げる。
(竜巻……)
魔力の渦が深い闇の底から立ち上ってくる。
それはディディカの魔力を片端から吸い上げ巻き込み、大きくうねり出す。
轟、轟……と耳元で唸るその低い声に昂揚を感じた。
風の終わりとはこんな場所だろうかと考えながらディディカは自らの魔力を練り上げた。
長らくこんな場所にいると、すべてが諦めて思えてくる。幼い頃から、成長するに従ってディディカの魔力は保持する量を増やしてきた。
いつか、この塔の限界値を超えるものになれば、この閉じた世界から解き放たれる時も来るだろうと。
そんな日はついに来なかった。
けれど、本当にそうだっただろうか。
(僕は、今まで本当にここから出たいと思っていただろうか)
わからないままに思う。
今以上に強く願ったことはない。自分の可能性を、自分の未来を――この世界から抜け出す事を。
「僕はここを出る」
そしてもう一度、君に微笑もう。
(君の名を呼んで、愛しいと囁いて)
そして残酷に告げよう、“君を殺したい”と。
空気が疼いた。
渦が形を留めなくなる。