2.9 友人という関係の始まり
青年はつい先日、リオードの領内に無断侵入し、捕まえた重病者だった。朝に様子を見たときも深く眠り、意識を沈めていた。それが、
(なんで)
「なんで病人がそんな格好で何してる」
先ほどの夜会。
それはもともとリオードが開催するはずだった。その予定があった。だから目の前の青年がうわごとの様に放った頼みをついでに聞き届けた。
夜会に参加させろ、それは十分無理な話だったがそれを止めることはできそうにないと判断してのものだ。虚ろな意識で勝手にうろつきまわられるよりはよっぽど、監視下という正式な参加のほうが危なげがない。
高熱で浮されていた時でさえあれほど明確に強い意志を持って行動していたならば、多少具合が悪いとて熱が微熱へと下がり回復した今ならば強引にでも青年は動く。
そう、判断してのことだった。
「病人じゃないさ。そもそも、今さっきだって立派に務めただろう?」
務めた。そうだ、リオードが開いた初めての夜会は大成功に終わった。夜会のやの字も知らないような彼が、そのような結果を得たのは目の前の青年の功績あってのものだ。疑うべくもなく、彼――“D”の存在のおかげである。
「礼、といったじゃないか」
「ふざけてる」
礼を言うのはリオードの方だというのに青年の態度に腹が立って仕方ない。
“D”と名乗った青年はゲームをした。招待客と賭け勝負をし、そして勝った。勝ち続けた。ゲームの内容は多岐に渡り、ポーカー、チェス、じゃんけん、クイズ、ロシアンルーレット、……無敗。賭けられるチップは膨大に膨れ上がり、完全な賭博上としてそこは嵐に吹き荒れた。青年が賭けるものはただ一つ、己の身だった。
病人で、熱に浮かされているはずなのに頭脳は冴え冴えと、理路整然と物事を為す。
「ふざけてる」
もう一度、リオードは言った。
「ふざけてはいないさ。ほら、――」
「――――ッ!!」
無理矢理向けさせられた正面、青年は服を着ていなかった。
「僕は人と淫魔のハーフ。成人までは雌雄を恣意的に操作できる」
どうだろう?と微笑んで見せるその顔に、浮かぶ艶。
その肢体はなだらかなものから起伏のあるものへと変化し、丸みを帯びて異性の関心を呼ぶ。熟れきった女性の魅惑的肢体。
だが、リオードはそれを見て、動揺のまま叫ぶ。
「一回で覚えろ。俺は服を着ろと言ったんだッ!」
部屋に飾られた花瓶を投げつけようと殺意に近いものを覚えた。