2.8 闇の会合
暗い闇がひしめいていた。
そこに人々はいる。広間だ。炎が槍のような細く鋭い金の彫刻に揺れていた。点々と辺りを照らすが全体をさらけ出すには闇が深すぎた。しかし人々はそれを気にした素振りも見せない。暗い部屋でなお、それぞれの顔を隠すように仮面で半分以上を覆っていた。
楽しげに交わされる会話は不気味な雰囲気を纏う。
背後に蠢く闇は深く、深く、壁の際を見せず、途切れることはない。入口は即ち出口だ。彼らがここにいるということは入ってきた場所が、どこかに繋がっている道があるはずなのだ。だが、丸く囲むように燭台がある以外は何も照らし出さない。道は闇の中に紛れ、呑み込まれている。堅く閉ざされている。
主催者であるはずのリオードはそれを不思議に眺め、そして不気味に思う。
(ここは何という場所なのだろう)
闇に潜む化物どもの巣穴。それこそが相応しい。
薄暗い場所で、しかし住人はそのことにも気づかず、ただ暗い世界を己の世界とだけ知っている。それ以外の世界に己の居場所はない。他の場所では己もまた他の人間だ。
リオードは隣に佇む、優しげな顔を浮かべる美しい青年を見た。そして知る。――これは化物だ。
空恐ろしいほどの恐怖を身体の心にまで感じてしまい、硬直した。瞳を合わせたわけでもないのに己の全てを奪われたと思った。
*****
城主であるリオードの寝室、そこに彼は見慣れぬものを見た。
白いベッドは装飾が慎ましやかながら上質に作られており、それは貴族という階級に慣れた者たちには到底理解できないようなものであった。リオードが数多くの者達から変わり者扱いされる所以でもあったが、問題はそこではない。
優雅に寝転ぶその姿を見て、――盛大な溜息をつきたくなった。
息を呑む美しさにリオードの身体は硬直と体温上昇を訴えていたが、それでも溜息と諦念が先走る。
「何やってんだ、お前」
さきほどは恐怖すら感じた相手が無防備にリオードの前で裸体を晒している。そのことに、自分に、滑稽を覚えた。同い年の青年、それも立場が上のものに対してそれはかなり不敬な感情ではあったけれども。
「いや、お礼をと思ってね」
ベッドはシーツを乱され、本を散乱し、蹂躙されていた。
ベッドに横になることもできず、本から目を離さない青年を前にリオードは服を投げかけ部屋を出ようとするが、短い呼び止めに足を止めた。
「話がしたかったんだ、リオード。友人になりたくてね」
まったく真剣味の感じられない声音で、けれどようやっとリオードへと向けた視線で青年、ディディカは言った。だから、リオードも振り返る。二人の視線は交錯したが、ディディカは合いも変わらず無表情で、けれど楽しげな色を瞳に灯していた。だから、リオードも言ってやったのだ。「……まず、服を着ろ」