竹ビリヤード
子供の頃から現在まで経験した話。
地元は田舎なので自然は豊かだった。
当時はスマホのアプリゲームはおろか、ファミコンも無かった時代だったので、遊ぶとなれば近所の寺や山、用水路などが主だった。
そうした環境だったので、遊びも実に多岐に渡っていた。
鬼ごっこは基本で、高鬼に影踏み、サッカーに野球。
ザリガニ釣りやメダカ採り、木登りや秘密基地作り。
老人の断言で恐縮だが、声がうるさいだの、怪我をしたら危ないだの言われ、家の中で携帯ゲームに熱中するしかない最近の子供達よりは、ずっと幸せだったと思う。
確かに無茶にやんちゃはしていたものの、遊びの創造に関する環境は本当に恵まれていた。
そんな私達の考えた遊びに「竹ビリヤード」という遊びがあった。
田舎育ちの読者は読めば「やったことある!」となるかも知れないが、簡単な遊びだ。
まず、手頃な石を一つ選ぶ。
それを手に、竹林に行く(この時選ぶのは、密度の高い竹林)。
あとはそれを竹林の中目掛けて投げるだけ。
するとどうなるか?
石は竹に当たって跳ね返り、何度か「コンコン」と音を立てる。
ただそれだけなのだが、子供だった私達は普通の木では起きない、竹林の密度と弾性で石が立てる音が面白く、その回数を競い合っていた。
そうしたくだらない遊びだったが、子供故に飽きっぽいのもあり、ブームはあっという間に終わった。
それから時は流れて現在。
私もいい大人になり、色々と衰え、健康に気を使うような年代になった。
なので、散歩を習慣化し、地元を歩き回るようになった。
田舎なので、地元は時間が止まったように子供の頃のままだ。
けど、風景は変わっている。
青々としていた田んぼは遊休農地が増えて、荒れている。
クマやイノシシなど居なかったのに、最近になり出没するようになったのか、捕獲用の罠や電気柵も増えていた。
獣害の拡大の影響と高齢化で農家の後継ぎがいなくなり、畑だった場所はソーラーパネルが敷き詰められている。
かつての遊び場が激減し、うるさいと叱り飛ばす大人がいなくても、子供達の遊ぶ場所が減っていた。
そんな風景を寂しく思いながら、私は一人で散歩をし、ある竹林へとやって来た。
私の脳裏に竹ビリヤードで遊んだ記憶がよみがえる。
その記憶に引っ張られるように、私は足元の石を一つ拾った。
そして、大きく振り被り、竹林目掛けて投げ放つ。
すると「コンコン」と懐かしい音が響き渡った。
合計で4回。
記憶の中では、子供時代には6回ぐらい鳴らしていたつもりだったけど、これも老いなんだろうか。
そう思いつつ、竹林に背を向けた時だった。
コーン
不意に竹林の奥から一際大きな音が響いた。
まるで、何かが竹に当たって鳴ったような音だ。
その音に驚く私の耳に、四方でまるでやまびこのように何度か「コーン」と音が響き渡った。
聞き慣れた人は知っているだろうけど、竹林に乾いた竹があると、折れたり倒れた時などに音がすることがある。
無論、私もそうした音は聞き慣れていた。
けど、この時聞こえた音は明らかに違う。
普通、乾いた竹の立てる音は単発が多いのだが、この時はまるで竹に何かが当たって跳ね返っているような音だった。
それが合計6回、私の周囲でなったのである。
その日は無風状態。
風に乗って何かが竹に当たるなんて考えられない。
クマやイノシシといった生物が歩き回って立てるような音でもない。
私は背筋に寒いものを感じつつ、その場所を足早に後にした。
帰宅してから、風呂で湯船に浸かりながら私は竹林でのことを思い返した。
あれは果たして何だったのか。
私の好きな「妖怪」の一つに“砂かけ婆”というのがいる。
奈良県などに現れたとされ、神社や竹林を通ると、誰もいないのにどこからともなく砂をパラパラとかけられるという怪異が元になった妖怪だ。
また、京都には“竹切り狸”という妖怪もいたという。
こちらも竹林の中に現れ、夜中に竹の枝を切ったり、切り倒すような音を立てる。
しかし、その痕跡を探しても全く見当たらないという。
私が遭遇した竹林の音の怪異もこうした妖怪の類だったのだろうか。
それとも…昔、自分達に石を投げつけてきた悪ガキを見た竹達が、脅かそうとして立てた音なのだろうか。
真実は「藪の中」ならぬ「竹林の中」である。
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