ハリボテ勇者
私はハリボテ勇者だ。
本物の勇者ではない。
私は、市役所の企画PR課に勤務する。社会人2年目の普通の女の子だ。
予言された年に、勇者が現れなかった。
お役所仕事はイレギュラーを嫌う。
私は勇者の代わりに旅に出させられたのだ。
帰りたい
帰りたい
帰りたい
私の装備もハリボテだ。
防具はプラスチック。
兜は防災用のヘルメットをアレンジしたもの。
盾はまな板。
剣は竹刀。
帰りたい
帰りたい
帰りたい
とうとう魔王の城までやってきた
帰りたい
帰りたい
帰りたい
もうやるっきゃない。
「あの、あの、あの……」
「あの、あの、あの……」
魔王と勇者がハモってしまった。
「え?え?え?」
「え?え?え?」
私は覚悟を決めて、魔王に真実を話すつもりだったのだが、魔王もおどおどしている。
「あ、やっぱり違う感じですか?」
「え?」
「あ、私はこういうものです。」
魔王が丁寧に名刺を差し出す。
「ご丁寧にありがとうございます。私はこういうものです。」
私も名刺を差し出した。
「やっぱり市役所の方でしたか。」
「あなたは、トナーリ村役場の方なんですか?」
「魔王がね、予言の年に現れなかったんですよ。」
「そちらもですか? なら、やめればいいのでは?」
「そこは、ほら、お役所仕事ですから。」
「そんなもんですかね?」
「それにほら、万が一、予言が当たったら、困っちゃいますからね。」
「まあ、たしかに。」
「では、魔王討伐の証として、魔王の左手をお貸ししますね。」
「これも、ハリボテですか?」
「いや、これは本物です。昔は本当に来たらしいですよ。」
そう言いながら、真空パックされた左手を出す。
「真空パックですか?!」
「いちおう、腐敗しないようにね。腐敗はしないらしいですが、試したことないので、やめときます。いちおうドライアイスも入れときますね。」
「分かりました。これは、使う時も出さない方が良い感じですか?」
「いや、もう全然出しちゃってください。上の許可は出てるんで。」
私は、魔王と別れて帰路についた。
魔王の左手を持ち帰った、私を待っていたのは大々的なパレードだった。
辞退したい
辞退したい
辞退したい
「ここまでで一連の計画なんだから、業務命令だ。」
お城の前、群がる民たち、打ち上がる花火、広場にはたくさんの屋台、お城のバルコニーからは王様とお姫様が見ている。
帰りたい
帰りたい
帰りたい
私は、緊張のあまり転んでしまう。
危ない。咄嗟に近くの木を掴むが、木はパタンと倒れてしまう。
ハリボテだ。
となりの木もパタン
そのとなりもパタン
パタン、パタン、パタン
木が当たった群衆も倒れていく
パタン、パタン、パタン
屋台
パタン、パタン、パタン
花火
パタン、パタン、パタン
そして、お城が王様とお姫様ごと
バッタン
みんな倒れて、立っているものはいなかった。
「課長〜やっちゃいましたぁ〜」
「あーあ、やっちゃったな。やり直しだな。お前、もう一回魔王倒してこい。」
「ええ〜また行くんですかぁ……」
私は、ハリボテ勇者だ……




