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第一話

「動くな!このバスは俺がハイジャックした!通報しようとしたら撃つぞ!」


男は停留所から入ってきたと同時に拳銃を掲げそう言い放った。

バスの中は帰宅しようとしていた乗客が詰まっており、席はほとんど占有されている。当たり前だった日常が一変したことで、車内は恐怖や不安の気持ちでどよめいていた。


「おい!とっとと出せ!」


拳銃を向けられた運転手はおびえながらアクセルを踏んだ。まさかこんなことが起こるなんて思ってもいなかっただろう。乗客もそうだ。学校帰りの高校生、買い物に行っていた主婦、病院を受診した老人、帰宅途中のサラリーマン、みな不安そうな表情を浮かべており、中には恐怖から泣き出すものもいた。


たった三名を除いて。


車内に満ちる恐怖。乗客にとっては異常でも、ハイジャック犯にとっては想像していた光景であり、特に驚きはなかったが、一点だけ、気になるところがあった。


「おい、そこのお前!なにをしている!」


車内の奥の方に座っているその若者は、視線を下に向けて両手に持っている何かを見ていた。


「何を持っている!まさか携帯じゃないだろうな」


「.................」


若者は気にしない様子で変わらず視線を下に向けていた。まるで怯えておらず、ただ何かを見ていた。


「おい!答えないと撃つぞ!」


拳銃を向けられてようやく、若者は犯人の方を見て、まっすぐな目で言った。


「......ターゲット1900」


「......ターゲット1900?」


若者は両手に持っていた何かを犯人に見せるように顔の前に持ってきた。表紙には「英単語」と書かれている。


「まさかこの期に及んで受験勉強か?大した度胸じゃないか」

「自分の成功に向かってひたむきに努力する、素晴らしいことだ。それをこんな状況でもやめないなんて、きっと夢を信じてやまないのだろうな、夢は叶わないなんて知らずに」


「.....わからない」

「俺は今夢に向かって歩いているのか、歩いている道は本当に道なのか、わからない、わかりたくない」


「何を言っているんだ?目標もわからず単語帳を眺めるやつがいるか、しかもバスジャック中に」


「.................浪人」

「........浪人している」


「なるほど、すでに失敗済みってわけか。今は2月の受験シーズン真っ盛りだ。だからこそ今回は失敗できない、執着と不安で頭がパンクしちまってんだな」


「今日から」


「今日から!?」


「.....今日、合格発表だった。受かると思っていた。思うしかなかった。つらい受験勉強から解放されたんだ。他のことなんて考えたくなかった。そう、解放されたはずなんだ........」

「それなのになぜ俺はまだ英単語を勉強している?合否はどうなったんだ?いや、きっと体はわかっているんだ、向き合おうとしているんだ、現実に。なのに、頭が追い付かないんだ、俺は間違っているのか?間違っているのは現実なんじゃないか?」

「こんな非日常的な出来事ふつうは起こらない。もしかしてお前は勝手な暴走をやめないこの両手を止めに来てくれた妖精なんじゃないか?俺からこいつを手放させて幸せな笑顔であふれた世界へと連れて行ってくれようとしてるのか?」


「いや現実と向き合えよ!体は恐ろしく理解してるじゃねえか!浪人当日から英単語なんて体気合入りすぎだろ!希望あふれ出てるわ」


「......希望?.......おいおい笑わせるなよ。浪人がどういうことかわかるか?終わると思っていたつらいことが一年間延長されるんだ、仲の良かった同級生からおいていかれる孤独、親戚に伝えたときのなんとも言えない感じ、後輩と同級生になる気まずさ、それを誰にも相談できない閉塞感、これらすべてが思春期も終わっていない若人に容赦なく向かってくるんだ。希望?おいおい、絶望の方がしっくりとくるぜ.....!!」

「そうだ、絶望だ。流浪するこの絶望だけが俺を満たせる。おいおい、この闇はよく馴染むぜ.....。この狂った世界も、頭にクるぜ.....!!!」

「動くな!!!このバスは俺がハイジャックした.....!」


「いや俺がバスジャックしてんだよ!なに乗っ取ろうとしてんだよ!」


「おいおい、動くなといったはずだ.....!次動いたらこいつがトぶぜ......!」


若者は持っていたシャーペンの先を隣に座っていたサラリーマンの首に当てながらそう言った。


「ひいい.........!!!」


サラリーマンもひどく怯えている。


「いや俺の人質なんだよ!てかお前もシャーペンごときでビビんなよ」

「そもそも俺拳銃持ってんだよ。それ以上暴れたら撃っちまうぞ!」


「おいおい、そんなものが怖いと思うか....?そんなちっぽけな鉛玉が、この満ち溢れる絶望より恐ろしいと思うか?そんなありふれた武器が、この血と汗にまみれた単語帳に勝ると思うか?」

「どうやら、俺が歩いているのは道みたいだ....、暗黒へとつながる道だがな.....。進路変更だ、最終学歴高卒のハイジャック犯.....!おいおい、ここからは勝負だぜ.....!お前と俺、どちらの絶望が上かを決めるなああああああああああ!!!!」


(はずれのバスひいちまったな.....)



第二話へ続く













全4話完結予定

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