オイラーからのプレゼントがヤバイ
「アン、今少し構わないだろうか」
その日もアンダーとオイラーは同じ部屋の中に身を置いていた。
といってもオイラーの自室であるそこへアンダーが勝手に入ってきているだけなのだが。
「ん?」
「実は、そんな大事ではないのだが、少し話があるんだ」
オイラーは室内の椅子に腰を下ろしていて、アンダーはベッドの端を椅子のように使っている。
国王の子という高貴な男と貧民が住まう路地裏で育った男が遥か昔からの友人であるかのように関わっている様子というのは、第三者が目にすれば戸惑わずにはいられないものだろう。
しかし当の二人はというと、お互い、そういったところは気にしていない。
「言ってみな」
「君にお礼がしたく、それで、こっそりプレゼントを用意していたんだ」
発された言葉を理解できず。
「はぁ?」
思わずそんな声をこぼしてしまうアンダー。
怪訝な顔をしながら「……オレに、か?」と確認する。
「もちろん」
オイラーは落ち着きのある動作で数回頷いた後にそう返した。
室内を満たす空気に、何とも言えない気分、というような色が広がってゆく。
驚きやら理解できなさやら戸惑いやら様々なものをはらんだその色は、水を多く混ぜた絵の具を画用紙に垂らした時のようにあっという間に空間を染めていった。
「なので少しばかり目を閉じていてもらえないだろうか?」
「んだそりゃ」
「準備をするので。驚かせたいんだ、君を」
「くだらねー……」
冷めたことを言いながらも一応指示された通り目を閉じるアンダー。
「君にとってはくだらないことかもしれないが私にとってはそうではないんだ」
あまり興味がなさそうなアンダーを前にしてもオイラーの心が揺れることはない。
「お世辞にも器用とは言えず能力もさほど高くない私にそっと寄り添ってくれ、また、いつも傍にいて支えてくれている君への感謝――それをどうしても伝えたくて、色々考えたんだ」
やがてオイラーはその長い脚を動かしベッドの奥にある隙間の方へと移動する。その様子をアンダーは怪訝な顔で見つめていた。オイラーはベッド下辺りからごそごそと袋を取り出した。
「まずはこれを」
胸もとを隠すくらいの大きさはある紙袋からオイラーが取り出したのは手のひらに収まるくらいのサイズの橙色の箱。
「んだ、これ」
手渡されたアンダーはきょとんとする。
というのもそれはアクセサリーなんかが入っているような小箱だったのである。
「よければ早速開けてみてくれ」
「お、おう……」
アンダーは箱を開けた。
最初は戸惑いもあって少々手間取っていたけれど五分もかからず開けることに成功する。
そしてそこに現れたのは――ペンギンに似た魔物の形をした銀製の小さな置物、しかしよく見るとペンダントトップ。
「何だこりゃ」
「贈り物を選んでいたら君に似合いそうなものを見つけて即決してしまった!」
「はあぁ?」
「可愛いだろう、とても。個性もあるしな。アンにぴったりだと思ったのだが、気に入ってもらえそうだろうか」
破壊力のある贈り物に思わず呆れ顔になってしまうアンダーだったが、彼なりに一応多少気は遣っているらしく、感想は小さめの声で「センスやべぇ」と呟くにとどめた。
「それと、これも」
オイラーは続けて紙袋から花束を取り出した。
ゴボウを複数くっつけてまとめたような植物、葉が血や汗が滲んだかのような禍々しい色をしていて花弁にはいくつもの棘がついている花、など――もうとにかく殺伐とした雰囲気の花束である。
「地獄?」
「まさか! そんなわけないだろう! 唯一の友に地獄を贈るなど! これは、高い癒やし効果があるという植物を厳選し作ってもらった花束だ」
変な花束が出来上がってしまってはいるがオイラーとしては純粋な心でその花束を作ったのだろう、そのくらいのことはアンダーも分かっている。
その貴い人に悪意がないことは理解している。彼がそういう人であることはこれまで関わってきてよく知っているから。それほど長い年数ではないにしても、彼がどういう人かということを理解できないほど愚かなアンダーではない。
オイラーは確かにどこかずれたところもある人だが他者へ悪意を向けるような人間ではない、そのくらのことは恵まれない環境で育ってきたアンダーとて理解できないわけではないのだ。
室内にはほのかに甘い匂いが漂っている。
「受け取ってくれるか?」
「おいおい、男相手に花束とかそりゃねーだろ」
アンダーは深く考えず突っ込みを入れる。
「いや、まぁ、そうかもしれないが……工夫して、美しいだけではなく実用的な花束を作ってみたつもりで……いやしかし君が嫌なら押し付けるのは良くないな……」
すると急にしゅんとしてしまい落ち込んだ様子になるオイラー。
「あーもー、分かった分かった! 貰うから! それでいーだろ!」
一分にも満たない沈黙の果て。
重苦しい空気に耐え切れずアンダーが折れた。
アンダーが慣れない手つきで花束を受け取ると、途端にオイラーの面に光が射し込む。
「ありがとう!」
受け取ってもらえたことを喜ぶオイラーの表情は純真無垢な子どものようだった。
「今後もまたタイミングがあれば随時お礼をしたいと考えている!」
「要らねーよ」
「だが……世話になりっぱなしというわけには……」
「だ、か、ら、要らねぇっつってんだろ」
アンダーは、はぁ、と一つ溜め息をつく。
それから呆れたように紅の双眸で目の前の高貴な男をじっと見つめる。
「礼とか要らねーんだよ」
口角を持ち上げなければそれほど大きくない唇が動いて。
「そーゆーの、メンドクサイ」
ぶっきらぼうに言葉を放つ。
「すまない……」
「ま、女受けはいーかもだけどな」
「君にだから贈りたいんだ」
「口説き文句付きかよ。マジ要らねー」
アンダーはほぼ強制的に受け取らされた花束を一旦ベッド脇のテーブルに置く。
「……気持ちだけ受け取っとくわ」
彼は短く言った。
あっさりとした口調ではあったが、冷たくはなく、刺々しさもなかった。
「ありがとう! では、これからも良き友でいてくれ」
「はいはい」
オイラーは知っている。
アンダーという男が本当は優しい心の持ち主であることを。
ぶっきらぼうで、乱暴、言いたいことは言いづらいことでも言う――そんな人間ではあるけれど、その奥底には友を大切にしようという意思だってちゃんと宿っているのだと。
◆終わり◆




