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【タナベ・バトラーズ】オイラー&アンダー 過去エピソード集  作者: 四季


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わざと捕まるアンダーと心配するオイラー (2)

 男に縄で縛られたアンダーが連れていかれた先は山中にぽつんと建った小屋のような場所であった。

 見るからに古そうな建物。扉を開ければ薄暗い世界が広がっている。しかも埃の匂いが強い。呼吸をするたび体内に微細な埃が入り込んでしまいそうなほど。埃臭い空間に慣れていなければ息をすることさえ苦痛になりそうな空間である。


「好みの男、捕まえてきたァ」


 アンダーをそこまで運んだ男が建物内にいた複数の男と合流する。


 複数の男は飾り気のない一室でトランプをして遊んでいた。

 しかし帰ってきた男と彼が抱えている人間の存在に気づくと一斉に視線をそちらへ移す。


「まーた好みの男捕まえてきたん?」

「何やってんねん一体」


 数枚のトランプを手にしている男たちは溜め息をこぼす。


「ただ好みってだけじゃないんだなァ、これが」


 それに対し、アンダーを捕まえて帰還した男は説明のため口を動かす。


「こいつ多分正規軍の人間だァ」


 すると途端に複数いる男たちの表情が大幅に変化した。


「おお! そりゃあいい!」

「そんなやつどうやって捕まえたん!?」

「じゃあ早速遊ぼか!」

「目隠しでもさせて、イタズラしよ!」


 アンダーは地面に放り落とされる。


 乱雑な落とされ方だったので、どん、と強く腰を打った。

 冷たい床に触れた尻辺りの部分にじんわりとした痛みが薄く残る、が、心が折れるほどではない。


 初対面の屈強な男たちに囲まれるアンダーだが動揺はしない。どんな痛い目に遭わされるか分からない状況にあってもアンダーは冷静さを保っていた。しかしそれはある意味当然のことだ。なんせ敵の基地へ入り込むことが目的だったのだから。こういった展開は最初から想定している。


 暫し睨み合いがあった。


 否、正しくは、男たちがアンダーを睨みつけて圧をかけていたのだ。


 だがその最中でさえ彼は冷静で。

 わざと相手を刺激するようなことはせず、しかし自身が置かれた状況に怯えるでもなく、真夜中の湖の水面のような心を保ち続けている。


「武器持ってねぇだろぉなァ」

「持ってねーよ」


 アンダーはぶっきらぼうに返す。


「嘘を言ったら痛い目に遭うから覚悟せえや?」

「はいはい」


 雑な返事をされ苛立った男は反射的に「テメェ!」と叫び縄で縛られたままのアンダーを蹴る。

 蹴り飛ばすつもりでの蹴りだった。

 ただ、男が想定していたよりアンダーの身体はその場から動かず、それによってさらにイラついた男は「あんま舐めんなよ!」と激しく吐き捨てた。


 その後ざっくりとした身体検査が行われた。男らはアンダーの身を探り武器や危険物を隠していないか調べる。しかし、いくら探そうとも持っていないものは持っていないので、結局何も出てこなかった。それでもなお怪しむ男たちであったが、ある程度時間が経つとさすがにもういいかというような雰囲気になってきて、やがて皆諦めた。


 ――奥歯の奥に仕掛けた発信機には誰も気づかないままだ。


「よし、じゃ、こいつ縛って痛めつけよ」

「キタキタ!」

「正規軍にはムカついてんねん」




 腕を掲げた状態で重ね合わすように一つにまとめて縛られた両手首に全体重がかかる。


 足の先を動かしても床らしきところに触れることはない。

 ぎりぎり常に身体が宙に浮く高さでくくられているようだ。


 ただ、目隠しされてしまっているアンダーには、現在の自分の状態を目で見て確認することはできなかった。


「ッ……」


 腹部に走る鋭い痛み。

 棒のような物体で殴られたのだと判断はできる。


 しかし視界を奪われているのが痛い。


 アンダーは勘はそこそこ鋭い。空気の動きにも敏感だ。ゆえに多少視界が悪くともある程度対応はできる。が、知らない場所で腕の自由を奪われたうえ何も見えない状態にされてしまってはさすがに不利。そのような状態でできることといえばダメージを減らすため筋肉に力を入れるくらいが関の山である。


 いざ殴られるまで何でどんな風に殴られるのか分からない、というのは、構え方が分からないという意味で少々厄介だ。


 だがそれでも今はただ耐えるしかない。

 それが今回の任務である。

 今になって気づいたことではない。最初から分かりきっていたことだ。ゆえに過剰に心乱されることはない。


 すべて理解したうえで受け入れてここへ来たのだから。


「泣いて謝っておいらの恋人になるってんなら許してやってもいいけどなァ?」

「マジ黙れ」

「はぁ~ん? そんな口の利き方して、ふざけてると痛い目に遭うってまだ分からないかなァ?」


 ろくに掃除もされていない空間にぱぁんと乾いた音が響く。それは男がアンダーの頬を張った音だった。一瞬くらりとするアンダーだったが、その程度のことで男を恐れることはないし忠実な態度を取ることもない。


「可愛い頬叩かせんなよォ」

「じゃ、うぜぇこと言ってくんじゃねーよ」


 アンダーは態度を大きく変えることはしなかった。


 暴力は怖くない。

 慣れているから。


 男は「はあァァん!?」と語尾を斜め上に持ち上げるような言い方で圧をかける。

 しかしアンダーは僅かに顎を引いて「絡んでくんな」と静かな調子で返すだけ、それ以上何も発さなかった。


 構ってもらえなかったことに不満を感じた男はアンダーの鳩尾を片膝で突き上げる。

 内臓を抉られるような重みのある一撃に息が詰まる――が、彼は冷静さを失うことなく対応し、努力によって正常な呼吸を速やかに取り戻した。

 膝で蹴り上げられることも鳩尾に何かしらの攻撃を食らうことも常に暴力の中で生きてきたアンダーにとっては珍しいことではない。なのでそこまで慌てるような状況ではない。落ち着いて対処する、ただそれだけのこと。


 奥歯に仕込んだ発信機は没収されていない。

 今はそれだけで十分だ。

 いずれ発信機によって敵基地の場所を知った軍の者が、味方が、この場所へやって来るだろう。そうなればアンダーは解放される。そう遠くない未来で救出されるのだから、この一見危機的に思えるような現状さえも過剰に恐れることはないのだ。




 ――だが時はあっという間に流れた。


 一日、二日、確かに過ぎていった。

 それなのに軍の者はまだアンダーを助けに来ない。


「お前さぁ、捨てられたんやできっと」


 男たちは今すぐアンダーを死なせようとは考えていないようだった。なので生きるために必要な最低限のものは与えていた。ただ、その最低限というのは、本当に最低限で。何日か放置されたような気持ち悪さのある水とかび臭いパンの欠片、みたいなものだけしか与えられていないアンダーの身体は徐々に弱り始めてしまう。


「捨て駒お疲れェ!」


 口にするものが少ない、不十分、と言っても、それだけのことであればまだ救いはあっただろう。

 だがこの場合ただ口にするものが足りないというだけの話ではないのだ。

 なんせ今のアンダーは抵抗を一切許されず暴行を加えられ続けるという状況を押し付けられそれから逃れることができないという状態にあるのだから。


「う、っせ、黙れ……」


 ただ飲食物が足りないだけではない。

 その状態で痛めつけられることにも耐えなくてはならない。


 恐らく、普通の環境で普通に育ってきた一般人であれば、このような状況には耐えられなかっただろう。


「今日はもっと虐めようや」

「わくわく」


 だが彼は貧民街の路地裏で育った男。

 穏やかな幸せの中で生きてきた者たちの常識には縛られない。


 救いのない状況においても冷静であり続けられることも、希望を見出せなくても涙流さず心折れず息をしていられることも、すべては生まれゆえに築かれたもの――それは、強さ、だ。

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