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【タナベ・バトラーズ】オイラー&アンダー 過去エピソード集  作者: 四季


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すれ違いの行方 (2)

「何にせよ、捨て子の分際で殿下のご希望に抗うようなことは許されない」

「まぁ確かにアイツ色々抜けてっし変なやつだがなぁ……んな趣味はねぇだろさすがに」


 アンダーとてオイラーのすべてを知っているわけではない。

 だがだからといってどんなことを言われてもそういうものかと受け入れるかといえばそんなことはないのだ。


「早くしろ!」

「ちょーし乗り過ぎだろ」

「脱げ!」

「脱がねぇよ! アホ!」


 反抗的な言葉を返されむきになった上官は部下に指示してアンダーを壁へ押し付けさせる。


「脱がされたいか」

「はは、そりゃさすがに犯罪だろ」

「ならば自分でやれ」

「おいおい。こんなことしていーのかよ。んな悪行ばれたらさすがにクビなんだろ」


 アンダーが嫌み交じりに言うと、上官は乾いた笑みを口もとに滲ませる。


「貴様の言うことなど誰が信じるものか」


 上官はどこまでもアンダーを見下していた。


 彼はそれなりに良い家に生まれた。

 そして子どもの頃から社会における人の階級について教え込まれてきた。


 それゆえ、残念ながら、その胸には階級による差別意識のようなものが濃く刻まれてしまっている。

 己の家柄に誇りを持ち、良き社会のために恥のないように生きる――本来大切なのはその部分であったはずなのに、それを忘れ、ただ貧しい者を差別するだけの男となり下がってしまっているのだ。


「たとえ貴様がこのことを明かしたとて、その言葉を真実と受け取る者などほぼいまい! 上官を貶めたいがための行動と認識されるだけだ」


 上官が触れようとした、瞬間、アンダーはその手を蹴り払った。


 ここまでは我慢した。

 しかしもうこれ以上は絶えられなかった。


 上官の手の甲に赤らみができる。


「貴様ッ!!」


 カッとなる上官。

 まだ赤みの残る手でアンダーの頬を叩くと襟を掴んだ。


 そして、そのまま、掴み上げる。


「ふざけるな!!」


 上官は止まらない。


 怒りに身を任せ鋭く叫ぶ。

 見下している対象の鳩尾を膝で蹴り上げる。


「ッ……」


 上半身の柔らかいところを抉るように膝を入れられ、アンダーは思わず顔をしかめた。


「偉大なる上官に逆らうとどうなるか、今ここで教え込んでやる!!」


 感情に呑まれている上官はさらなる攻撃を仕掛けようとした――が、ちょうどそのタイミングで扉が勢いよく開かれる。


「またですか!」


 現れたのはオイラーだった。


「なっ……」

「そういうことはもうやめてください!」


 高貴な人の姿が視界に入り、上官の顔面は硬直する。


「虐めるのはやめてください」


 未来の国王ともいえる男から真剣な面持ちで頼まれてしまえば上官もさすがに攻撃的な物言いで反撃することはできない。


「彼を解放してください!」


 ――こうして、アンダーはようやく自由になれたのだった。




 自然な流れで隣り合って歩き出すオイラーとアンダー。


 ここしばらく気まずくなっていた二人。

 しかし今はすべてを受け入れるように違和感のない距離感で足を動かしている。


「大丈夫だったかアン」

「ん、問題なし」


 なんてことのない言葉を交わす。


「その……近頃、上手く話ができず、すまなかった」


 やがてオイラーが口を開いた。


「一応聞かせてほしいのだが、噂の通り、アンは私のことを嫌っているのか?」

「んなわけねーだろ」

「だがこの前無礼な言葉選びで怒らせてしまって……」

「ずっと怒ってるなんて言ってねーだろ」


 雑な返し方ではあったがそれでもオイラーは安堵したようで、僅かに頬を緩めて「そ、そうか。なら良かった」とこぼす。


 廊下には二人の足音だけが響いている。


「ところでさ」

「何だろうか」


 少し間があって。


「オレを好き放題してぇってマジか?」

「何の話だ!?」


 ストレートに放たれる問い。

 これにはさすがに愕然として目を見開いてしまうオイラー。


「や、なんかさ、アイツそーいうこと言っててさ」

「なんということだ」

「そ。服脱げとかなんとか」


 信じられない話を聞かされたオイラーは「私はそのようなことを求めてはいない!」と強く訴える。

 それに対してアンダーは呆れたように笑い「そーだろーと思った。あんなやつの言葉なんざ信じてねーけどよ」と返した。


「いちおーな。万が一事実だったらやべぇしな」


 からかうように言われたオイラーは「事実なわけがないだろう……!」と恥ずかしそうな顔をして、それが面白かったのかアンダーはいたずらな笑みを浮かべつつ「けどさぁ、決めつけは良くねーだろ?」などと言葉をかけていた。


「しかし、あの上官は問題ありと言わざるを得ないだろうな」

「それな」

「犯罪者だ。上に報告しようと思う」




 その後、オイラーは軍の上部へ、上官に問題があることを報告した。


 結果上官とその取り巻き的部下は処罰されることとなった。


 上官は軍から追放。

 部下は一定期間の謹慎と減給。


「なので、もうあの男がアンを虐めることはないだろう」


 はりきってアンダーへ成果を報告するオイラー。


「対応早ぇなぁ」

「悪人を放っておくわけにはいかないからな!」


 そうやって主張を聞いてもらえるのも高貴な身分だからだよ、と思いつつも、さすがに嫌み過ぎるので言わないでおくアンダーだった。

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