すれ違いの行方 (1)
あの日、オイラーがやたらと可哀想を連発してしまいそれに不快感を覚えたアンダーが彼の部屋から出ていって、以降二人の間には距離が生まれてしまった。
ただ、距離が生まれてしまった理由がそれだけかというとそうでもない。
加えての理由もある。
というのも、互いが互いを悪く言っているとか嫌っているというような話をそれぞれ吹き込まれていたのである。
アンダーは同僚ともいえる兵士から「殿下、お前のこと嫌いになったってさ」「聞いたんだがな、殿下はお前ともう関わりたくないそうだ。どうせまた無礼な態度でも取ったのだろう? せっかく取り入ってたのに、失敗だな。ざまぁ」などと言われ、オイラーがアンダーに不満を抱いているであったり嫌っているというような噂を吹き込まれた。
ただ、それなりに頭の回転が早いアンダーのことだから、噂は噂として理解し完全に信じ込みはしなかった。
だがオイラーは違った。
周りから「アンダーが悪口言ってましたよ」「このようなことはお伝えしづらいのですが……アンダーのやつ、殿下の文句を大声で言っていました。もう近寄らない方が良いですよ」「殿下、アンダーに嫌われてますよ」などと色々言われた彼は、それを真実として受け入れてしまい、結果アンダーと上手く接することができなくなってしまう。
――結果、無視してしまうこととなった。
アンダーが通りすがりに軽い声かけをしても、オイラーは応じない。
一瞬そちらへ目をやるだけ、表情も硬い。
気まずさゆえに顔面が緊張してそんなことになっているのだが、言わずしてきちんと伝わるわけもなく。
結果、二人の間に溝が生まれてしまう。
最初はオイラーが自身を嫌っているという話を信じなかったアンダーだが、オイラーの態度を見ているうちに徐々にその話も嘘ではないのかもしれないと思うようになって――真実にたどり着けない曖昧さに苛立ったアンダーは、ある時、ついに。
「おい! いーかげんにしろよ!」
すれ違いざまにオイラーを捕まえた。
「アンタさぁ、オレんことここんとこずっと無視してっけどよ、何なんだよ。言いてーことあんならはっきり言えよ!」
アンダーは躊躇うことなく放つ。
しかしオイラーは心を正直に打ち明けることができず、硬直した顔のままでそっけなく「いや、いい」とだけ返してしまう。
「おい! 気に食わねぇことあんなら黙んな! ……ったく、何だアイツ」
オイラーは逃げるようにそそくさと通り過ぎる。
ちょうどそこへ姿を現したのは上官。
これまでも幾度も容赦なくアンダーに罰を与えてきたその男は、大柄な部下二名を引き連れてアンダーに声をかけた。
「話がある」
上官は地鳴りのような声で放つ。
「ついてこい」
その男のことは好きでないアンダーだが、軍内において上下の位置関係であるということもあったため一応従い彼についていくことにした。
たどり着いたのは日頃あまり使われていない基地内の一室。
周囲に人の出入りがある部屋がなく、また、そこで働いている者であっても滅多に立ち入ることのない場所である。
四人全員が部屋に入ったことを確認すると上官は扉をぴしゃりと閉めた。
「ここのところ殿下とは不仲のようだな」
「確かに何か様子変だな。理由知んねーけど。よく分かんねぇなぁ、他人の心ってのは」
上官は口もとに黒い笑みを浮かべ、流れるように部下へアンダーを拘束する指示を出す。
すると部下の男性兵士はアンダーの腕をそれぞれ掴んだ。
反応してから動くまでそう時間はかからないタイプではあるアンダーだが、それでも、突然のことに反応しきれずにいるうちに動きを止められてしまう。
「何のつもりだアンタら」
明らかに不利な状況。
命さえも目の前の者たちに握られているような状態。
だがそれでもアンダーは冷静さを欠いてはいない。
「……敵か?」
「そうではない」
「ちげぇのかよ」
アンダーは唇を尖らせていた。
「殿下からの命令を遂行しているだけだ」
上官は低く告げて。
「服を脱げ」
さらに命令を言い放つ。
「はぁ? わけ分かんねーよ、アンタ、マジで」
「殿下からの命令だ」
「アホか、んなことゆーわけねーだろが」
呆れ顔になるアンダーだが。
「殿下は貴様の忠誠心を試していらっしゃるのだろう」
上官は真面目な顔をしたまま言葉を発している。
「加えて、貴様を好き放題したいという考えも多少持っていらっしゃるようだ」
「んな嘘ゆーなアホ!」
「嘘ではない! 事実だ!」
アンダーの前腕には男性兵士らのごつごつとした指先が食い込んでいる。その食い込みはかなりのもので、今にも痣を作りそうなほどだ。
それでもなお冷静さを失わないアンダーは「人に勝手におかしな性癖付与すんのやめろや」と突っ込みを入れるが上官はあくまで事実であると言い張る。




