写真を撮らせてもらう夜
それはある夜のこと。
消灯時間を少し過ぎてはいるがまだランプの灯りを頼りに読書していたオイラーのもとへアンダーがやって来た。
それ自体は珍しいことではない。
というのも友人になってから彼はたびたび軽いノリでオイラーの部屋へやって来るようになったのだ。
「アン、今日も来てくれたのだな」
「おう」
なんてことのない言葉を交わし、彼を室内へ招き入れる。
だが少しして異変に気づいた。
今日のアンダーは明らかに傷つき汚れているのだ。
セットしている黒髪には乱れがあるし、頬には掠り傷のようなものがいくつもついているし、まとっている服には土か何かの汚れがついているのに加え血を連想させるような赤が付着している。
「……怪我しているじゃないか」
オイラーは思わず発してしまう。
「んー、ま、大したことじゃねーよ」
アンダーは軽くそう言って部屋の奥へ足を進め、床に腰を下ろした。
「任務でバタバタしててさ」
「そ、そうか」
「ちょっと場所借りるわ」
明らかに負傷している様子のアンダーを放っておけないオイラーはさすがに我慢できず「医務室へ行くべきでは……」と意見を述べたが「行かねぇ」とさらりと返されてしまう。
アンダーは衣服を緩め勝手に手当てを始める。
薄暗い中でも慣れた手つきで処置を進めている彼の面に緊迫の色は浮かんでいないが、その様を見つめていたオイラーは本当にこのままで良いのかとそんなことを何度も考えてしまう。
肌が露出するたび、そこに刻まれた傷が目に映る。
明るくはない空間であってもその生々しさが薄れることはなく、そのようなものを見せられては不安が積み重なるばかりだ。
オイラーは傷を目にすることに慣れていないからなおさらだった。
「やはりきちんと治療を受けるべきなのでは……」
「要らねーんだよそんなん」
「なぜ。治療してもらえば治りも早いはずだ」
「自力で治せるんだからいーだろ、めんどくせぇな」
きっとアンダーは少しも期待していないのだ。
誰かに支えてもらうことも。
誰かに助けてもらうことも。
そう理解して、それでもオイラーは納得はできなかった。
「……本当にそれでいいのか?」
「あたりめーだろ」
吐き捨てるアンダーを見つめていたら、オイラーはふと不安になった。
――こうやって誰にも頼らないままいつかふっと消えてしまうのではないか。
そんな考えが脳に浮かんで。
どんな思考も一度生まれる消えないもので。
「つか、何急に黙って――」
「アン」
それを解消する方法なんて思いつかなかった、が。
「撮らせてくれないか」
考えるより早く口から出たのはそんな言葉だった。
「君の姿を永遠に遺したい」
二十代の男にかけるような言葉ではない、それは分かっているけれど。
「は?」
「今の君の姿を写真に撮らせてくれ」
オイラーがあまりにも真剣な面持ちで頼むものだから。
「はああ? 意味分かんねぇ」
アンダーはすっかり怪訝な顔になってしまう。
「ったく、んでこんな時に」
「頼む!」
「もうちょいいーときあんだろ、きれーな時とかさぁ」
「今がいいんだ!」
直後、アンダーは何か察したかのように、にやりと口角を持ち上げた。
「はぁーん。なるほど、そーゆーことか」
意外な流れにきょとんとしてしまうオイラー。
「いい趣味してんなぁ」
何か勘違いされているような気が……、と思いつつも、言わないでおくオイラーだった。
「いーよ、撮りな?」
「ありがとう!」
もし勘違いされているとしても。
どう思われていようとも。
……そんなことは些細なことだ。
大切な友の姿を永遠に手もとに遺せるなら、それでいい。




