明日は休日なのでお菓子食べて過ごす
「アン! 明日はお休みだな!」
それはとある週末の夜。
食堂でエナジーバー的な物を齧っていたアンダーのもとへ、何やら嬉しげな面持ちのオイラーがやって来た。
「ん? あー、そだな」
「疲れているのではないか?」
「んだその嬉しそーな顔」
怪訝な顔をするアンダーとは対照的に。
「せっかくの休日前だ、今夜一緒に遊ぼう!」
オイラーは実に嬉しそうである。
「おいおい。殿下が夜遊びはやべーだろ」
「よ、夜遊び? 何だ? どういうことだ?」
無垢な子どものようにきょとんとしているオイラーを目にしたアンダーは胸の内だけで、こいつそーいうやつだよなぁ、なんて呆れつつ呟いて、しかしそれを実際に口から出すことはしなかった。
「で、遊ぶって何すんだ?」
「ええと……」
「言っとくが女遊びはしねーからな」
きっぱりと言われて。
「お、おお、おん?」
さらにきょとんとしてしまうオイラー。
アンダーは不満げに口もとを尖らせて「あいつら他人んことチビだ何だと馬鹿にしてきやがるから嫌ぇなんだ」と愚痴をこぼす。それに対してオイラーは淡白な表情で「なるほどそういうことか」と口を動かした。
「はぁ!?」
「それがアンの良いところだというのに、その者たちは見る目がないな」
反射的に半分キレたような調子で刺々しく発するアンダーだったが、その直後にかけられた言葉に驚いたような顔をする。
見開かれる目。
赤い瞳はすぐそこにいる無垢な男を捉えている。
「何急に褒めてんだ」
「事実を述べただけだが?」
想像以上に真っ直ぐ返されて。
はあぁ、と長めの溜め息をつくアンダー。
「取り敢えず、今から私の部屋へ来てくれないか?」
「またそーいうのかよ」
「この日のためにお菓子も買ってあるんだ! よければ二人で楽しもう」
子どものような無邪気さを発揮するオイラーに対しては呆れしかないアンダーだが、美味しそうなものへの欲望には叶わなかったようで「オケ」と短く返事をして立ち上がる。
「行くわ」
良い感じの返事を貰えたオイラーは嬉しそうに瞳を輝かせた。
そして二人はオイラーの部屋へ向かうのだった。
オイラーの部屋へ踏み込むと、アンダーはすぐにベッドへ座った。
だがそれは特別なことではない。
彼はベッドに座ったり乗ったりすることが好きなのだ。
心地よさそうなところを見つけるとすぐに乗っかる、それはある意味彼の習性の一つと言えるだろう。
「で、何があんだ?」
オイラーがテーブルの横の引っ掛けにかけていた袋をがさがさを開け始めると、ベッドの上にいたアンダーはのそのそと移動してきて袋の中身を覗き込もうとする。
懐いている動物が餌を貰うのが楽しみで寄ってきている場面を彷彿とさせるような振る舞いである。
「ええと……クッキーとチョコレート、それから、棒状のクッキーにチョコレートをコーティングしたものなど」
「クッキーとチョコレートばっかじゃねーか」
「すまない……美味しそうなものを選んでいたらそんな感じになってしまった……」
しゅんとする高貴な人をよそに、アンダーは袋の中にあった小さめで色鮮やかな紙袋を勝手に摘まみ上げる。
「お、これゼリーじゃん」
言われてハッとするオイラー。
「知っているのか?」
「ゆーめーなやつだろ確か」
「知らなかった……そうだったのか。では、食べたことがあるか?」
二十代にもなった男二人が夜にお菓子を漁って盛り上がっているだなんて稀な光景だろう。
中にはおかしいとか変だとか捉える者もいるだろう。
しかし二人共少しも気にしていない。
珍しいことが悪いことではないと彼らは理解しているし、そもそも最初から社会における普通とはずれている二人だ――ゆえに些細なことは気にしない。
「ねーな」
「そうか……では食べてみてくれ」
「ん、貰うわ」
「もちろんだ」
アンダーは紙袋を開けるとその中に入っていた赤いゼリーを一個取り出して口へ放り込む。咀嚼するたび目もとに光が宿るようだ。そんな彼の様子をじっと見つめるオイラーの面には嬉しさの色がじわじわと広がってゆく。
「美味しかったか?」
「あーうめぇな」
にこにこしていると。
「アンタも食いな」
急に口腔内へゼリーを放り込まれるオイラー。
「……意外にすっきりとした味だ!」
自然な調子で感想を発するその姿に飾り気はなく、国内で三本の指に入るような高貴な人物であると主張する要素はない。
ただ、その一方でどことなく高貴な雰囲気をまとっていることもまた事実であり、それは生まれ持ったものであるとも言えるだろう。
「美味しいな、これは! また今度買ってこよう」
国王の子として生まれたオイラー。
物心つく前に捨てられたアンダー。
真逆、対照的な道を歩んできた彼らだが、弾き合うことなくこうして共に過ごせているのは互いにありのままの姿で相手と向き合えているからだろう。
「ん、いーね。てかそっちのクッキーも食うわ」
「ああ。そうだった。これだな、どうぞ」
こうして二人の夜はまた一つ過ぎてゆく。
なんてことのない、平凡な夜。




